新型ヤマハYZF-R7開発者インタビュー【目指したのは”走りを極める”楽しさ】


●まとめ:ヤングマシン編集部(宮田健一) ●撮影:真弓悟史 ●外部リンク:ヤマハ

――まずは新型R7誕生に至るまでの経緯を教えてください。

開発のスタートは’18年になります。YZF‐R1やR6が”Track Master”としてサーキットを極めることを目標にするハイエキスパート向けへの発展を進めていく過程で、R25やR3からエントリーしたユーザーたちの次なるステップアップ対象となるYZF‐Rがすっぽり抜けており、そこを何とかしなければという思いがありました。

その一方で、以前からアメリカの草レース界ではMT‐07の改造車でレースを楽しむというカルチャーも盛んになっていたんです。USヤマハもそれを応援していたのですが、やがてメーカーとして最初から作り込んだ完成車が欲しいという声も大きくなっていました。

そこで現地から送られてきた試作車を日本でテストしてみたところ、これは面白いバイクができそうだと好評価になり、最終的なGOサインにつながったのです。

R1やR6に対し、R7は走る/操る楽しさを極めることを一番とする”Fun Master”をコンセプトに据えて開発。”毎日乗れる”がコンセプトのR25/R3からもっと上を狙いたくなったライダーのために、本格的なスーパースポーツとしてのスタイルやライディングポジション、サーキットにも挑戦したくなる確かな走行性能を持つマシンとして開発しました。

左から車両操安の瀬藤弘臣氏、車両実験の蓮見洋祐氏、車体設計の脇本洋治郎氏、プロジェクトリーダーの今村充利氏、デザインの木下保宏氏、商品企画の兎田潤一氏ら開発スタッフの面々たち。他にもエンジン設計の中川利正氏、エンジン実験の大家竜太氏、電装設計の佐藤俊氏など多くのスタッフが携わった。

――そのためにMTから手を加える必要があった部分はどこですか?

MTは軽快さが光る反面、サーキットの速度域となると安定性や剛性がもっと欲しくなりました。そのために倒立フォークを採用したのですが、それだけだと今度はリヤ側が負けてくるようになるんですね。リヤが遅れて付いてくるようなハンドリングになってしまったのです。そこでセンターブレースを金属製にしてリブも入れ、強度部材にするといった方法でバランスを取りました。またフォークオフセットやリヤサスペンションリンク長を変更して、SSらしい前下がりの姿勢で攻めやすくするとともに、軽快性と直進安定性のバランスも取りました。このバランスの取り方は大変だったんです。トップブリッジひとつ取っても、適正剛性を導くために厚みを変えたり肉を抜いたり埋めたりと、ひと筋縄ではいきませんでした。

リーズナブルな価格を実現するというテーマもありましたので、エンジンはECUを含めて極力MTから手を入れずに開発したのですが、ここは元々の素性が良かったので助かりました。ただ、2次減速比を変更してSSらしい伸びを実現したり、サーキット走行に不可欠なアシスト&スリッパークラッチは今入れないでどうすると、譲れないこだわりは守りました。

また、デザイン面もこだわりました。YZF‐Rシリーズで随一のスリムさを実現するためにマフラーギリギリまで追い込んだカウルは、とうとうアンダー部分を熱に強いアルミ製にしてしまったほどです。

開発者たちはワインディングでスーパースポーツの走りに目覚め、サーキットに挑戦したくなるようなバイクを目指した。

――純正アクセサリーにR1やR6用パーツのいくつかが共通品になっていると聞きましたが?

専用品で作るとどうしてもコストが高くなってしまうため、リーズナブルという点では純正アクセサリーに至るまで考えて設計しました。またカウルへの加工なしでフレームスライダーが装着できる設計にもしましたので、随分ハードルが低くなっていると思います。ユーザーの心情として、愛車に穴を開けるというのは勇気がいると思いますからね。

――おかげで若いライダーだけでなく、昔レプリカに乗っていたオジサンたちもスポーツライディングの世界に復帰してみたくなりそうです。そういえば昔からのライダーでは旧YZF‐R7(OW‐02)と比べる人も多かったのでは?

OW‐02はレースでの究極の速さを目指したモデル。たしかに「R7」でいいのか、「R07」などにした方がいいのではといった議論はありました。しかしステージこそ違えど、私たちのR7も走る楽しさを伝える点ではどれにも負けない本気の作り込みをしたという自信があります。

OW‐02は発売当時、スーパーバイクの世界をもっと広げるという使命を帯びていたと思います。開発者としては、私たちの新R7がスポーツライディングの楽しみをもっと大きく世界に広めることで、OW‐02のようなスーパーモデルがバンバン求められるようなアツい時代が再び来ることを願っています。実はそのことが我々のR7が目指すべき最大の使命なのかもしれません。

ETCアンテナや社外メーターなどの取付を考慮した気配りデザイン&設計も特徴だ。


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