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1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第106回は、豪華なプロライダーたちが集ったミザノサーキットのイベントをご報告。
TEXT: Go TAKAHASHI PHOTO: Tetsuya HARADA, Suzuki
バイク好きによる、バイク好きのためのイベント
7月12〜13日、イタリア・ミザノサーキットで行われた「Vmoto International Event At ProDay 2023」に参加してきました。Vmotoはオーストラリアに本社を構える電動バイクメーカーで、生産は中国、ブランディングはイタリアで行っているグローバル企業です。
イベントはなかなかの規模で、全容は僕にはよく分かりませんでした(笑)。基本的には日本でのサーキット走行会と同じで、一般ライダーの方たちがミザノサーキットを走れる、というものですね。その中に、僕のような元レーシングライダーや現役ライダーのプロ占有走行枠がある、という感じかな。
イベントに集った豪華な面々。全部わかるかな?
お客さんは好きな時に僕らの走りを見て、ピットにも入り放題で写真も取り放題という、イタリアらしいフリーダムスタイルですね(笑)。Vmotoが製造しているのは電動スクーターが中心ですが、イベントに集まったのはいわゆる普通のエンジンを搭載したバイクがほとんど。そのあたりもイタリアらしいユルさで、全体的には「バイク好きによる、バイク好きのためのイベント」という感じでした。
集まったプロライダーたちがとにかくスゴイ! GPチャンピオンが僕を含めて4人いましたよ。’06〜’07年の世界GP250で、’10年、’12年、’15年のMotoGPでチャンピオンになったホルヘ・ロレンソ。’81年世界GP500チャンピオンのレジェンド、マルコ・ルッキネリ。そしてこのコラムを読んでいる方ならよくご存じ(笑)、’90〜’91年に世界GP125で、’98年に世界GP250でチャンピオンを獲ったロリス・カピロッシ。そして’93年世界GP250チャンピオンの僕です。
さらにはスーパースポーツ世界選手権チャンピオンで今はドゥカティSBKのコーチを務めているチャズ・デイビス、ドゥカティMotoGPのテストライダーでもあるミケーレ・ピッロ、そして今まさに鈴鹿8耐で活躍しているYARTのニッコロ・カネパまで登場して、会場を盛り上げていました。
2020年にスズキ創業100周年を記念してイタリアで製作された歴代チャンピオンレプリカのGSX-R1000Rのうちの1台。1954年生まれのイタリア人、マルコ・ルッキネリは1981年シーズンに5勝を挙げ、さらに2つの表彰台を追加することでワールドチャンピオンを手にした。この時期のスズキはコンストラクターズタイトルも支配しており、ライダータイトルのトップ10に5台のスズキがいたほど。マルコは「クレイジーホース」のニックネームでも呼ばれていた。
ルッキネリさんはとにかく僕のことが大好きで(笑)、ずっと話しかけてくれました。ドゥカティ・パニガーレV4を走らせる僕を見ては、「現役時代と変わらないね! 時計みたいに精密な走りだ」と喜んでいました。そんな人柄もあって今も人気で、現役当時のカラーリングが施されたGSX-R1000は限定100台があっという間に売り切れたそうです。
ホルヘとは「今、何してんの?」なんて感じで普通に話しましたが、「世界を旅してるんだ……」とのこと。あちこちウロチョロしているようです。ちなみに彼はスペイン人ですが、イタリア語がペラペラ。僕とはイタリア語での会話です。「スペイン語とイタリア語はよく似てる」なんて言われますが、僕からしたらまったく別の言語(笑)。ヨーロピアンの言語能力はすごいもんだな、と思います。
チャズは僕が現役を引退した’02年に世界GP125に参戦し始めたので、今まであまり接点がありませんでしたが、僕とロリスを尊敬してくれているようで、なぜかペコペコ(笑)。「お会いできて光栄です!」みたいな感じで、すごくいい人でした。彼はイギリス人ですが、僕とロリスの前では頑張ってイタリア語で話してくれました。
スーパーバイクの決勝タイムに迫るおじさんたち
みんなすっかりいいおじさんなので、集まるとやれ腹が出ただの、あちこち痛いだの、目が見えないだの、やたらと健康談議になるのは世界共通です(笑)。ロリスとは、「オレもテツヤも太ったけど、ホルヘよりはマシだな……」なんて笑い合ったりしてました。ともにレースを戦った連中が無事に現役生活を終え、こうしてくだらない話ができるのは、すごく幸福なことだと思います。
……などと言いつつ、いざサーキットを走ると結局みんな目玉を三角にしてのタイム競争に(笑)。僕は日本での仕事のことを考えて、現役時代とは逆回りになっていたミザノをまったりと楽しみましたが、みんなはガチ激走(笑)。ルッキネリさんなんか69歳だっていうのにバンバン僕を抜いて行くし、ロリスは「ホルヘよりオレの方が速いぞ!」なんてやり合ってました。
現役のカネパに至っては、持ち込んだYZF-R1のエンジンがブロー(笑)。「みんなノーマル車両なのに、おまえだけチューニング車両だろ!?」「いや、ノーマルだよ!」「そんなはずない。おかしいだろ!」とか、もう笑いが絶えません。
それにしてもみんな本当に速い! 参考までに、6月に同じミザノで行われたスーパーバイク世界選手権の決勝中ベストタイムは、優勝したアルバロ・バウティスタが1分33秒台で、後ろの方のライダーは36秒台、37秒台、という感じです。
それに対してノーマル車両の我々は、ロリスが1分38秒台、ホルヘが1分39秒台で、ほぼ現役のピッロとバリバリ現役のカネパは1分36秒台! タイヤこそスリックでしたが、皆さんが購入するのと同じノーマル状態の車両、しかも気温38℃のサーキット走行会でのこのタイムは、とんでもなく速いことが分かると思います。
イベント前日の夜はロリスの実家に行き、お母さんお手製の晩ご飯をご馳走になりました。彼の実家はイモラの山の中にあるんですが、大地主なんですよ。セスナ機が離発着できる滑走路やヘリポートがあるという、とんでもないスケール感です(笑)。山もいくつあるのか分からないほどの広大さで、そんな所をロリスは5、6歳の頃からモトクロッサーで走り回っていたんですから、「そりゃ速くもなるわ」と思いましたね……。
余談ですが、ロリスといろいろ話している中で、彼がヤマハでGP500を戦っていた’96年に、「テツヤの250ccマシンに乗ったことがあるんだよ」と聞かされました。「エンジンは下がなくて、上は回らなかったのを覚えてるぞ。テツヤ、よくあのマシンでレースしてたな……」と、今になって感心されました。
「いやいや、オレがチャンピオンを獲った’93年は、もっと難しいマシンだったよ」「す、すげぇな……」と驚いていましたね。幼い頃からいくらでもバイクに乗れる環境で育った彼にそう言わせられたわけですから、ちょっとぐらい気持ちよくなってもいいですよね(笑)。
これまた余談ですが、ロリスの実家に向かう途中、道が工事中で信号待ちに。ふと見ると「ロリス・カピロッシコーナー」という看板が立ってました。実家が大地主なだけに、最初は「土地でも売ってるのかな」と思いましたが(笑)、ファンが作った看板とのこと。地域密着型というか、文化として浸透しているというか、このあたりがヨーロッパのうらやましいところです。
イベントの帰りは、キリさんの家に寄りました(註:ピエールフランチェスコ・キリ。世界GPで活躍。原田さんが世界チャンピオンになった’93年のチームメイト。ルーキーだった原田さんの才能をすぐに見抜き、献身的にサポートした)。ひとしきり話をして「じゃ、そろそろ」と帰ろうとすると、「晩飯食って行けよ」とのことで、結局ご馳走に。いい時間になりました。
ヨーロッパでそんな充実の時間を過ごして、今は日本に来ています。モビリティリゾートもてぎで行われた「もて耐」にライダーとして参戦し、今週末はNCXX RACING with RIDERS CLUBの監督として、鈴鹿8耐です。多くの方が鈴鹿サーキットに足を運んでくださると思いますが、くれぐれも暑さ対策を心がけて、一緒にレースの夏を満喫しましょう! もて耐と鈴鹿8耐の話は、次回のコラムをお楽しみに。
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