サンダンスが2000年に制作したハーレーカスタム「スーパーリアルナックル」。オリジナルのアルミヘッドとアクティブリジッドフレームを採用し、10台限定で販売。多くの著名人たちにも「欲しい」「なんとか手に入らないか?」と言わしめた、幻の名車に乗る機会を得た。
●文:ウィズハーレー編集部(青木タカオ) ●写真:磯部孝夫 ●外部リンク:サンダンスエンタープライズ
味わってはいけない禁断の果実
アクセルを開けると、従順にVツインエンジンが応えてくれ、それはある種、なにか高度な知能を持つ生き物と対話しているかのようでさえあるから、不思議な感覚に陥る。相手はモーターサイクルという機械の塊であるはずなのだが、その存在は威厳と風格に満ち溢れ、オーラさえ輝いているかのようで、まるで魂が宿っているようにも感じてならない。大袈裟なことを言っていると笑われるかもしれないが、サンダンスの「スーパーリアルナックル」を前にすれば、この得も知れぬ気持ちがわかってもらえるはずだ。古風であり美しく、それでいて見るからに機能的でメカニズムとして完成していることが、誰にでも見て感じ取れるだろう。
「自分が乗りたかったハーレーをつくりたかっただけなんです」
サンダンスのZAK柴崎氏は、今から20年以上前、1999年の設計当時を振り返る。エボリューションエンジンからツインカム88へと進化していく時代に、1936年に設計したナックルヘッドエンジンを新車で買える状態にし、「スーパーリアルナックル」として蘇らせた。
前年にはアメリカ・デイトナBOT F1クラスにてデイトナウェポンIで優勝し、鈴鹿8時間耐久ロードレースにもデイトナウェポンIIで参戦。完走を果たすと、1999年にはAMAダートトラック全米選手権にフル参戦するなど、レーシングシーンで脚光を浴びた。
その最中に、60年以上も前のヴィンテージハーレーを復活させようと、同時に開発を進行させていたのは驚きでしかない。コンマ何秒かのスピードを競う世界で、輝かしい成果を挙げていたときに、なぜゆえに時代を逆行するかのようなナックルヘッドだったのか? 相反するように感じ、尋ねると、ZAK柴崎氏はこう教えてくれた。
「極限の状態でマシンやパーツを試せるのがレースの世界。スーパーリアルナックルの開発にも大いに関係しています」
限界を知ることができれば、公道を走る我々ユーザーのオートバイにも、その技術やノウハウはフィードバックされる。スーパーXRのエンジン開発/製作、成功までのプロセスを経たことで、スーパーリアルナックルへの道筋が見えたのだ。
そして、さらにこう続ける。
「もともとウチはナックル/パン/ショベルを扱うハーレー専門店で、それをベースにスーパーXRやロボヘッドなど、コンプリートエンジンのプロダクツやレーシングプロジェクトなどが立ち上がって活動してきました」
ちょうど40年前、ショベルヘッドがまだ現役の時代である1982年に東京・高輪にて創業。レースでの輝かしい戦績もあり、メディアではハイパフォーマンス化されたオリジナルモデルが取り上げられがちだが、実際に店舗へ足を運ぶと、今でもショベルをはじめ旧いハーレーに乗るお客さんも多い。ミルウォーキーエイトに至るまで、ハーレーであるなら新旧を問わず、ノーマル車も少なくない。
そんな数あるヴィンテージハーレーのなかに佇んでいたスーパーリアルナックルは、2000年に誕生したもの。オリジナルのアルミヘッドとアクティブリジッドフレームを採用し、10台限定で販売。その後、多くの著名人たちにも「欲しい」「なんとか手に入らないか?」と相談を持ちかけられてきたが、「10台しかつくらないと決めていましたので…」と、特例は一切認めず、増産はしていない。
後にも先にも、世界でたったの10台であり、そのうちの1台を、こともあろうか自分がいま乗っているのだから、身の程知らずもはなはだしい。
正直なところ、実車を目の当たりにした時、その貴重性を考えると足が震える思いであった。しかし図々しいもので、こうして走り出してしまえばなんと爽快なものか。一筋縄にはいかないぞと気を引き締めたものの、エンジンはいとも簡単にキック始動で目覚め、すぐにアイドリングは低く落ち着いた。
極低回転域でのトルクは太く扱いやすく、たやすく発進できる。ボア・ストロークは92×108mmで、排気量は1435cc。圧縮比はできるだけ低くと、7.2:1に設定され、重いフライホイールが強く緩やかに回り、マイルドな味付け。走っていると、一発ずつの爆発が感じられ、なんと心地良いことか。
「エンジンのクラシックなテイストやフィーリングは残しておきたい」
エンジニアはより高性能なものへと、スペックや数値を追い求めがちだが、数字では計れない味わい深さや感覚的なものを失わないよう重要視するのが、サンダンス流でもある。
股の下でデカい鉄の塊が鼓動しているのが乗り手に伝わり、こうした五感に訴えかけるもので満ち溢れているからこそ、冒頭に書いたとおり魂が宿っているかのように乗り手に感じさせ、オートバイを単なる機械と扱わず、敬服の念を抱くのかもしれない。こうした感情は、ヴィンテージハーレーと長く付き合っていく中でも、とても大切なことなのだろうと想像できる。
そして、操作性も目を見張る。前輪ブレーキはドラム式だが、油圧の力でリーディングシューとトレーリングシューを押し、タッチやコントロール性が良い。
シフトチェンジは左足のシーソーペダルで、クラッチも左手で操作でき、高年式車に乗る人がすぐに渡されても何も困らない。それはすべての操作系において言えることで、旧いハーレーに不慣れな筆者に対しても、ZAK柴崎氏は何も言わぬまま試乗へ送り出してくれた。
そこには、誰でも問題なく乗れるという絶対的な自信があり、スーパーXRでもトランザムでもいつもそうだ。今回のスーパーリアルナックルでも、その姿勢は一切変わらない。
とはいえ、もちろん油断などするわけがない。快調なエンジンだからと、調子に乗って速度を上げると、大きな段差で衝撃をまともにくらって冷や汗をかくなんてことが、旧いオートバイなどではよくあるから要注意だ。しかし、スーパーリアルナックルに至っては心配無用。ハイスピードのままバンプに乗り上げても、車体下に水平配置された2本のショックアブソーバーにより、衝撃は知らぬ間に吸収され、車体は落ち着いたまま。振動はシートスプリングが受けて、サドルの揺らぎがまた心地良い。想像を遥かに凌ぐ高いコンフォート性で、鼻歌交じりで高速道路をクルージングできるではないか。追い越し車線を悠然と走れ、遠乗りにも出かけたくなるほどだ。
高速道路のランプを降りると、一般道の渋滞にハマってしまう。取材したのは2022年の夏、気温は30度を超える酷暑。安全とスタイルを重視し革ジャンを着込んだのを後悔するほどのうだるような暑さだ。耐えられない!
しかし、スーパーリアルナックルは平然と低いアイドリングをそのまま続けている。鋳鉄のシリンダーとシリンダーヘッドをアルミ製に変えただけでなく、ほぼすべてのパーツがサンダンスのオリジナルで構成される。
放熱性の低さを大きく改善し、熱にも強い。見た目や乗り心地は旧き良き時代のハーレーのまま、信頼性は現代の水準まで引き上げられているのだから、もう言うことがない。
1/10という特別なものに乗らせていただいたが、これは味わってはいけない禁断の果実だったのかもしれない。やはり、いくら頼み込んでも購入できるものではないし、入手する術はもうない。
そうだ、今日の出来事はすべて、夢であったと思うことにしよう。この極上の体験は記憶の片隅にしまっておくことにするしかないのだ。
しかし、またいつか夢の続きが見れることを願っている。
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