よく“ブレーキオイル”と呼ばれるけれど、じつはあの液体はオイル(油)ではなかった!? [バイクの仕組み]


●文:ライドハイ編集部(伊藤康司)

油圧ディスクブレーキだけど、“油(オイル)”じゃない

いまや原付のスクーターからビッグバイクまで、ブレーキ(少なくともフロントブレーキ)はすべて油圧式ディスクブレーキを装備している。

厳密な構造はともかく、パスカルの原理(密閉容器の中の流体は、ある1点に受けた圧力を、そのままの強さですべての部分に伝える)を用い、ブレーキレバーを引く小さな力で大きな制動力を得ている。

その圧力を伝えているのがブレーキフルード液だが、なぜか“ブレーキオイル”と呼ぶ人も多い。油圧式なんだから“油(オイル)”だろうというのもうなずけるが…。

じつはブレーキ液は、ポリエチレングリコールモノエーテルと呼ばれる物質をベースに作られるものが主流で、この物質は油(オイル)ではない。なので、ブレーキフルード(フルードは“液体”の意味)と呼ぶのが適切だろう。

ただし、けっこう昔の4輪車の油圧式ディスクブレーキには鉱物油系のブレーキ液も使われていたので、そちらはブレーキオイルと呼んで間違いない…。

沸騰しにくいのが絶対条件

油圧式ディスクブレーキは、ブレーキレバーやペダルを操作して、マスターシリンダーに発生した圧力をブレーキホースでブレーキキャリパーに伝え、ピストンがブレーキパッドをディスクローターに押し付けた摩擦力でブレーキが利く。

だからブレーキフルードには、圧力による体積の変化が小さいことが要求される。また、ブレーキパッドとディスクの摩擦によって高い熱が発生するが、その熱が伝わってブレーキフルードが沸騰してしまうと、ブレーキを操作しても沸騰によって生まれた気泡が潰れるだけで圧力が伝わらず、ブレーキが利かなくなってしまう。

これが“ベーパーロック”と呼ばれる現象だ。そのためブレーキフルードには、高温でも沸騰しにくい特性も要求される。ポリエチレングリコールモノエーテルはこれらの条件を満たす物質なのだ。

ブレーキフルードの規格=“DOT”とは?

ブレーキフルードは沸騰しにくいことが重要なので、沸騰する温度を規格化したのがDOT(ドット)で、これはアメリカ連邦自動車安全基準によるモノ。日本のJIS(表記はBF)でも決められているが、DOT表記が一般的だ。

ブレーキフルードはポリエチレングリコールモノエーテル(グリコール系)が主流だが、レースなどに使われる沸点の高いシリコン系も存在する。現在の市販バイクだとDOT4が主流で、旧車や小排気量モデルはDOT3指定もある。

また、ハーレーダビッドソンは以前はシリコン系のDOT5指定だったが、2005年以降はグリコール系のDOT4が使われている。

以下がDOTによる沸点の違いだ……

※本記事は2022年2月17日公開記事を再編集したものです。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。