●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:真弓悟史、Honda
超ロングストローク設定の空冷単気筒348ccを搭載し、55万円という買いやすい価格設定で話題沸騰のホンダ「GB350」。2021年4月22日の発売日を前に、メディア向け試乗会で乗ることができたので、そこで感じた『期待通り』と『期待以上』についてインプレッションをお届けしたい。
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“キング乗り”の堂々車格と、力強く路面をヒットする単気筒
「ストトトト」と低めのハスキーサウンドでアイドリングする空冷単気筒エンジン、クリアに伝わってくるトラクションやヒット感、そして街中のUターンも峠道のコーナリングも自由自在のハンドリング。小回りが楽しく、クルージングも気持ちよく、ヤル気になっても程好い昂奮を与えてくれる。こんなバイクが55万円で買えるなんて……。
ホンダが満を持して発売する「GB350」は、しみじみ『カッコいいなあ……』と思えるデザインと、バイクを本当に好きな連中が仕上げたのだなと思えるような仕掛けが随所に感じられる、ユルさとマニアックさが同居した単気筒ベーシックスポーツだ。
ヤングマシンでは、インドにおける「ハイネスCB350(GB350のインド名)」が2020年9月末に発表されてから、おそらく日本で一番といえそうなほど、たくさんの関連記事を掲載してきた。そのきっかけとなったのは、発表前に公開されたティーザー映像で聞けた“いかにもロングストロークです”と言わんばかりのサウンドが今までのホンダと違う気配を感じさせたこと、そして実際のスペックやデザインが心に引っかかりまくったことだった。
吸って、跳ねて、吐く。そして蹴る
バイクはエンジンを懐の直下に抱えて走ることから、どんなエンジンを搭載するかが乗り味を極めて大きく左右する乗り物だ。
アクセルグリップでワイヤーを引き、スロットルバルブが開く。エンジンが欲するだけの空気とガソリンが供給され、圧縮された混合気に点火すれば爆発(正確には燃焼)によってピストンが押し下げられ、駆動系を伝わった動力が後輪を回し、タイヤが路面を蹴る。このシンプルなやり取りこそが、バイクを操る楽しみの原点といっていいだろう。
なかでも単気筒エンジンは、ピストンがひとつしかないシンプルな構造ゆえに、『吸って、燃えて、吐く』という吸気~圧縮~爆発~排気の行程をアクセルで操る感覚が明瞭。旧車と呼ばれる年代のものほど、このフィーリングは濃厚だ。
GB350は、そんな原始的な快感がとてもピュアに造り込まれている。
セルボタンひとつでエンジンを始動し、冷えている間は高めだったアイドリングが低い回転で落ち着いていく。そんなさまを見ているだけでも飽きない。跨がれば、重たい鉄の部品(=クランク)がグルングルンと回っている感覚も、ありありと伝わってくる。
そして、アクセルをひねれば混合気が供給され、圧縮された混合気に点火すればピストンが跳ねるような感じ(実際の上下方向の振動は小さい)とともに、ハスキーで野太い排気音が『トンッ』と響く。
ここでアクセルを素早くひねりすぎると、エンジンは『モガッ』という、何かきっかけを逃したような反応となり、跳ね感は味わえない。あくまでも“エンジンが欲しがる上限ギリギリ”の混合気を供給するのがコツだ。
そんなふうに、バイクを停めてブリッピングしているだけで悦に入る。上手く開ければ排気音はさらに野太く、力強くなる。これでノーマルマフラー、ノーマルエンジンというから驚くほかない。
さあ、走り出そう。異様に軽いクラッチレバーを握り、チェンジペダルを踏み込んで1速に入れる。アクセルを少しひねりながらクラッチを繋いでいき、止まりそうで止まらない低い回転で発進する。この低回転の粘りはすごい。
不安を感じさせるようなことは何ひとつ起こらず、気持ちよく加速。シーソー式のチェンジペダルを採用しているが、中身は普通のリターン式5速なので、いつもと同じようにペダルをかき上げるか、後ろのペダルを踏み込むかでシフトアップしていく。
この“ただ加速していく”だけの作業が、たまらなく気持ちいい。エンジンの跳ね感、そして後輪の蹴り出し感をアクセルでコントロールするさまは、まるで右手がリヤタイヤに直結しているかのようだ。優しく穏やかな加速も、力強い加速も思いのまま。右手でエンジンに吸わせると、ピストンが跳ねて、その駆動力の波がダイレクトに路面にヒットする。同時に聞こえる『トンッ』という小気味よい排気音……。
素晴らしいと思ったのは、これが高回転域になっても持続することだった。普通は排気音や跳ね感が徐々にさまざまな振動と混ざり合って、回せば回すほど、ただの連続音になりがちなところだが、GB350は音のツブ感が明瞭なまま『ダダダダダッ』と路面を蹴り続け、跳ね感が失われない。
それでいて、穏やかに加速する場合にはまろやかなフィーリングだけが残る。開ければあれほど明瞭に路面を蹴るのに、穏やかな気分で乗りたいときは振動にまったくといっていいほど角がない。
ロングストローク設定の空冷単気筒であることが分かってから、このフラットなトルク特性やまろやかな回転感覚は期待していたが、前述の跳ね感やダイレクトなヒット感は想定外。見方によっては“たったの”20馬力だが、3000回転で3.0kg-mのトルクを発生する348ccの原動機は、予想以上に気持ちよさのカタマリだったのだ。
さらに、このエンジンをワインディングロードに持ち込むと、これまた最高だった。バイクを積極的に走らせるときの気持ちよさはスロットル全開の時間に比例すると信じている筆者にとって、低中回転から駆け上がるように続く力強いトルクを活かしながら、気ぜわしいシフトアップを必要とせず息の長い加速を味わえる時間は、まさに至福。
どの回転域を使っても、非力なエンジンが一所懸命に回っているような感じにはならず、ひたすら跳ね感と駆動トルクのツブ感、そしてトラクションを味わうことに没頭できる。特に上り勾配であれば、全開時間を長く取っても危険な領域に踏み込むことはなく、タイヤが路面を蹴った反力がシートから伝わってくるさまや、アクセルのひねり具合で変化するドコドコ音の違いなんかをひたすら楽しむことができる。そして、これらを味わうのに、深いバンク角や他者を威圧するようなスピードは必要ない。
こうした楽しさを生み出すためのロングストローク設定であり、新しい構造のバランサーであり、サウンドや駆動系のチューニングであったのだと理解できたとき、とにかくバイクを大好きな人々が作ったバイクなのだということが、身体を通して伝わってきたような気がした。
細かい技術解説についてはまたの機会としたいが、控えめなハブダンパーや硬めのクラッチダンパーといった影の立役者が、本当にいい仕事をしているように思う。
エンジンのフィーリングだけで2000文字以上も書いてしまったが、それほど身体に残った衝撃と悦びは大きく、心地よいものだった。
付け加えるなら、アクセルを戻した際の「フルルルッ」という柔らかい振動と、重いクランクならではのゆったりした回転下降もまた気持ちがよかった。バランサーによって不快な振動は抑制し、けれど消し切らず、原動機が働いている様子をしっかりと伝えつつも、駆動パルス(燃焼トルク)はクリアかつダイレクトに際立たせる。いやもうホントに気持ちいいのである。
自在感がたまらない車体づくり
ハンドリングも、負けず劣らず気持ちいい。まずライディングポジションは、インドでいう“キングポジション”というものらしく、扱いやすくライダーが立派に見える構成になっている。日本で言えば昔からある“殿様乗り”に相当するものと解釈してよさそうだ。
このライディングポジションはスーパーカブなどに近い設定とされていて、ニーグリップを意識しなくても自然に操れるようになっている。
GB350の車体の考え方は「自信をもって操る姿こそが美しい」というもので、デザインの時点でもバイクにライダーがまたがった姿を常に描きながら進められたという。そんな考え方がディメンション作りやライディングポジション作りに色濃く反映され、さらには操作感覚にも反映されている。
バイクの開発は常に乗り手を主体にしている、とホンダの歴代開発者は言うだろうが、このような「ライダーこそが……」という言い回しや手法で表現してきたことは記憶にない。ここにホンダの新しい風を感じずにはいられないのだ。
車体の自在感の核となるのは何か。それは、エンジンのフィーリングにも似た部分はあったが、全ての操作に対して“絶妙な遅れ”をともなってしっかりとレスポンスすることだと思う。ブレーキパッドは穏やかに食いつき、それでいてレバーを握り込めばしっかりと制動力が立ち上がる設定。サスペンションも、ソフトなようで中間からはコシ感がある。フレームも、ネックまわりを中心にフレックス性を持たせているが、全体にフニャフニャしているわけではなく足元には剛性が感じられる。
そんな特性だから、走り出してすぐに躊躇なくUターンもできてしまう。ハンドルの切れ角は43度とオフロード車並みで、小回りも利くし、低速で粘るエンジンや軽いクラッチ、カツンとこないブレーキなど、すべてがライダーの感覚を追い越すことなく、絶妙に追従してくるのでとにかく扱いやすい。
さらに、ワインディングロードに持ち込めば、鋭く曲がるというわけではないが軽快に切り返すことができ、コーナー後半ではトラクションをかけながら曲がっていくことも自在にできる。コーナーへの進入では、ブレーキを残せばそれなりに旋回のきっかけを作ることもできるし、そんなことを考えずに気持ちよく倒し込むこともできる。19インチのフロントホイールは、絶妙な遅れをともなって追従してくるので、どんな曲率のカーブでも怖さを感じることは少ないだろう。18インチのリヤタイヤは、その細さゆえに面圧の高まりを感じ取りやすく、車体を傾けることやスロットルを開けることに躊躇が要らない。
こんなふうにGB350は、飛ばさなくても楽しいし、飛ばさない中に「操作を工夫していく」というスポーツ性を見出だすこともできるのだ。もちろん、力強いトラクションをフル活用すれば、20馬力という数値からは想像できないほどのスポーティな走りも可能だ。
インド向けの考え方と日本の伝統をハイブリッドした、いわばキング乗りとでも名付ければいいのか、堂々としたライディングポジションで自由自在に操れる感じとライダーを急かさないエンジン&車体は、目的もなくただバイクに乗るためだけの時間を作りたくなる、そんな体験をもたらしてくれた。
そうそう、未舗装路も多いインドの道路状況を想定していることもあって、ちょっとしたダートは問題なく走れたこともお伝えしておこう。最低地上高は166mmあり、水平面を広く取ったシートはコントロールもしやすかった。砂利道でのトラコンやABSも、確実に前に進むしちゃんと止まるという働き方で好感が持てた。
ただの懐古趣味ではなく。かといって新しさの追求をことさらにアピールするわけでもない。本当にいいバイクだと自信をもって言いたくなるGB350が、発売前から多くのユーザーに受け入れられているという事実(すでに3000台近くを受注しているのだとか)に、やっぱりいいバイクというのは世代など関係なく伝わるものなのだなぁと、なんだかうれしくなってしまうのであった。
兄弟車のGB350Sは7月15日発売なので、またその頃にインプレッションをお届けしたいと思う。デザインやホイールサイズだけでなく、エンジンもマッピングが異なると言うので、どのくらい違うのか楽しみで仕方がない。
HONDA GB350[2021 model]
これぞ、みんなが待っていた新世代の単気筒スタンダード! 丸型ケースに収められたLEDヘッドライトにシンプルな造形の燃料タンク、そしてダブルシートへの流れるような水平ライン。ほぼ垂直に立った単気筒エンジンのシリンダーには冷却フィンが刻まれ、空冷であるこをと誇示している。2本ショックのリヤサスペンションにスチール製の前後フェンダー、リラックスしたライディングポジションなど、普遍的なバイクらしさをたたえたこのバイクの名は「GB350」だ。
単気筒トラディショナルバイクとして43年の歴史を刻んできたヤマハSR400がファイナルエディションとなったこのタイミングで、入れ替わるように登場することになるGB350。かつて存在したSR500をも超えるロングストローク設定の空冷単気筒エンジンを搭載し、“バイクらしいバイク”を求める層だけでなくシングルマニアにも注目されている。
灯火類はすべてLEDで、ホンダセレクタブルトルクコントロール(HSTC=いわゆるトラクションコントロールシステムに相当)など装備も現代的だ。
【HONDA GB350[2021 model]】主要諸元■全長2180 全幅800 全高1105 軸距1440 シート高800(各mm) 車重180kg(装備)■空冷4ストローク単気筒SOHC 348cc ボアストローク70.0×90.5mm 20ps/5500rpm 3.0kg-m/3000rpm 変速機5段 燃料タンク容量15L■キャスター27°30′/120mm ブレーキF=φ310mmディスク+2ポットキャリパー R=φ240mmディスク+1ポットキャリパー タイヤサイズF=100/90-19 R=130/70-18 ●価格:55万円 ●色:青、赤、黒 ●発売日:2021年4月22日
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