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モビリティリゾートもてぎ内のホンダコレクションホールでは、2023年7月22日からMotoGP日本グランプリの決勝レース日となる10月1日まで、「二輪世界グランプリ Garage Collection」を開催している。今回はその特別展示の中から、1979~1985年のGP500レーサーを紹介しよう。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●取材協力:ホンダコレクションホール
前代未聞の機構が満載だった4ストロークV4エンジン
1970年代中盤以降の世界GP500では、長きに渡って王座に君臨してきた4スト3/4気筒のMVアグスタを退け、ヤマハとスズキの2スト4気筒が主役になっていた。そんな状況下で約10年ぶりに最高峰レースに復帰するにあたって、ホンダは4ストV型4気筒のNR500を開発。前代未聞の楕円ピストン+気筒当たり8バルブ(合計32バルブ)を採用したこのマシンは、デビュー時には大きな注目を集めたものの、高回転高出力化を追求しすぎた結果としてトラブルが多発。1979年から参戦を開始した世界GP500では、残念ながら1度も上位でフィニッシュできなかった。
1979 NR500(NR1) 片山敬済
世界GP500では好成績が収められなかったけれど、NR500はホンダ4ストV4の原点。1982年から展開が始まったVF/VFR/RVFシリーズや、2007年以降のRC212/213Vのご先祖様と言えなくはない。
初代NR500はエンジン以外にも、カウルが骨格となるモノコックフレームやアウタースプリング式倒立フォーク、ドライブスプロケットと同軸のスイングアームピボット、サイドラジエターなど、革新的な要素を随所に導入。
1982 NR500(NR4) 木山賢悟
NR2/3がスチールフレームだったのに対して、実戦型の最終仕様となるNR4はアルミフレームを採用。形状はオーソドックスなダブルクレードルだが、ダウンチューブはこだわりの五角断面だ。なお当初は100度だったV4エンジンのシリンダー挟み角は、NR3から90度に変更。
リアサスペンションの構造は世代によって異なる。NR4はショックユニット左右にベルクランクを配置するリンク式。
1983 NR500
NR500を諦めたわけではない……という姿勢を示すためか、1983年の東京モーターショーで、ホンダは随所にカーボンパーツを導入したプロトタイプを公開。この時点での最高出力は、初代+約30psの135psにまで向上していた。
メインフレーム、スイングアーム、前後ホイールなど、最後のNR500は主要部品の多くをカーボン化。フロントフォークはカーボン製インナー+マグネシウム製アウター。
2ストロークV3エンジンで初の世界GP500チャンピオンを獲得
NR500を通じて、4ストと2ストの差異を実感したホンダは、1981年から2ストGP500マシンの開発に着手。V型3気筒(シリンダー挟み角は、1987年以降のNSR500と同じ112度)という特殊なエンジン形式を採用した背景には、軽さと小ささを武器にして、4気筒のライバル勢を打ち負かそうという意図があった。参戦2年目となる1983年には、ケニー・ロバーツ+YZR500との激闘を制し、フレディ・スペンサーがシリーズチャンピオンを獲得。そして1984年には後述するV4エンジンのNSR500とV3エンジンとNS500をコースによって使い分けた。この年、NS500では2勝を挙げている。
1984 NS500(NS2B) フレディ・スペンサー
前年のチャンピオン獲得によりゼッケン#1を付けて走った1984年。この車両はV3エンジンのNS500だ。ちなみに1983年のフレディ・スペンサーが使用したゼッケンは♯3で、王座獲得直後のサーキットでゼッケンが張り替えられた。ちなみに、タイトル写真の♯40は1982年型。
スロットワイヤーはNS500ならではの3本引き。なお2ストV4を搭載するヤマハYZR500の1983年型が140psを発揮したのに対して、NS500の最高出力は130ps前後だった。
2ストロークV4以上に注目を集めた、アップサイドダウン構造
1984年に登場した初代NSR500は、新規開発の2スト90度V4エンジンを導入して140ps以上のパワーを獲得。もっとも馬力以上に大きな注目を集めた要素は、エンジン上に4本のチャンバー、エンジン下にガソリンタンクを配置する、アップサイドダウンレイアウト。その構造は独創性を重視するホンダならではだったものの、シーズン前半はトラブルが続発。フレディ・スペンサーはNSR500で3勝、前述のNS500で2勝を挙げたが、シリーズランキングは4位に沈んだ。
1984 NSR500(NV0A) フレディ・スペンサー
NS500のフレームがダブルクレードだったのに対して、初代NSR500はダウンチューブを廃したうえで、ヘッドパイプとスイングアームピボットをできるだけ直線的に結んだツインチューブタイプを採用。
4本のサイレンサーはテールカウル左右に配置。なお歴代NSR500で、Vバンク間排気(前2気筒は後方排気で・後ろ2気筒は前方排気)を採用したのは1984年型のみ。
二輪世界グランプリ Garage Collection 開催概要
開催日時 | 2023年7/22(土)~10/1(日) |
開催場所 | ホンダコレクションホール 2階・3階中央エリア(モビリティリゾートもてぎ内) |
開館時間 | 9:30~18:00(季節や曜日によって異なる場合があります) |
料金 | 無料(モビリティリゾートもてぎの入場料・駐車料は別途かかります) |
モビリティリゾートもてぎ ■〒321-3597 栃木県芳賀郡茂木町桧山120-1 ■Tel: 0285-64-0001(代表)
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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