永遠に色褪せぬ2輪デザインの金字塔・スズキGSX1100Sカタナ。その走りを末永く楽しむには、何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろう? 本記事では、この1台を知り尽くす専門家・ユニコーンジャパン池田隆代表のインタビューをお届けする。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 YM ARCHIVES ●取材協力:ユニコーンジャパン 素性が不明の中古車で、絶好調の可能性はほぼゼロ 正確な統計を取ったわけではないものの、'[…]
完調カタナを味わうためには”まとめ整備”が重要
「世界でもっともカタナを熟知した人」 ユニコーンジャパンの池田氏を語るうえで、これほど最適な言葉はないだろう。’85年に自身のショップを立ち上げた池田氏は、当初からカタナの整備/カスタム/オリジナルパーツ開発を主軸に据え、近年はコンプリートマシン製作にも力を注いでいるのだから。
そんな池田氏に最初に聞いてみたいのは、カタナの中古車の現状だ。「状況はかなりのハイペースで悪くなっています。当社に入庫する中古車や、無料問診を受けに来たお客さんの愛車を点検すると、ひと昔前は軽整備でOKという個体がありましたが、最近はカタナ本来の調子を取り戻すために、50〜80万円前後の整備費用がかかる車両がほとんど。生産年を考えれば、それはまぁ当然とも言えますけどね」
もっとも世の中には、”整備済み”と称した100万円前後のカタナが少なからず存在する。そんな状況を池田氏はどう感じているのだろうか。「何をもって整備済みとするかは、ショップや人によって異なるんです。オイルとバッテリーを交換して整備済みとする人もいれば、最低でもタイヤやブレーキパッドを新品にする人、私のように新車時の調子を取り戻すことが整備と考える人もいる。いずれにしてもカタナの本質を味わいたいなら、この機種の構造を熟知したメカニックが在籍する信頼できるショップを選ぶべきだし、そういうショップであれば、今の時代にカタナを100万円前後で売るのは難しいと思いますよ」
池田氏はそう語るものの、たとえば調子の悪いカタナを入手して、少しずつ好調に近づけていくという楽しみ方もアリではないだろうか。「ナシではないですが、中古車全体の程度が悪くなった現状を考えると、普通のライダーがそういうバイクライフを楽しめるとは思えませんし、車両の不調は危険に直結しますから、オススメはできません。もちろん、購入金額を少しでも抑えたい気持ちはわかりますが、せっかくカタナに乗るなら、私としては最初からまとめて整備を行って、ベストの状態で楽しんでほしい。トータルで考えると、きちんと整備した車両を買った方が以後の出費を抑えられますからね。ちなみに十数年前までは、コストを抑えるために750を選択する人がいましたが、部品の供給状況を考えると、最近は1100より750のほうが整備/維持費用は高くなっています」
実際に好調のカタナを入手した場合、何か注意することはあるのだろうか。「マメに乗ること…ぐらいでしょうか。現行車と同じとは言いませんが、いったん完調を取り戻せば、カタナはそう簡単に壊れないんですよ。エンジンは10万kmは余裕でもちますし、車体や電装系にもコレといった弱点はありません。あえて注意点を挙げるとすれば、補修部品をある程度ストックしておくことと、異変を感じたらすぐ主治医に相談することぐらいです」
カスタムについてはどうだろう。ひと昔前のカタナには、いじってナンボという風潮があった気がするが…。「最近ではその風潮は少なくなりました。当社のお客さんの比率で言うと、フルカスタム派は2割くらいで、8割はノーマルかライトカスタムです。私はどちらのカタナも好きですが、初めてのお客さんには、やっぱりノーマルを乗り込んでほしいですね。なお、当社が販売する認定コンプリート車「プレミアム」と「ヘリテイジ」は、基本的にノーマルルックが前提ですが、ドライブチェーンの630→530化と、クラッチの操作力を軽減する3点セットの導入、オーリンズ製リヤショックの採用が定番になっています」
当企画を読んでカタナの購入を考えたライダーに対して、池田氏はどんなアドバイスをするのだろう。「とりあえず、当社に遊びに来てください(笑) カタナに関する質問なら、どんなことででもお答えしますから。それはさておき、カタナの車両と純正部品の価格は着実に上がっているので、購入を考えている方は、なるべく早めの決断をしたほうがいと思いますよ」
メンテナンスコスト:ユニコーンジャパンの場合
ユニコーンジャパンでは、カタナユーザーを対象としてさまざまなメンテナンスメニューを設定している。
- メンテナンスプランA2セット(エンジン関連+オリジナル100項目):約11万円
- メンテナンスプランBセット(車体各部のベアリング関連):約11万円
- フロントフォークのオーバーホール(部品代含む):約4万4000円
- 前後ブレーキのオーバーホール(部品代含む):約3万5000円
依頼の多い整備内容をセットにしたのがプランAとBで、基本と言うべきA2はキャブレターOH+タペット調整+約100項目の点検整備(クラッチセンターロックナットの対策を行うA1はプラス2万2000円)。車体に特化したBはステアリングステム+スイングアームピボット+ホイール&ハブベアリングの交換/調整。もちろん各作業は個別での依頼も受け付けるが、セットを選択したほうがコストは安く抑えられる。なお価格は取材時点(’20年8月)のもので、ここ最近の純正部品の高騰を考えると、今後はプラス数千円~数万円になる可能性がある。
ユニコーンオリジナルパーツ:かゆいところに手が届くのは専門店ならでは
’85年の創業以来、ユニコーンでは多種多様なカタナ用オリジナルパーツを開発してきた。’90年代までは運動性や快適性を高めるパーツが主力だったものの、’00年代以降は純正の代替品となるリプロパーツが増加。ただし、同社のリプロパーツの大半は単純な純正の復刻版ではなく、弱点の対策や品質の向上など、独自のアイデアを盛り込んでいる。
〈まとめ〉いったん完調を取り戻せば、以後の維持は意外に容易
誕生から20~40年が経過したカタナの本質を味わうためには、各部の徹底的な整備が必要。もっともそれはあらゆる旧車に通じる話だが、カタナの場合はエンジンが抜群の耐久性を備えているうえに、弱点と言うべき要素はほとんど存在しないし、また現時点なら補修部品の入手で困ることはないので、いったん完調状態を実現すれば以後の維持は容易な方だろう。
これからGSX1100Sカタナに乗るのなら…、
- 其之一:整備はまとめて一気に行え!
- 其之二:乗りたいなら決断は早めに!
- 其之三:長く乗るなら部品をキープ
【ユニコーンジャパン】’09 年から始動した現在のユニコーンジャパンの店舗は、”超”が付くほど広大。日本の蔵をイメージしたというラウンジ/ショールーム、工場/研究所、ストックヤード合わせて、総床面積はなんと170坪! 駐車場や庭園スペースも備えている。
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