
ヤマハ入魂の新生YZF-R7は、MT-07をベースとしたミドルクラスの並列2気筒フルカウルスーパースポーツ。このマシンが峠にも向いているバイクなのはわかるが、同じ排気量帯のライバル車種と比べてどうなのか? 単純な運動性能の優劣だけでなく、それぞれの良さや特徴も紐解きながら、峠道でもっとも輝くモデルを探した。
●まとめ:ヤングマシン編集部(田宮徹) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:ヤマハ
[1番勝負] vs アプリリアRS660:速さではRSに軍配が上がるも、R7の扱いやすさは秀逸だった
YZF‐R7のライバルとして、今回は3機種を用意。このうち、当初からもっともガチンコ対決になりそうと予想していたのが、アプリリアのRS660だ。
トラクションコントロールさえ装備しないシンプル装備で価格低減を図ってきたR7に対して、RSは最新電子制御がてんこ盛り。エンジンは同じ270度クランクの並列2気筒だが、73psのR7に対してRSは101psと、28psも開きがある。また車体も、スチール製フレームのR7に対して、RSはアルミ製のメインフレームが奢られている。
これらの違いにより、RS660はまずYZF-R7と比べてパワーフィールにだいぶ力強さが感じられる。中回転域トルクもかなりあり、ドカーンと加速するVツインのようなフィーリングで、峠道を走らせるモデルとしては十分すぎるほど速い。ミドルクラスのパラレルツインエンジンとしては、間違いなく最強レベルだ。
シフトアップ&ダウンの双方向に対応するクイックシフターを、今回揃えたモデルの中では唯一標準装備していて、これもまたスポーティなイメージを高める要素になっている。
車重そのものも183kgと軽いが、ハンドリングは軽快。前後サスペンションはややハードなセッティングで、しっかり荷重をかけて曲げていくタイプだ。
これらのことから、”ワインディングやサーキットでの楽しさ”を追求しているマシンという点は同様ながら、YZF-R7と比べてRS660のほうが、よりサーキット走行を守備範囲として意識しているイメージがある。また、もしサーキットで競ったとしたらRS660のほうが速いだろう。
ただし、意識的に荷重をかけずとも高い旋回力を生み、エンジン特性が滑らかなR7のほうが、峠道で扱いやすさを感じられる瞬間は少なくなく、ライダーの”手の内にある”ということでは、YZF-R7はまるで負けていなかった。
[2番勝負] vs ホンダCBR650R:4気筒モデルとしてはマイルドなCBR650Rも、ちょうどいい対抗馬!?
ホンダからは今回、レースでも活躍する超本格派スーパースポーツのCBR600RRではなく、同じく並列4気筒エンジンを搭載するがストリートでの性能に主眼を置いたCBR650Rをチョイス。フルカウルをまとうミドルスポーツだ。
排気量は648ccながら、4気筒エンジンを搭載しているとあって、車重は今回集めた車種ではもっとも重い206kg。R7とは18kgの差がある。実際に走り始めても、2気筒エンジンのライバルと比べて全体的にズシッとした重さがあり、スペック以上の差を感じる。このあたりは、4気筒エンジンがもたらす回転物の慣性が影響しているのだろう。
エンジンフィールは、さすがの4気筒。まず、2気筒と比べて振動は圧倒的に少なく、排気音は「これぞSS」といった感じだ。最高出力は95psで、YZF-R7と比べて速さもある。
ただしこのエンジン、高回転までストレスなく吹け上がるのだけど、本来のスーパースポーツに使われる高性能な並列4気筒のように高回転域がパキーンとしているわけではない。4気筒としてはかなりフラットなエンジン特性で、スポーツ性よりも乗りやすさを追求していることがよく伝わってくる。
曲がるか曲がらないか…ということでは、YZF-R7のほうが車体の軽さと足の柔らかさを利用しながらよく曲がる印象。CBRもリヤサスペンションはソフトだが、その乗り味はスポーツとツアラーの中間といったイメージがある。
もちろん、CBR650Rでも峠道は楽しく走れるし、並列4気筒エンジンのサウンドはライダーをその気にさせるが、スーパースポーツらしさという点ではYZF-R7が上だろう。
[3番勝負] vs カワサキ ニンジャ650:精悍なルックスだが、ニンジャ650は比べてみたらツアラーだった!?
カワサキにも、YZF-R7と同排気量帯で同じく並列2気筒エンジンを採用したフルカウルスポーツモデルがある。それがニンジャ650だ。排気量は649ccで、R7より39cc少なく、最高出力は-5psの68ps。YZF-R7やRSが刺激的な出力特性になりやすい270度クランクなのに対して、ニンジャはフラットな特性を持つ180度クランクが選択されている。
シート高は790mmと、今回集めた車両のうちではもっとも低く、それに対してハンドル位置は高い。そのため、またがった瞬間からスーパースポーツのイメージにはだいぶ遠い。ワインディングを走っているときでも、前傾姿勢でフロント荷重を強めて操るという気分にはなりにくく、まるでネイキッドバイクのよう。実際、視界にスクリーンが入ってくることもほとんどないのだ。
エンジンフィールも、あくまでパラレルツインのドゥルルル…とした感触。加速も優しく、高回転域まで回るには回るけど、R7のようにそれが楽しいというイメージではなく、低中回転域でのトルク感が重視されている。
しかしながらこのニンジャ、峠道でもただただ乗りやすい。足まわりは柔らかいし、高い視線からコーナーの先を広く見渡しながら駆け抜けられる。”リヤタイヤに乗る”という感覚が常にあり、YZF-R7のようなスーパースポーツらしさは味わえないが、”スーパースポーツの皮を被ったツアラー”としては、非常に良いパッケージとなっている。
丸山浩の総括:スーパースポーツらしさと敷居の低さで、峠道ではR7が素晴らしい
同じ国内メーカーのYZF-R7/CBR650R/ニンジャ650を比較すると、もっともスーパースポーツらしさがあるのはYZF-R7。CBR650Rは万能系、ニンジャ650はツアラーといった印象で、峠道をもっとも楽しく攻められるのは間違いなくYZF-R7だった。対してRS660との比較では、どちらにもアドバンテージとなるポイントがある。エンジンの速さではRS660が勝るし、価格帯がかなり上である代わりにライディングモードやトラクションコントロールやクイックシフターといった電子制御が満載されていて、これもYZF-R7にはない大きな魅力だ。
ただし、YZF-R7の実質的な乗りやすさは秀逸。ソフトな足まわりで車体の姿勢変化を作りやすく、それによって抜群の旋回力を得やすい。”ハードルが高くないスーパースポーツ”というパッケージがうまく演出されている。
本格的になりすぎれば、そのぶん価格も上がってしまうし、誰もが簡単に扱えない性能になりやすい。しかしそれでは、これまでの4気筒ミドルスーパースポーツと同じ。YZF-R7が目指すのは、”速さ”ではない、峠道での”楽しさ”なのだ。
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