ハーレー・ダビッドソンの2年前・1901年に創業したインディアンは、アメリカで最初にVツインを作ったことで知られる老舗メーカーだ。今回紹介する「スカウト」は、歴代インディアンの小排気量版に冠された名を継いだモデル。一見するとハーレーと同じクルーザージャンルのバイクだが、見ると乗るとでは歴然とした差が。本稿では1133ccスタンダード版の試乗レポートをお届けする。
走行能力と味を両立するバランス感覚の絶妙さ
「上手いなぁ…」思わずそう唸りたくなるバイクだ。例えば取り回し。車重自体は249kgと軽くはないが、スタンドを払って車体を起こしたり、跨ったまま足を着いて動かす際の手応えは拍子抜けなほど軽い。ロー&ロングなスタイリングによる重心の低さを、取り回しの軽さにもうまく活かしているのだろう。そんなバランス取りの巧みさが、1133ccの水冷60度Vツインや、大きく3パートに分割できるアルミフレームを持つ車体にも散見されるのだ。
インディアンというバイクの起源は117年前の1901年。ハーレー・ダビッドソンの2年前に創業し、アメリカで最初にVツインを作ったこのメーカーは、第二次大戦前は高性能車の代名詞として数々の速度記録も樹立している。1953年の倒産後にも幾度となく復活が試みられているのは、アメリカ人にとってそれだけ思い入れの深いブランドゆえだろう。ちなみに現体制は2011年、スノーモービルや四輪バギーを生産する米ポラリス社の資本下でスタートしている。
で、ここにあるのは歴代インディアンの小排気量版に冠された名を継ぐ「スカウト」だ。その立ち位置はハーレーにおけるスポーツスターであり、試乗した1133ccに加え999cc版が存在するのも、同車の1200と883の関係だと考えればいい。
このエンジンの印象が強烈だ。一言で述べるなら「とにかく速い」。スロットル開け始めからドバっと力が湧き出し、間髪入れずに加速体勢に入るため、体感的な速さがすさまじい。個人的にはツキが良すぎると思わなくもないが、それも力感の演出と思えば納得できるし、レブリミットも8300rpmとこの手にしては高いから、ホールドしやすくはないライポジに耐えて6段ギヤを送っていけば、あっという間に”アウトバーン速域”に達してしまう。スポーツスターは1200の実測値(ハーレーは出力が非公開)で50〜60psだから、94psを公称するスカウトとは比較にならないのだ。
それでいて、不等間隔爆発のVツインらしい味もあるのが楽しい。6速70km/h・2300rpmくらいからアクセルを開けたときの、ゴムまりが弾むようなボコボコした鼓動感などはなかなかにして気持ちいいのだ。ドゥカティの瞬発力とハーレーの快感を両立させたような特性は、性能と味にどう折り合いをつけるかの好例だろう。
操縦性も同様だ。低重心でホイールベースも長く、バンク角も深くないから、旋回力自体はさほど高くない。しかし倒し込みは軽く素直で、さらに車体の剛性感やタイヤの接地感がクルーザーとは思えないほど高いため、身体をインに入れるなどのアクションが不安なく繰り出せる。結果、”自分でバイクを曲げている”という充実感はかなり濃厚なのだ。こうした設定は性能が高くてもそれを引き出しにくいバイクより、ずっと安全で楽しいと思う。
つまりスカウトは、感覚的な性能の作り込みがかなり巧みなのだ。バイク造りを熟知する人間が設計し、じっくりと走りを煮詰めたような……そんな”匠の技”を感じると言ってもいい。現体勢下では10年足らずの歴史しかないインディアンだが、開発陣の知見や経験値はかなりのハイレベル? そんなことを考えさせられるほど、このバイクの完成度は高い。
「スカウト」シリーズは合わせて全3タイプ
ローダウンの1133cc:スカウト ボバー
エントリー版の999cc:スカウト シックスティ
〈インディアン・スカウト 主要諸元〉
■全長2311 全幅880 全高1207 軸距1562 シート高643(各mm) 車重249kg(装備)
■水冷4ストV型2気筒DOHC4バルブ 1133cc 94ps/ーrpm 9.9kg-m/6000rpm 変速機形式6段リターン 燃料タンク容量12.5L
■ブレーキF=ディスク R=ディスク(ABS標準装備)
■タイヤF= 130/90-16 R=150/80-16
【この記事で紹介したインディアン・スカウトの写真をまとめて見る】
●写真:真弓 悟史/飛澤 慎
※この記事は『ヤングマシン2018年12月号』に掲載されたものを基に再構成しています。