400こそ至高?! 実は名刀だった 1992年スズキ「GSX400S」【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.5】

●文/カタログ画像提供:[クリエイターチャンネル] 柏秀樹 ●外部リンク:柏秀樹ライディングスクール(KRS)
ライディングスクール講師、モータージャーナリストとして業界に貢献してきた柏秀樹さん、実は無数の蔵書を持つカタログマニアというもう一つの顔を持っています。昭和~平成と熱き時代のカタログを眺ていると、ついつい時間が過ぎ去っていき……。そんな“あの時代”を共有する連載です。第5回は、1991年のGSX250Sに続き1992年に登場したスズキ「GSX400S」です。
格下と思う方もいるかもしれないけれど──
今回是非ともご紹介したいのは1992年登場のスズキGSX400S KATANAです。
熱烈なKATANAファンにしてみれば1100のこそが本物であり元祖であって、250、400、750などはあくまでも主力ではなく格下あるいは眼中にない存在に思われるかもしれません。
しかし、純粋に作り込みの次元を各パートごとにシビアにチェックすると400のKATANAこそKATANAシリーズでもっともレベルの高いまとめ込みをしていたと思うのです。
もちろんそれは好き嫌いという主観ではなく、純粋に技術進化と、技術進化に連動するデザイン補正としての「まとまり」という意味です。
1100KATANAデビューから10年の歳月が流れているのですから、1100以外の再定義はあながち無謀ではなかったと考えます。
GSX400S 主要諸元■全長2060 全幅700 全高1150 軸距1430 シート高─(各mm) 車重182kg(乾)■水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 399cc 53ps/10500rpm 3.8kg-m/9500rpm 燃料タンク容量17L■タイヤサイズF=100/80-18 R=140/70-17 ●当時価格:65万9000円
まずはその外観。元祖1100のKATANAの車体全体のとして400はエンジンを主体にその縮小率を95%として忠実にその美しさを継承しています。エンジンシリンダーの前傾度も18度とまさしく1100そのままというこだわりを見せています。
しかし、400は1100とは異なる前輪18インチをスズキは採用しました。400デビューの1990年代にあえて前輪19インチを選択する合理的理由はなかったからです。1100へ敬意を払いながらも、400では時代の流れに沿いつつ違和感のないスタイルとなると18インチが最善だったという判断でしょう。
もともとの背景は、1100KATANAがGSX1100Eの基本構成を踏襲していたため、開発の前提が前輪19インチありきでした。逆に250のカタナが18インチ以上だとエンジンのボリュームとバランスが取れなくなります。前後輪17インチの250KATANAはあえて忠実な縮小率にこだわらず燃料タンクにボリューム感を添えたのも「KATANA」というブランドのバランス感を取るためでした。1100の忠実な縮小で250を作るとかえって違和感が出てしまうため、デフォルメは避けられなかったのです。
1992年登場のGSX400Sはガンメタ系の『デューングレーメタリック』もラインナップした。同年にはGSX250Sも限定仕様でガンメタが登場している。
エンジン幅もデザイン選定に大きく関係します。1100はクランク左右の張り出しが大きいため、前輪19インチでも縦横比のバランスがギリギリ取れていますが、400は左右の幅がスリムなためやはり前輪18インチで帳尻が合います。
以上の経緯から、1990年代以降のKATANAを考えると400こそKATANAの伝統を守りつつ、技術進化に合ったデザインバランスを確保した象徴とも考えられるのです。
いずれにしても、4ストローク・マルチシリンダーの後発メーカーとしてスズキは、GS750を皮切りに一気にライバル以上のハイメカ・高性能を早くも1970年代後期から末期の短期間で標榜できたのですが、次なる指標となった「デザイン面も一気に凌駕!」というスピリッツがあったからこそのKATANA誕生だったのです。
こちらはブライトシルバーメタリック。
スタイル以上に評価したいのは走り!
400KATANAならではの外観バランス以上に、ここで強調しておきたいのがエンジンテイストとハンドリングを調合した400KATANAならではの乗り味なのです。
たとえば400ccクラスのレーサーレプリカの先陣を切ったGSX-R(のちにGSX-R400の名称へ)とは異なるボア・ストロークを採用。GSX-Rの56×40.4mmに対して52×47mmとして低中速域の加速フィールを優先しています。
高回転主体のサーキットのようなフィールドよりも400KATANAの方が一般的なコーナーの立ち上がりはむしろ加速感に優れ、ゆっくり走行でも程よいハイペースでも実に気持ちが良いエンジンフィールとしています。
しかも前輪18インチとしたことでレーサーレプリカ全盛時代のクイック=正義という図式を離脱して、しっとりした乗り味を手に入れながら誰にもコーナリングがしやすい操縦性としたのです。
KATANAシリーズという枠ではなく、当時の国産車すべての中でも秀逸と言えるハンドリングのまとめ込みでした。
俊敏さもいいけれど、前後タイヤがしっかり路面を捉え、ほんの僅かのタメからワイドにアクセルオン。扱いやすいパワーデリバリーと絶妙にリンクし、曲がりすぎるのではなく、乗り手の意図した曲がり方が楽しめるのです。
GSX400S KATANAは今となってはかなりレアな存在ですが、「バランス最優先のツインショック+キャブレター車」というくくりでは逸品「まさに名刀」だと思います。
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