Text:Toru Tamiya Photo:Hiroyuki Orihara
超本格的でカッコよさの光るスーパースポーツルックス。しかしその乗り味は、極めてフレンドリーで扱いやすい。GSX250Rは、そんなふたつのギャップが魅力の軽二輪モデル。’19年型ではMotoGPカラーも登場して、さらに注目度が高まった。
ツアラーとしても秀逸な、身の丈に合う軽二輪スーパースポーツ
GSX250Rは、日本では’17年4月に発売が開始。グローバルネイキッドとして活躍してきたGSR250シリーズをベースとする設計手法でコストを抑えながら、GSRよりもスポーティで、より所有欲を満たすカッコよさを備えたモデルとして開発された。
エンジンやフレームなどの基本部は、GSR用をなるべくベースとして使うことで、エントリーモデル向きの求めやすい価格を実現。ただしエンジンは、ローラーロッカーアームや改良型ピストンリングの採用、スパークプラグやインテークバルブの見直し、カムプロフィールの最適化などで、最新の環境規制に対応しながら低中速トルク特性向上や低燃費化などが施されている。車体も、前後サスペンションセッティングを変更し、シートレール強度を最適化して、前後ホイールを新設計するなど、必要な部分には当然ながらしっかり手が加えられている。
デビュー当初、そのボディカラーには’85年型の初代GSX-R750を思わせる青×白または赤×黒と、シックな単色の黒が設定された。メインとして狙うユーザー層や求めた走行性能などの関係から、敢えて「GSX-R」とは名乗らないが、カラーリングにはスズキを代表するスポーツモデルの歴史と伝統が感じられる。そして’18年10月には追加カラーとして、トリトンブルーメタリックNO.2が発売開始となった。こちらは、世界最高峰ロードレースのモトGPに参戦するファクトリーマシンのレプリカカラー。GSX-Rシリーズの旗艦となるGSX-R1000R ABSにも、同じような車体色が設定されていて、今回の追加によりGSX250Rは、よりスズキが持つスポーツアイデンティティとのつながりを深めたことになるわけだ。
ただしGSX250Rは、ソリッドでエキサイティングなスポーツ性能が追求されたモデルではない。スタイリングには、スーパースポーツとしての逞しさやカッコよさがみなぎるが、それとは裏腹に乗り味は極めてフレンドリー。そしてそのギャップこそが、じつは最大の魅力となっている。
扱いやすいエンジンと安定感のあるハンドリング
GSRシリーズ用をルーツとするエンジンは、熟成により低中回転域トルクの向上などが図られたとはいえ、最高出力は24馬力とマイルド。つまり、エントリーライダーでも扱いやすいレベルにある。普段からリッタークラスを操っているような中上級ライダーだと、パワーそのものには物足りなさを感じるかもしれないが、そこは少し見方を変えて、「エンジン性能を使い切れる」という喜びを味わいたい。
加速性能は、低回転域から高回転域までフラットに吹け上がる印象。どこかの回転領域で極端にトルクやパワーが落ち込むことはなく、これも扱いやすさにつながっている。どの回転域でも、スロットルを開けるとイメージしたとおりのパワーを得られる感触があり、これが恩恵となって、タイトなワインディングでもイージーにスポーツライディングが楽しめる。
一方、低中回転域トルクを重視したセッティングは、発進時や市街地での極低速走行時にアドバンテージとなっている。1速に入れてクラッチをつなぐと、それほど気を遣わなくてもスッと車体が前に進み、半クラッチを多用しなくても、平地で1速ならエンストすることなく歩くような速度で走り続けてくれる。エンストの不安が減るので、初心者やリターンライダーにはとくにうれしい仕様と言えるだろう。
エンジンと同じく根幹をGSRベースとする車体は、軽二輪クラスのオンロードスポーツモデルとしては、前後方向がやや大きめの設計。堂々とした車格があり、大柄な男性が乗ったときに、バイクが小さすぎるという印象になりづらい。ただし、左右方向には十分なスリムさが感じられ、市街地の路地裏などの狭い道路を走るときなどに扱いづらさを感じることが少ない。
コーナリングには、ややロングなホイールベースがもたらすしっとりとした安定感があり、過敏すぎないフィーリング。ライバル車種と比べてやや車重はあるが、実際のライディングでそれをネガとして感じるシーンはほとんどなく、むしろ安定性向上に寄与している雰囲気。ハンドリング特性に極端なクセはなく、どんなコーナーでもするりとクリアしていける。
ブレーキはフロントもシングルディスク式で、キャリパーは片押し2ポットとベーシックだが、スピードレンジが高いバイクではないし、車重もそれほどあるわけではないので、必要十分な制動力を有している。アンチロック機構は、現在のところ標準装備もタイプ設定もされていない。これは、車体価格を下げたり車重を低減したりするための措置と思われるが、ブレーキは前後ともかなりコントローラブルなので、真冬の冷え切った路面でもABSの必要性を感じることはなかった。
スポーツだけどオールマイティ、新しいMotoGPカラーも注目
前述のように、GSX250Rはスタイリングと走行性能にあるギャップが魅力のモデル。パッと見はかなりイケイケのスーパースポーツ風だが、走行性能にはとっつきやすさがある。そのためエントリーライダーやリターンライダーにとっては、ルックスを犠牲にすることなく扱いやすいバイクを手に入れられるというメリットがある。スゴそうなバイクに乗っているけど、じつは操っているライダーは超余裕。外観はスポーツスポーツ系だけど、アクティブに走らせるだけでなく、ツーリングやシティライドでも快適で操縦性に優れるというオールマイティさもある。これはなんだか、お得だ。
一方で、中上級者がこのバイクを選ぶ価値も意外とたくさん存在する。スピードレンジが低めに想定されたGSX250Rには、ツーリングに駆り出したときにほのぼのとした楽しさがあり、目を三角にして速さを求めなくても、バイクに乗ることの爽快感やワクワク感を容易に味わうことができる。実用レベルにおける最高速度が140km/h程度に設定されているため、新東名高速の110km/h区間では法定速度で走ったとしてもあまり余裕がないことになるが、とはいえ優れた燃費性能などを考えたら高速巡航がまるで向かないわけではないし、一般道を中心に走れば、大型クラスとは違ったバイクの楽しさに触れることができる。
追加されたMotoGPレプリカカラーは、スタンダードカラーよりも1万1180円プラスとなっているが、それでも53万8920円と、求めやすい新車価格が設定されている。エントリーライダーが乗る最初の1台、かつてバイクに乗っていた人が復活を果たすためのバイク、そしてビッグバイク乗りが新たな遊びをはじめるセカンドバイクとして考えたとき、この価格設定は非常にありがたい。安さと守備範囲の広さを生かして、ぜひ使い倒したい。
●取材協力:スズキ
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