水冷2気筒という原付二種らしからぬスペックのエンジンを搭載し、車種によっては税抜き38万円からという価格で話題沸騰のレオンアート(スペイン)。7月よりウイングフットが日本への輸入を開始したので、さっそく6機種のラインナップの中からパイルダー125をお借りして試乗してみた。
遊び心あふれるディテールと、バイク好きも納得の程好いマニアックさ
重低音とどろく迫力の排気サウンド、ちょっとクセのあるライディングポジション、意外にも素直なハンドリング、そしてド迫力の体躯とトルクフルな並列2気筒エンジン。これほど個性を主張してくる125ccのマシンは初めてかもしれない。
スペインのメーカーであるレオンアートが放つ「パイルダー125(PILDER 125)」は、問答無用のカッコよさだけでなく、バイクを本当に好きな連中が仕上げたのだなと思えるような、遊び心とちょっとしたマニアックさを持ち合わせたパワークルーザーだ。
7月26日公開の記事ではエンジンサウンドを含む映像とライディングポジションについてのレポートをお届けしたが、今回はいよいよ試乗インプレッションである。税込み価格で41万8000円~59万4000円となる6機種のラインナップ中では一番高いパイルダー125に、通勤を含む街乗りメインで試乗してみた。
190mm幅のリヤタイヤを履きこなす堂々の車格と、低回転からしっかり加速できる2気筒エンジン
デザインについては人それぞれの好みなので評価は避ける(ちなみに筆者は好き)が、少なくとも通勤中の信号待ちで「これメチャクチャかっこいいけど、なんていうバイクですか!?」「ピンクナンバーだけど本当に125ccなの!?」と、かつてない頻度で話しかけられたのは確かだ。
ディテールも面白い。畳めない構造のアルミ製タンデムステップや、一見するとカーボンに見えるサイレンサーエンドには、価格を抑えるための割り切りと遊び心の両方を感じる。190mm幅のリヤタイヤに片持ちスイングアーム、倒立フォーク&ダブルディスクといった足まわりの装備は、明らかに原付二種クラスを超えたものだ。ブレーキレバーのアジャスターやギヤポジションインジケーターを備えているのも嬉しい。
ライディングポジションについては、以前にもお伝えしたように燃料タンクが長く、ハンドルバーはやや遠く低めで上半身の前傾はやや強い(※)。シート高は700mmと低く、ステップ位置はクルーザーでいうところのミッドコントロール……つまり前過ぎず後ろ過ぎずだが、ネイキッドの感覚でいうとやや前寄りだ。こうした独特のライディングポジションは、後述するハンドリングに対してもけっこう影響している。車重は180kgとされているが、重心が低いせいかサイドスタンドを払って起こす際にもそれほど重たい感じはなかった。
エンジンを始動すると、映像でもお伝えしたように迫力のサウンドが轟く。音量もそれなりに大きいが、非常識なほどではない。ツインエンジンでありながら、どこか1980年代の空冷4気筒にも似た雰囲気の振動やハスキーで野太い音質に好感が持てる。
普通の重さのクラッチレバーを握り、国産に比べるとやや節度感に欠けるシフトペダルを1速へと送り込む。ギヤ比が低いこともあって、発進は楽々だ。
驚いたのは、低回転からすごくトルクフルなこと。しかも、そこから高回転に向かってよどみなく吹け上がっていく。125ccクラスである程度のパワーを発揮するエンジンの場合、たいていはパワフルさの代償として低回転トルクが頼りなくなるもの。しかしパイルダー125のエンジンは、6速でアイドリング付近の回転を使ってもジワリと前に進んでいく粘りがあり、高回転も125ccという排気量を考えれば十分にパワフルだ。旧車のような味わいと現代的なフレキシビリティを両立したエンジンは、洗練された国産マシンとはまた違った気持ちよさを提供してくれる。
もちろん原付二種だけあって、実際にはそれほど速くない。ある程度エンジンを回して気持ちよく加速し、交通の流れをリードしていっても、白バイを気にしなければいけないような速度にはならない。頑張ればメーター読み100km/h以上も出せるらしいが、そんなことをしなくても十二分に気持ちいいマシンなのだ。
※前回の記事で紹介した金城IVY Racingではアップハンドル仕様の開発を検討中
こう見えて、ちょいとスポーツバイク
冒頭でちょっとしたマニアックさがあると書いたが、それは思いがけずスポーティなハンドリングに関してである。
編集部で実測したところホイールベースは約1670mmもあり、もちろん直進安定性は抜群だ。シートは体重78kgの筆者でも十分に受け止めてくれるコシがあり、クッション性も十分。前後サスペンションはやや硬めで乗り心地良好とはいえないが、この出来のいいシートとミッドコントロールで踏ん張りやすいステップによって、それほど悪くない乗り心地になっている。気楽なクルージングはお手のものである。
だが、カーブや交差点の右左折などでパイルダー125に思い通りに曲がってもらうには、それなりの手順が必要だ。というのも、コイツのハンドリングは意外にもスポーティだからだ。
スポーティといっても、ここでは鋭く曲がるとかコーナリングスピードが速いという意味ではなく、バイクを操る基本に沿った乗り方だと思ったように曲がるが、それを外すと「思い通りにならなかった感じ」が残るということ。つまりパイルダー125は、どんな乗り方でもそれなりに走ってくれるユルいマシンではなく、ライディングに“操る意思”を求めてくるマシンなのだ。
独特のライディングポジションではあるが、このライポジの通りに上半身をやや伏せて頭の位置がステアリング軸の延長線上からあまり離れないようにすると、パイルダー125は思い通りに曲がりはじめる。上体を起こして小手先で乗ろうとすると、やや素っ気ない雰囲気だ。
また、トルクがあるエンジンゆえに、セオリーから外れたスロットル操作をすると挙動が乱れやすい。これはカーブの大小にかかわらず、速度が低くあまり寝かさないような場面でも変わらなかった。スロットルを閉じた状態で曲がりはじめ、起こしたいところで必要なだけスロットルを開けるといった、ビッグバイクと同じようなスロットル操作をすると素直に走ってくれる。ちょっとマニアックな言い方をすると、原付二種でありながらトルクでマシンを操る醍醐味があるのだ。
こうした“ほんの少しのスポーツ心”が常識的な速度域の中で、誰にも迷惑をかけずに楽しめるところは、ベテランライダーでも好ましく感じるはず。また、初心者には危なくない範囲でライディングのイロハを教えてくれるという、いい教科書になるかもしれない。例えばカーブの手前でブレーキを使ってフロントフォークを沈めるとか、シート荷重で狙った通りのポイントで寝かすとか、スロットル操作でリヤタイヤが路面を掴むのを感じ取るとか、そういった走りの世界にも安全な速度域のまま踏み込んでいけそうだ。
ちょっとおおげさかもしれないが、ひと昔(ふた昔?)前のドゥカティのスポーツバイクが持っていたような、ライダーの操作にとてもシビアな代わりにコーナリングが決まると得も言われぬ快感が待っている……みたいな世界観を、その100分の1くらいのシビアさで深いバンク角も必要とせずに垣間見ることができる、と言ったら伝わるだろうか。
利きはじめは穏やかだが握ればきちんと制動力を発揮するダブルディスクのフロントブレーキ、硬めの味付けだが“ちょいスポーティ”な走りだとバランスよく応えてくれる前後サスペンション、125ccとしては十二分にトルクフルなエンジンなどが生み出す走りは、ただのデザイン先行型バイクじゃあないぞ、と強く感じさせてくれた。
輸入初年度ということで、それほど多くの台数が入ってくるわけではなさそうだが、ぜひ一度は試乗してみてほしい1台だ。見た目や音がきっかけで気になったとしても、それだけじゃない楽しみが待っている。
実用性を含めた包括的なインプレッションは、8月24日発売のヤングマシン本誌10月号にて大屋雄一テスターがお届けする予定。そちらも参考にしていただきたい。
LEONART MOTORCYCLES PILDER125[2020 model]スタイリングとディテール
主要諸元■全長2390 全幅800 全高1125 軸距未発表(編集部実測・約1670) シート高700(各mm) 車重180kg■水冷4ストローク並列2気筒SOHC2バルブ 125cc 変速機6段 燃料タンク容量未発表■タイヤサイズF=100/90-19 R=190/50-17 ●価格:59万4000円(10%税込) ●発売中
販売店は輸入代理店のウイングフットを含め6店舗(2020年8月4日現在)。
ウイングフット(東京都足立区) https://leonartmotors.jp/
モト・テクノ・サービス(東京都町田市) http://moto-technoservice.co.jp/
金城Ivy Racing(埼玉県三郷市) https://kinjoh-ivy.tsnt.net/
GT-AXEL(静岡県静岡市駿河区) http://bike-shizuoka.com/
オートパラダイス関西 大阪府大阪狭山市 https://apk-bike.com/
モトエスエックス 広島県広島市安佐南区 http://www.motosx.com/
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