
●文:[クリエイターチャンネル] 風間ナオト ●写真:Kabuto
MotoGPのアレイシ・エスパルガロ選手と契約
2022年に契約したレミー・ガードナー選手はWSBK(スーパーバイク世界選手権)へと戦いの舞台を移した
先日、オージーケーカブトが、MotoGPを戦うアレイシ・エスパルガロ選手(アプリリア・レーシング)と契約を締結したことを発表した。
これは、昨年、KTMでMotoGPを走ったレミー・ガードナー選手の契約に続くもので、ガードナー選手がWSBK(スーパーバイク世界選手権)のGYTR・GRT・ヤマハ・WorldSBK Teamに移籍したことにより、大阪に本拠地を置くヘルメットメーカーは、図らずもレース専用のプロトタイプ、市販車ベースのプロダクション、両カテゴリーの世界最高峰を走るライダーをサポートすることとなった。
2007年の鈴鹿8耐で高まったレースでの認知度
長らくオージーケーカブトのサポートを受けてレースを戦い、3度の全日本チャンピオンに輝いた菊池寛幸選手
以前のオージーケーカブトは、コストパフォーマンスに優れたストリートヘルメットのイメージが強く、筆者がロードレース専門誌に在籍していた2000年代は、125ccクラスで3度全日本チャンピオンに輝いた菊池寛幸選手や辻村猛選手らが被っていたものの、サーキットにおける存在感は希薄だった。
そのイメージが大きく変わったのは、同社独自の空力デバイス“ウェイクスタビライザー”を採用した『FF-5』が登場した2007年のことだ。
気流をコントロールし、負荷を軽減する同社独自の空力デバイス“ウェイクスタビライザー”を採用した『FF-5』
その頃すでにサポートしていた秋吉耕佑選手は、当時、スズキのMotoGPマシン開発にも携わっており、開発部の口野彰義氏は「秋吉選手との協力で、高速域でも安定したヘルメットの開発が一気に進み、弊社の分岐点となりました」と振り返る。
走行中に発生する帽体付近の気流をコントロールし、負荷を軽減する“ウェイクスタビライザー”は、2009年に特許を取得。長年にわたって研究・風洞実験が重ねられ、現在ではさらに進化している。
その2007年の鈴鹿8耐では、加賀山就臣選手と秋吉選手のコンビで臨んだヨシムラが、1978年、1980年に続く27年ぶりとなる3回目の優勝。前年の辻村選手に続き、カブト・ユーザーが抜群の注目度を誇るレースで表彰台の頂点に立ち、『FF-5』の認知度も大いに高まった。
2006年の鈴鹿8耐で優勝したF.C.C.TSR ZIP-FM Racing Teamの辻村猛選手
2007年の鈴鹿8耐で優勝したYOSHIMURA SUZUKI with JOMOの秋吉耕佑選手
海外ではブランドイメージの向上に大きな影響
アレイシ選手は「空力性能に優れているので、ブレーキングでも加速でも高速域でも安定している」とコメント
近年、日本国内でのシェアを徐々に拡大している同社が、次に狙うのは海外市場だ。
「海外市場への参入にMotoGPは無くてはならないカテゴリーですし、カブトのヘルメットが最高峰のレースで戦えることの証明になります。また、そこで得たデータを開発セクションで分析・検証し、製品開発にフィードバックすることで、より良い製品作りにも役立つと考えています。モータースポーツへのサポートは、特に海外ではブランドイメージの向上に大きな影響があります」と口野氏は海外トップライダーと契約した狙いを語る。
現在は海外の専任スタッフが基本的にサービスを行い、アジア・パシフィック・ラウンドについては、国内のスタッフがメインでサポートに当たる。
フィッティングなど、選手ごとの調整・カスタマイズは、シーズン前に実施されるテストの段階で済んでおり、アレイシ選手からは「空力性能に優れているので、内装のパッドをキツくしなくてもヘルメットがブレず、ブレーキングでも加速でも高速域でも安定している。ベンチレーションも効率よく効いている」とのコメントをもらったそうだ。
サーキットで得た情報は一般ユーザーにも有益
全方向からの空気抵抗を低減するエアロフォルムを採用したシャープにえぐられた帽体形状が特徴的な『F-17』
2023年にサポート選手が着用する『F-17』は、ストレートだけでなく、全方向からの空気抵抗を低減するエアロフォルムを採用。前述した“ウェイクスタビライザー”に加え、こちらも特許出願中の走行中に発生する揚力を抑制する“クレストスポイラー”を装備する。
高強度複合素材を使用した帽体は、構造解析を導入して各部の強度を最適化し、強度の向上と軽量化を高い次元で両立。センターロックと二軸ラチェットシールドシステムによって静粛性も大きく向上している。
秋吉選手も「軽く安定していて細かなブレが無いので、被っていて疲れないヘルメット」と『F-17』を評価する
“点のフィット感から包み込むフィット感”へと設計思想から見直された内装は、サポート選手の多くから「これまでのモデルよりも被り心地が良くなった」と評価されており、サーキットで得られた情報は、一般ユーザーにとっても有益なものとなっているようだ。
レースは古くから“走る実験室”ともいわれるが、MotoGPクラス、WSBK以外にも世界選手権を戦うライダーをサポートするオージーケーカブトの世界への挑戦は、まだまだ始まったばかりだ。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
クアルタラロがHJCと巨額契約! アレイシはカブトのユーザーに スズキの撤退もあって、活発だった2023年に向けてのMotoGPストーブリーグ。それに呼応してか、チームの移籍に加え、被るヘルメットを変[…]
Kabuto独自の最新空力技術を採用した『F17』が2023年もMotoGPに挑む! アレイシ・エスパルガロは1989年7月30日生まれ、スペイン出身の33歳。すでにベテランで2スト250ccクラスを[…]
国内ヘルメットメーカーの生産が追い付いていない状態が続いています。特に人気の製品は品薄になっており、KabutoのフラッグシップF-17も例外ではありません。 ユーザーの需要に対して供給が追い付いてい[…]
構造が複雑でパーツ点数が多いシステムヘルメットは重い。慢性的に首や肩凝りに悩まされるライダーにとっては無縁なものという印象でした。 インプレッションなどで一時的に借りて便利だなと感じることはあっても、[…]
使い勝手に磨きをかけ、トータルバランス向上 '17年に登場したエアロブレード5は、公道スポーツ向けのフルフェイス。軽量コンパクトな帽体と抜群の空力性能で人気を博した。筆者も気に入り、被っていたモデルだ[…]
最新の関連記事(Kabuto)
9月上旬~中旬発売:アライ「RAPIDE-NEO HAVE A BIKE DAY」 旧車やネオクラシックバイクにマッチするアライのラパイドネオに、新たなグラフィックモデルが登場した。グラフィックデザイ[…]
ドゥカティを王者へと導くマシンを開発するピッロ選手のシグネチャーモデル 『F-17 Mips MICHELE PIRRO』は、MotoGPに参戦中の『ドゥカティ レノボ チーム』のテストライダーを務め[…]
ジョアン・ミル選手が今季着用中のシグネチャーモデルが登場! 『F-17 Mips JOAN MIR』は、’23年からレプソル・ホンダと契約してMotoGPを戦っているレーシングライダー、ジョアン・ミル[…]
8月上旬発売:Kabuto「AEROBLADE-6 ADACT」 軽量コンパクトなフルフェイスヘルメットで、99%の紫外線と74%赤外線を軽減する「UV&IRカットシールド」を装備する。これによってヘ[…]
コンセプトが異なる3種のフルフェイスにニューグラフィック登場 KabutoのフラッグシップであるF-17は、耐貫通性と衝撃吸収性を備える高強度複合素材帽体『A.C.T.-2』に、徹底した空力特性を加え[…]
最新の関連記事(ヘルメット)
9月上旬~中旬発売:アライ「RAPIDE-NEO HAVE A BIKE DAY」 旧車やネオクラシックバイクにマッチするアライのラパイドネオに、新たなグラフィックモデルが登場した。グラフィックデザイ[…]
皮脂や汗に含まれる尿素が生地を痛めてしまう ──一般の方が汗でびちょびちょのヘルメットをリフレッシュさせたい場合、どのように行えばよいでしょうか? 「どこが外せるのか、どういうふうに洗えばいいのかは、[…]
ヘルメット専用設計で、手提げ&肩にかけてショルダーにしても快適 ツーリング先でのヘルメットの持ち運びのために、ポケットへ忍ばせておくのに最適な、小さく折りたためるヘルメットトートバッグ。出先での急な買[…]
ドゥカティを王者へと導くマシンを開発するピッロ選手のシグネチャーモデル 『F-17 Mips MICHELE PIRRO』は、MotoGPに参戦中の『ドゥカティ レノボ チーム』のテストライダーを務め[…]
ジョアン・ミル選手が今季着用中のシグネチャーモデルが登場! 『F-17 Mips JOAN MIR』は、’23年からレプソル・ホンダと契約してMotoGPを戦っているレーシングライダー、ジョアン・ミル[…]
人気記事ランキング(全体)
夏場は100℃超えも珍しくないけれど… いまやバイクのエンジンは“水冷”が主流。安定した冷却性能によってエンジンパワーを確実に引き出すだけでなく、排出ガス/燃費/静粛性の面でも水冷の方が空冷より有利な[…]
皮脂や汗に含まれる尿素が生地を痛めてしまう ──一般の方が汗でびちょびちょのヘルメットをリフレッシュさせたい場合、どのように行えばよいでしょうか? 「どこが外せるのか、どういうふうに洗えばいいのかは、[…]
RH1250S スポーツスターS:ダウンドラフト吸気の水冷Vツインを黒で統一 121HPを発揮するレボリューションマックス1250Tエンジンをオールブラックにし、精悍さを強調するデザインとなった202[…]
シグナスシリーズ、20年の歴史を背負うニューフェイス 以前は空冷エンジン搭載のコンパクトな原付二種スポーツスクーターとして人気を博した「シグナスX」だが、水冷の新世代「シグナス グリファス」に交代した[…]
作って、触って、攻略する。新感覚のサーキット模型 スマホケースなどの地図柄グッズを手がけるクロスフィールドデザインが、モビリティライフスタイルブランド「レシプロ」の新商品として「レイヤード ランドスケ[…]
最新の投稿記事(全体)
ツーリングの楽しさを気軽に、疲れ知らずで ウェット路面に翻弄され、全日本ロードレース選手権のJ-GP3クラス今季初戦は、決勝9位という不本意な結果に…。その悔しさを癒してもらおうと、新型のRebel […]
9月上旬~中旬発売:アライ「RAPIDE-NEO HAVE A BIKE DAY」 旧車やネオクラシックバイクにマッチするアライのラパイドネオに、新たなグラフィックモデルが登場した。グラフィックデザイ[…]
販売終了が続く絶版車用純正部品を信頼のMADE IN JAPANで復刻 長期間不動状態だったバイクを再始動する際、キャブレターやガソリンタンクの状態もさることながら、クラッチの張り付きも懸念事項のひと[…]
RH975S ナイトスタースペシャル:ダウンドラフト吸気の水冷Vツインを黒で統一 レボリューションマックス搭載モデルでは、燃料タンクをシート下にレイアウトすることでダウンドラフト吸気を実現。従来タンク[…]
BMWライフをスタイリッシュにサポート 安全性と品質を兼ね備えたBMW Motorradギア&ガーメント。2025秋のギア&ガーメントも新作アイテムが目白押し。その中でBMWライフをスタイリッシュにサ[…]
- 1
- 2