
アイルトン・セナがホンダNSXを長いこと愛車にしていたり、トロイ・ベイリスがプライベートでもドゥカティを乗り回していたこと、自身を偉大なチャンピオンにしてくれたメーカーのことを思えば至極当然なこと。一方で、ナイジェル・マンセルは図々しいことに(?! )フェラーリのF1に乗りながら、パドックでは「ホンダ」を乗り回すという暴挙をさらしていました。さすが荒法師、ライオンハートと言うべきなのか、やっぱり大物は考えることが違うのだと痛感した次第です。
●文:ヤングマシン編集部(石橋 寛) ●写真:RM Sotheby’s
実は”ホンダエンジン”時代からの愛車だった
マンセルがF1のパドックで乗っていたのは、ホンダのダックス70(CT70)でした。1988年モデルとも、1987モデルとも言われていますが、いずれにしろ当時のウィリアムズがホンダのパートナーシップを得ていた時期と重なります。
この頃のF1は今に比べるととても大らかだった時代で、ドライバーが自分の荷物を抱えてパドック内をうろうろするのも珍しくはありませんでした。となると、ちょっとした移動用にミニバイクは好都合。
チームにいるホンダのスタッフはみなさん、好意的で優しい方ばっかり。マンセルが「ちょうどいいバイクないかね」と甘えたくなるのも無理はないかと。
時あたかもダックス50が海外向けに72ccモデルを発売していたタイミングで、おそらくホンダの面々は、どうぞどうぞとばかりにレッド5にちなんだ赤いダックスをプレゼントしたのでしょう。
都市伝説では「ナイジェルはピットウォークで帽子を盗まれたことから日本人が大嫌い」とされていますが、こんな贈り物をしてくれる日本人に感謝こそすれ、大嫌いというのはフェイクに違いありませんね。
フェラーリF1に乗りながら、ホンダ・ダックスをパドックで乗り回す無邪気なマンセル。まだ大らかだったころのF1ならではのシーン。
ウィリアムズからフェラーリ移籍の後も…
ご承知の通り、マンセルは1985~1988年までウィリアムズで走ると、1989年からはフェラーリへと移籍。ここでもダックスを乗り続けていたのですが、さすがのマンセルもホンダ製バイクに肩身が狭い思いをしたのでしょう。
気休めにしかならずとも、車体にスクーデリア・フェラーリのステッカーをあちこちに貼り付けたのでした。さらに、雰囲気をもっと出そうとしたのかマニェッティ・マレリのステッカーまで貼るという涙ぐましい努力まで。
同社はフェラーリと長年のスポンサーシップを結んだ電機メーカーであり、カルソニックカンセイと経営統合するまで(2019)ずっとF1の車体に貼られていた重鎮スポンサー。
ご覧の通り、広めのシートを利してチームメイトだったプロストを後ろに乗せているシーンまで記録されています。後ろ姿ながら、なんだかマンセルは笑みさえ浮かべていそうな雰囲気です。けっきょく、ふたりは仲違いしてマンセルはウィリアムズに戻ることになるんですがね。
ダックスは1987年に輸出用の72ccモデル、CT70が発売され、ハンドルが畳めてコンパクトになる上に、ふたり乗りもできる大きなシートなどで人気を博しました。
マンセルがハンドルを握り、後ろに乗るのは当時のパートナーだったプロスト。きっと、マンセルはドヤ顔で運転しているはず(笑)。
現代のコマーシャル担当が見たら頭を抱える写真も
1991~1992年、マンセルは再びウィリアムズのシートに収まっただけでなく、悲願のドライバーズチャンピオンを獲得(1992年)しました。そのタイミングかどうか明らかにされていませんが、マンセルは次男のグレッグをダックスに乗せてパシャリ。
これ、現代のコマーシャル担当が見たら頭を抱える写真で、マンセルとグレッグはウィリアムズ+スポンサーのキヤノンTシャツとキャップながら、バイクにははっきりフェラーリとマレリが写っているという(笑)。
また、「そんなこと知らんがな」とドヤ顔を浮かべるマンセルもいい味出しまくりかと。
次男のグレッグと映るマンセルですが、ウィリアムズチームのティシャツやキャップに対し、スクーデリア・フェラーリ印のホンダ・ダックスというなんとも奇妙なショット。
息子が見つけ、売り出した際の走行距離は”1582km”
ともあれ、1993年にマンセルが一時期F1シーンから退いたタイミングで、ダックスは自宅倉庫にしまわれることに。後に埃にまみれたダックスを見つけ出したのも、じつは次男のグレッグでした。
そこで、グレッグはきれいにレストアして再び父のマンセルにプレゼントしようと考えたらしいのですが、どういうわけかマンセルはこれを断り、あろうことか代理人を通じてオークションに出品(笑)。
すると、2万4000ポンド(約460万円)という高値で落札されてしまいました。
マンセルは自身の名を冠した博物館まで開設しているのに、せっかくのいいネタを売り払ってしまうとは、まったくもって”ライオンハート”の意図はわかりません。
ともあれ、ホンダ・ダックスにスクーデリア・フェラーリのステッカーが貼られた珍品ですから、F1マニアにとっては最高のお宝にほかなりませんね。
マンセルが1度目の引退をするまで、ダックスはわずかに1500キロほどしか走っていません。パドックだけの走行なら、それも納得のコンディションです。
さすがにレストアしただけあって、車体はミントコンディション。それでも、460万円での落札とは大したお宝です。
パドックユースがメインだったため、当初からナンバー登録はされていません。まさか、このレアグッズで路上を走ろうとも思わないでしょうけどね。
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