クロームメッキのプロが指南する、“再メッキ”と“補修メッキ”の使い分け

クロームメッキパーツの大敵=“点サビ”は、どの程度なら再クロームメッキで輝きを取り戻すのか? 具体的にどんな対処方法があるのか? 経験豊富なメッキのプロ・NAKARAI(ナカライ)に解説してもらった。


●文/写真:モトメカニック編集部(栗田晃) ●外部リンク:メッキ工房NAKARAI

絶版車なら珍しくないサビ具合

ピカピカと光り手触りもツルツルなクロームメッキ表面には、目に見えないサイズ(大きなもので8μmほど)のピンホールが無数に存在する。これに対して一般的な装飾クロームメッキの被膜は0.02~0.5μmとごく薄いため、メッキの厚みより大きな穴が空くこともある。ここから水分や湿気が浸入して下地のニッケルメッキや素地まで到達すると腐食が発生し、点サビとなって表面に現れる。

クロームメッキの点サビは、前後フェンダーやハンドルバー、アンチモニー製のウインカーボディなどあらゆるパーツに発生するリスクがある。フェンダーは表側だけでなく裏側からサビが進行して穴が空くことも多い。

クロームメッキを剥離するとサビの深さが分かる

再メッキを行う際は、下地を整えるために古いメッキを剥離する。表面のサビとクロームメッキは塩酸で剥離し、ニッケルメッキや銅メッキを専用の剥離剤で溶解すると素地の状態になり、メッキ上のピンホールがどの程度素地に食い込んでいるかが判明する。

サンプルの前後フェンダーの場合、フロントの状態は比較的良好だが、リヤのサビがひどいと判断された。サビ穴が貫通した後端もさることながら、全面のサビが深く進行していたのだ。

細かい模様のような斑点状の部分はサビによるえぐれ。メッキを剥離したので僅かに浅く見えるが、これだけ深いとバフ研磨でも平滑にならないというのがNAKARAIの見立てだ。

再メッキの仕上がりも下地次第

点サビとくすみがあるとはいえクロームメッキ被膜が残っていた作業前から一変、メッキを剥離してスチール素地が剥き出しになると、ツヤ感もなく実に味気ない。この状態でバフ研磨をして素地が平滑になれば再メッキが可能だが、大穴の空いた後端の補修が必要だ。

穴の空いた箇所は切り接ぎ鈑金で補修

メッキを剥離した素地はバフ研磨によって下地を整えるが、サビで大穴の開いた後端部はこのままメッキできないので鈑金を行う。パーツの状態にもよるが、NAKARAIでは独自のネットワークを活用して穴空き部分を新たに製作する切り接ぎ鈑金も行う。下の写真のとおり、腐食部分を新作した補修部分は見事な仕上がり。アルミ部品と違って鉄素材は硬いが、専門のバフ職人がフェンダー全体の表面を研磨して整えている。

走行中に雨水が溜まる折り曲げ部分と、剛性確保(ビビリ音防止?)で重ね合わせてあったフェンダー後端を切断して、新たに製作した部品を溶接してサビ穴の補修を行った。

鈑金補修が必要な場合、NAKARAIでは都度見積もりとなる。フェンダーや自動車用のスチールバンパーなど、メッキのひと皮だけで形状が保たれているような部品が届くこともあり、NAKARAIでは事情を説明してメッキを行わず返送する場合もあるそうだ。写真右はバフ研磨を行った状態。剥離した直後に比べるとサビ孔は目立たなく感じるが…。

サビの根が深い場合、再メッキではなく、巣穴を特殊パテで埋めて仕上げる“補修メッキ”を

一般的な再メッキで仕上げたリヤフェンダーの場合、クロームメッキの光沢は十分だが、表面に無数のブツブツが残ることが。これは素地のサビ孔が反映された状態だ。もっと入念にバフを掛ければ目立たなくなる可能性もあるが、素地自体が薄くなるのと作業時間増加によるコストアップが問題となる。また銅メッキを繰り返し行なって厚みを稼ぐという手もあるが、サビ孔の凹みに沿ってメッキが載るため、平滑になるまで重ねて研磨を行うと表面の平滑度が低下することが懸念される。NAKARAIの経験上、素地のサビの深さが一定以上なら、再メッキより下記の補修メッキを薦めるそうだ。

再クロームメッキの光沢が美しい分、ブツブツの残念度が際立つ。素地のバフ研磨でサビ孔が潰せるのか、銅メッキを重ねて埋まるのかはメッキ職人しか判断できない部分。

通常の再クロームメッキでサビ孔が埋まらないと判断された部品に対して、NAKARAIが用意している選択肢が、パテで孔を埋めてしまう“補修メッキ”だ。その作業で使われる“パテ”と“通電塗料”は電気メッキ用の特注品で、通常の鈑金塗装用のポリウレタンパテなどとは成分がまったく異なる。パテや塗料の膜厚が付く分、素材形状によってはシャープ感が低下する場合もあるが、ブツブツは完全に消えて美しい仕上がりとなった。補修メッキのコストは再メッキの2〜3倍、厚みは約2倍になり重量感もグッと増すので、事前に相談することが重要だろう。

パテによる補修は、メッキ剥離時に巣穴が大量発生するアンチモニー製パーツに最適。フェンダーを持ち上げると重さを実感するが、外観上パテを使ったか否かは見分けはつかない。

再メッキでも目に見えないピンホールはどうしても発生する。ここではNAKARAIが開発した「メッキング」が有効になる。新品のうちに水分や湿気の浸入を防止するコーティング被膜を作っておくのだ。


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