
黒船襲来──そんなテーマで全日本ロードレースに新たな波を起こす。加賀山就臣がドゥカティのファクトリーマシンでJSB1000に参戦する、そのチーム体制発表会がイタリア大使館で行われた。この人がやることは、いつも桁外れた。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●外部リンク:加賀山就臣X(旧Twitter)
勝ちたいからドゥカティを選んだ。日本メーカーに喧嘩を売りに行く
加賀山就臣さんと言えば、スズキで長年にわたってライダーを務め、全日本ロードレースのみならずスーパーバイク世界選手権(WSBK)、英国スーパーバイク世界選手権(BSB)、世界耐久選手権(EWC)を舞台にレース活動を行ってきた。MotoGPにスポット参戦したこともある。
そんな加賀山さんに転機が訪れたのは2022年。春に全日本ロードレースからの現役引退を発表し、それまでもプレイングマネージャーとして活躍してはいたが、運営側に集中していくことになる。そんな年の年末に、スズキがMotoGPをはじめとした主なレース活動から撤退し、社内のレース部門まで解体されてしまったのだ。
「レーシングライダーですからね。スズキの決断の重さは誰よりもよくわかる。かといって自分はモータースポーツを続けたい。そんな思いで、2023年春にドゥカティコルセに企画書を出したんです。以前から繋がりのあったパウロ・チャバティ(ドゥカティコルセのスポーティングディテクター)を通じて、パニガーレV4Rのキット車を貸してくれないか、ヤマハ、ホンダに勝ちたいんだ、って。そして半年が経ち、10月のもてぎの日本GPのときにドゥカティコルセの首脳陣とミーティングして、『お前が今までやってきたことは全部調べた。どうせやるなら我々のチャンピオンマシンを使え』という話になりました」
あっけにとられるような提案だったという。今までにもモータースポーツのさまざまな文化を切り拓いてきた加賀山さんをもってしても驚きだったようだ。
時間は大きく飛んで2024年2月15日。イタリア大使館でDUCATI Team KAGAYAMAの参戦体制発表が行われた。駐日イタリア大使がモータースポーツ(およびドゥカティ)好きだったことなど追い風もあったというが、なにしろモータースポーツのチーム発表をこうした公的機関で開催することは、日本の文化ではまずありえない。
左から、加賀山就臣さん、水野涼選手、MFJ会長 鈴木哲夫さん、ジャンルイジ・ベネデッティ駐日イタリア大使、ドゥカティジャパン マッツ・リンドストレーム社長。イタリア大使館はかつての大名屋敷跡に建てられており、その庭園は都内で最も格式と由緒ある名園のひとつと言われている。原型は沢庵和尚の作との説も。
以前から、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキという大メーカーのお膝元である日本で2輪レースが盛り上がっていない現状を「許せないよね!」と語ってきた加賀山さん。「今までサーキットに行ったことのないライダーを振り向かせたいんです。でも、レースってただ見に行っても面白くない。“応援したい” “見に行きたい”と思えるライダーやマシンがいないと盛り上がれないんです」とも言っている。
だからこそ、かつて全日本ロードレースのパドックにヨーロッパ流のホスピタリティを持ち込んだことと同じ文脈で、今回の『黒船襲来』としたのだと思えてならない。そこには全日本ロードレースに対しあまり本腰を入れていないように見える日本メーカーへの忸怩たる思いもある。
「ドゥカティを選んだのは、当然、勝ちたいから。日本メーカーに喧嘩を売りに行きますよ……って言ったら怒られちゃうかな。でも、サボってたら我々がチャンピオンを獲っちゃいますよと言いたい」
その視線の先にあるのは、全日本ロードレースのチャンピオンだけじゃない。鈴鹿8時間耐久ロードレース、ハチタイ制覇をも見据えている。
ライダーはホンダを離れた水野涼
体制発表会では、昨年までホンダで走っていた水野涼選手がDUCATI Team KAGAYAMAのライダーとして走ることが公の場で改めて発表され、挨拶が行われた。
その後に行われたインタビュー対応では、「勝てる体制で走りたい、そしてその先にある世界選手権へとつながる可能性が高い、それがこのチームに加入した理由です。自分はレーシングライダーとして長く続けたい気持ちよりも目の前の勝利を求めたいんです。日本人がドゥカティのファクトリーマシンに乗れるなんて、まずないチャンス」と水野選手。
さらにこう付け加えた。「レースを知ってもらいたいというよりは、バイクの認知度を上げたい、その先にレース観戦に来てくれる方がいたら歓迎です。こういう派手な発表会もニュースになれば認知度の向上につながるんだと思います。まあでも、加賀山さんは破天荒な人ですからね。あんまり引っ張られすぎないようにしなくちゃ(笑)」
加賀山さんはそんな水野選手に対し、「彼は英国スーパーバイク世界選手権で辛酸を舐めてきましたから。それで日本に帰ってきた2023年シーズン、彼のレースウィークの進め方をライバルとしてコースサイドで見ていたら、意識の持ち方が大きく変わっていたのがわかった。成長しているな、と。悔しい思いをしても腐らず、負けじ魂がある。こんなライダーだったら……と思ったんです」という。
水野涼選手。左が加賀山就臣さん。
2月24日発売のヤングマシン4月号では、DUCATI Team KAGAYAMAのレース活動にとどまらず、加賀山さんが今後どのような活動をしていくのか詳しくインタビューした記事を掲載する。ドゥカティユーザーとハヤブサ、GSX-Rユーザーが、加賀山就臣という男を軸に、一緒にバイク文化を盛り上げていく──そんな未来が見えてきそうだ。
前述のチャバティさんがイタリアから送ったビデオメッセージなど、見所たっぷりの発表会の模様は下記リンクより配信動画でチェックしてみてほしい。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
アプリリアの実力、いよいよ本物か MotoGP第3戦アルゼンチンGPは、アプリリアのアレイシ・エスパルガロが優勝しましたね。自身のグランプリ初優勝、そしてアプリリアにとっても最高峰クラス初優勝です。エ[…]
レース後もファンサービスを続ける、その姿 ホームストレート上で集合写真を撮影し終えた加賀山就臣さんは、集まったハヤブサオーナーたちにお礼とミーティングの散会を告げると、ツナギ姿のまま、おもむろに駆け出[…]
車重が重すぎて、手持ちのサススプリングがない!? 今までに製作記やシェイクダウンの様子をレポートしてきた鐵隼(テツブサ)。その初戦は見事に2位表彰台を獲得という結果となった。車両のシェイクダウンはレー[…]
この「モトライダースフェスタ」は、元レーシングライダーの加賀山就臣さんが理事長を務める一般社団法人モトライダースサポート主催のイベント。昨年が初開催ながら、箱根の複数会場で同時進行するというダイナミッ[…]
11/11に開催されたテイスト・オブ・ツクバの最速クラス「ハーキュリーズ」で、元スズキワークス、現在もJSB1000を走る現役トップライダー・加賀山就臣選手が駆る「カタナ1000R」が、前回大会に続い[…]
最新の関連記事(加賀山就臣)
ファクトリーマシンで参戦するということ 加賀山就臣さんが率いる「DUCATI Team KAGAYAMA」は、2024年の発足以来のピンチに陥った。全日本ロードレース第2戦SUGOの練習走行で転倒から[…]
コースレコード更新、セカンドベストで2日目のポールポジションに 全日本ロードレース選手権第2戦が栃木県・モビリティリゾートもてぎで行われました。極寒だった開幕戦鈴鹿から、ようやく暖かくなってきましたが[…]
ええっ!! あのヒトがペアライダーかよ?! 2024年4月21日に千葉県木更津市のポルシェ・エクスペリエンスセンター東京で開催された「DUCATI DAY 2024」。そのイベント内で、全日本選手権J[…]
イタリアンレッドが鈴鹿で大暴れ?! 全日本ロードレースが開幕! 早くも全面全日本ロードレース選手権シリーズが開幕しました。例年なら、もてぎで事前テストに向けて準備に追われているところですが、今年は1カ[…]
全日本JSB1000クラスにドカのファクトリーマシンで参戦! 箱根のターンパイクを占有してレーシングマシンなどを走らせるビッグイベントを開催したり、鉄フレームのスズキ・ハヤブサ=「鐵隼(テツブサ)」で[…]
最新の関連記事(レース)
本物のMotoGPパーツに触れ、スペシャリストの話を聞く 「MOTUL日本GPテクニカルパドックトーク」と名付けられるこの企画は、青木宣篤さんがナビゲーターを務め、日本GP開催期間にパドック内で、Mo[…]
欲をかきすぎると自滅する 快進撃を続けている、ドゥカティ・レノボチームのマルク・マルケス。最強のライダーに最強のマシンを与えてしまったのですから、誰もが「こうなるだろうな……」と予想した通りのシーズン[…]
作って、触って、攻略する。新感覚のサーキット模型 スマホケースなどの地図柄グッズを手がけるクロスフィールドデザインが、モビリティライフスタイルブランド「レシプロ」の新商品として「レイヤード ランドスケ[…]
辛い土曜日、長島ダム機能せず 「ようやくスタートラインに立てたかな」 全日本ロードレース第4戦もてぎ(2025年8月23日~24日)のレース2を終えた長島哲太は、こう答えた。 会心のレースだった。長島[…]
欧州仕様に準じた仕様でKYB製フロントフォーク、ウイングレット、ブレンボキャリパーなどを採用するR1 2026年シーズンをヤマハ車で戦うライダーに向け、サーキット走行専用モデルの新型「YZF-R1 レ[…]
人気記事ランキング(全体)
日本仕様が出れば車名はスーパーフォアになるか ホンダの名車CB400スーパーフォアが生産終了になって今年ではや3年目。入れ替わるようにカワサキから直列4気筒を搭載する「Ninja ZX-4R」が登場し[…]
トレリスフレーム+ユニトラックサスペンションの本格派 カワサキは欧州で、15psを発揮する水冷125cc単気筒エンジンをスチール製トレリスフレームに搭載し、前後17インチホイールを履かせたフルサイズス[…]
125ccクラス 軽さランキングTOP10 原付二種は免許取得のハードルも低く、手軽に楽しめる最高の相棒だ。とくに重要なのは「軽さ」だろう。軽ければ軽いほど、街中での取り回しは楽になるし、タイトなワイ[…]
高級感漂うゴールドカーキのデザイン 「IQOS ILUMA PRIME ゴールドカーキ」は、その名の通り落ち着いたゴールドトーンとカーキを組み合わせた洗練デザインが特徴です。手に取った瞬間に感じられる[…]
PROGRIP専用の信頼接着剤 デイトナ(Daytona)の「グリップボンド PROGRIP 耐振ゲルタイプ専用 12g 93129」は、PROGRIP用に設計された専用接着剤です。容量は12gで、初[…]
最新の投稿記事(全体)
その姿、まるでハンターカブ×ミニトレ?! タイ仕様は新型に切り替わるとともにカラーバリエーション変更&グラフィックが変更された。 一方ベトナム仕様は、従来モデルを標準仕様として併売。この標準モデルはカ[…]
滑りにくさと耐久性を両立したソール設計 アシックスの安全靴「WINJOB CP113」は、油で劣化しにくく耐久性に優れたCPグリップソールを採用。濡れた床や油で汚れた現場でも安定したグリップ性能を発揮[…]
生産累計1億台、60周年の原点モデル 初代スーパーカブはホンダ創業の本田宗一郎氏と藤澤武夫氏が直接開発の先頭に立ったオートバイ。それに続く東南アジアのドリーム、WAVEなどを含む歴代スーパーカブシリー[…]
W230/MEGURO S1 デビュー応援キャンペーン 株式会社カワサキモータースジャパンが、2025年9月1日(月)より、全国のカワサキプラザにおいて「W230」および「MEGURO S1」の新車([…]
デビュー時は2スト125で敵ナシ状態! 1982年のヤマハRZ125が生んだムーブメントは、高速道路へ入れないマイナーな125スポーツだったのを、2ストの水冷化で通勤通学だけでなくレースへ興じる層が加[…]