「楽しく、カッコよく、そして安全に」オーヴァーレーシングプロジェクツのモノ作りと話題のホンダCB1000Fの開発開始

日本のモータースポーツの聖地である三重県鈴鹿市で、1982年に創業したオーヴァーレーシングプロジェクツは、ホンダモンキーやスーパーカブなどの原付バイクから、カワサキZ900RSやスズキGSX1300Rハヤブサなどのビッグバイクまで、幅広い車種に向けたカスタムパーツ製造を行うと同時に、自社製造のオリジナルフレームを使用したマシンで全日本ロードレース選手権に参戦するなど、多方面にわたり積極的に活動を行ってきた。ここではオーヴァーのモノ作りの哲学を紐解きながら、2025年11月の発売以来大きな話題となっている注目のニューモデル、ホンダCB1000F用パーツ開発についてレポートしよう。
●文&写真:栗田晃 ●BRAND POST提供:オーヴァーレーシングプロジェクツ
機能を成立させた上で独創性と独自性を追求する
愛車を自分好みのスタイルや仕様に変更するカスタムは、ツーリングやサーキット走行と同様にバイクの楽しみ方のジャンルとして確立されている。そしてオリジナルパーツの開発と製造を通じて、カスタム文化の創造に注力してきたのが三重県鈴鹿市のオーヴァーレーシングプロジェクツ(以下オーヴァー)である。
日本に数多くのカスタムメーカーが存在する中で、オーヴァーの大きな特徴は「総合パーツメーカー」であるということ。マフラーやハンドル、ステップやホイールなど個々の部品を専門に製造販売するメーカーは他にもあるが、それらすべて製造するオーヴァーは希有な存在で亜ある。ライダー目線で言えば、オーヴァーブランドならカスタムをトータルコーディネイトできる、ということになる。
市販車向けのカスタムパーツだけでなく、創業以来オリジナルバイクを開発し続けているのも同社の唯一無二の個性である。古い話になるが、1980年代に全日本ロードレース選手権参戦に向けて製作されたTT-F1レーサーであるOV-01から始まったオーヴァー製オリジナルフレームは、現在OV-46Aまでつながる重要なピースとなっている。
オーヴァーのモノ作りにおける重要なポイントは、ユーザーの意表を突く独創性や独自性の追求である。
具体的には、ホンダモンキー用エンジンを搭載できるアルミ削り出しフレーム+ウィッシュボーンガーターモノアームサスペンションのOV-36Aフレームキットや、カワサキNinjaH2用フルビレットスイングアームなど、強烈なインパクトを放つ製品を開発してきた。
また、日本を代表するサンデーレースであるテイストオブツクバの最高峰クラス、ハーキュリーズに参戦するOV-43およびOV-46Aもまた、オーヴァーならではのチャレンジといって良いだろう。
こうした独創性や独自性を追求する上で、常に土台となっているのは機能を成立させることであり「楽しく、カッコよく、そして安全に」という思想である。
独創性や独自性、カッコよさを追求することは重要だが、安全性を二の次にしたり安心感に欠ければユーザーは楽しくない。見て楽しい、乗って楽しい上でカッコよさをとことん突き詰めて細かいところまでこだわることで、最終的に安全性も確保できる。
オーヴァーではこうした理念で製品開発を行い、それが「楽しく、カッコよく、そして安全に」というフレーズに反映されているのだ。
EXPO 2025 大阪・関西万博 大阪ヘルスケアパビリオンで展示された月面探索電動バイク。RIDE DESIGNのプロデュースによるEVプロジェクトの一環で、月面での宇宙船外活動を想定。RIDE DESIGNのコンセプトを元にオーヴァーレーシングプロジェクツがプロトタイプ車両製作を担当した。
テイストオブツクバのハーキュリーズクラスに参戦中のOV-46A(手前)とOV-43(奥)。車両レギュレーションに従ってスチールパイプで構成されたトレリスフレームにホンダCBR1000RR-R用(OV-46A)、カワサキZX-10R用(OV-43)エンジンを搭載したオリジナルレーサー。
ホンダCT125ハンターカブやクロスカブ、スーパーカブやモンキー、DAXなどの4ストミニバイク向けのパーツ開発も盛ん。マフラーやスイングアーム、ブレーキなどの機能部品はもちろん、ツーリングやキャンプなどレジャー用途に応えるアイテムも多い。
開発スタッフがワクワクしながら製品開発を行うことが重要
ここからはオーヴァーレーシングプロジェクツ事業部開発課、金田宙さんの言葉も交えながら、同社のモノ作りを深掘りしていこう。
オーヴァーが製品作りを行う際、最初にユーザーがどんなシーンでどのように楽しむかをイメージして開発を行うという。
「オーヴァーにはマフラーやハンドル、ステップやスイングアームなど多様なパーツがありますが、ニューモデルの登場に合わせて流れ作業的に製品開発を行うわけではありません。車両の寸法を測定してポンと付くパーツを設計すれば良いというわけでもありません。まずはスタッフが自らそのバイクを理解して、純正パーツでちょっと気になる部分や、改善すればライディングがもっと楽しくなり所有欲も満たされそうなポイントを発見し、まるで自分のバイクをカスタムするかようにワクワクしながら開発を行っています」
オーヴァーレーシングプロジェクツ事業部開発課 金田宙さん。「スタッフ自身が面白い、ワクワクしながらパーツ開発を行うことで、ユーザーの皆さんにを持ってお勧めできる製品を製造しています」
そうした観点から力を入れているのが【ハンドル】【バックステップ】【ホイール】【スイングアーム】の4ジャンルだ。このうちハンドルとバックステップはライダーに近い部分、ホイールとスイングアームは地面に近いパーツに分類できる。
「ライダーが手を伸ばしたときに触れるハンドルの高さや垂れ角の変更は分かりやすい違いになりますよね。ステップも同じです。どちらもカッコ良いことは大事ですが、見た目重視、デザインありきではありません」
「例えばステップ。中型以下の車種の中には操作性や質感など改善の余地があるものもあります。シフトチェンジできるしブレーキペダルも踏めるけど、自分のバイクとして見たらこのままじゃちょっと……、と思うような場合は開発にも力が入りますね。ライダーの体格や好みに応じて選べる4ポジションのステップ位置や、デリケートな操作にも追従するベアリング内蔵のシフトペダルやブレーキペダルといった機能性に加えて、切削加工による質感アップも意識して設計しています」
ハンドルやステップに比べて高価なスイングアームやホイールの人気も高いそうだ。
「旧車や絶版車はともかく、現行車で公道を走行する上でスイングアームやホイールに不満を感じることは少ないかもしれません。しかしオーヴァー製のアルミ鍛造ホイールとアルミスイングアームは純正パーツと比べて軽く設計されているので、軽快な操縦性や足周りがドタバタしない乗り心地の良さを実感できます」
「またZ900RS用Snellaは、これまでの引抜材や鋳物やプレスによる加工ではできなかった新たなスイングアームを、アルミ総削り出しによって実現できました。これは見た目の独自性もさることながら、従来のスイングアームとは明らかにフィーリングが異なり、それがプラスに作用しています。こうした製品ができるのも、数々の製品を作りながらスタッフ自身が常にワクワクできることを求め続けているオーヴァーだからこそだと思います」
では、カスタムの基本中の基本と位置づけられてきたマフラーはどうだろう。
「マフラー人気は現在でも高いのは確かです。しかし、度重なる排出ガス規制の強化や純正マフラーの完成度の高さから、アフターマーケット製マフラー全般にとって明確な差を出すことが難しくなってきた実情があります。デザインの違いや軽量化はメリットになりますが、ボルトオンで簡単にパワーアップするのも簡単ではありません」
「4気筒車用のチタン製フルエキゾーストマフラーは25万円以上になることも決して珍しくなく、音量は純正並で劇的なパワーアップも難しいとなると、同じようなコストでバネ下重量の軽減=実感できる変化を得られるスイングアーム交換を選ばれるお客様も少なくありません」
「ただこれを逆手に取って、パワーを求めるだけでなくバイクのキャラクターを演出する方向で開発したマフラーが高評価をいただいた例もあります。カワサキZ900RSのフルエキゾーストには中低速の扱いやすさを重視して集合方式を4-2-1とした製品がある一方、あえて旧車らしさを演出する目的で4-1の集合方式でエキゾーストパイプの等長化にもこだわりすぎないよう開発した製品もあります。これは低回転で荒っぽい、いかにも絶版車風の仕上がりがカスタムユーザーに大好評です」
時代が移り変わってもオーヴァーにとってマフラーが重要なパーツであることに変わりはない。しかしポジションパーツや足周りパーツなど様々なカスタムパーツを開発する中で、マフラーの役割は徐々に変化しているとも言えるだろう。
オーヴァーレーシングプロジェクツを代表するカスタムパーツ
カワサキZ900RS用スポーツライディングハンドルキット。専用トップブリッジを装着することで純正のパイプハンドルをセパレートハンドルに変更し、クランプ部とハンドルバー間のスペーサーによって高さを調整できる。
車体との一体感を体感できるバックステップは、ライダーの好みによりバック量/アップ量を4種類の組み合わせから選択できる。滑りづらいステップバー表面加工やヒールガード、作動性の良いペダルなど細部まで作り込まれている。
公道で使用可能なJWL規格に適合したアルミ鍛造ホイールGP-XX。細く強靱な20本スポークはクラシカルな雰囲気を醸し出し、カワサキZ900RSなどのネオクラシックモデルにもマッチする。
純正パーツと交換すれば軽量化の効果を体感できるアルミ製スイングアーム。機種や仕様によって角パイプや目の字断面、楕円パイプなどの素材を使い分け、スタビライザーの有無や本体色など多様なラインナップがある。
カスタムベースとして人気の高いカワサキZ900RS。マフラー、ハンドル、バックステップ、ホイール、スイングアーム、サブフレームなど、カスタム御用達パーツをすべて開発製造しているのがオーヴァーの特長だ。
アップハンドルや絞りハンドルといった旧車風の定番ではなく、スポーティさを際立たせるセパレートハンドル。
メインアームに削り出しパーツを使用することで、従来の製法では実現できなかったデザインや重量、剛性を実現したスイングアーム、Snella。独創性や独自性に溢れている。
昔も今もカスタムパーツの代表的存在であるマフラー。デザインの違いやエンジンフィーリングの演出など、馬力アップ以外に求められる役割もある。
CB1000F用パーツ開発の基本方針とは?
先に紹介したとおり、オーヴァーではスタッフが車両をインプレッションした上で、カスタム効果の見込める部分をピックアップしてパーツ開発を行う。またユーザー層を想定して、そこに合わせた開発も行うという。
CB1000Fの開発車両は2026年1月に納車されたばかり。そしてじっくりインプレッションを行う間もなく、3月に開催される東京モーターサイクルショーに向けたパーツ開発が急ピッチで進められる。
そんな中で、オーヴァーは話題のCB1000Fをどのようにカスタムしていくのだろうか。
「ガソリンタンクのグラフィックから“スペンサーレプリカ”をイメージする方もいると思いますが、バイクのキャラクターとしてはオーソドックスなスポーツバイク、街乗りやツーリングを楽しみながらスポーティな走りを期待するユーザー層を想定しています。その点ではカスタム行為自体に楽しさを見いだすユーザーも多いカワサキZ900RSとは傾向が異なるかもしれません」
「そうなるとセパレートハンドルや極端なバックステップではなく、純正のライディングポジションを大きく変えることなく、我々が得意とする削り出しパーツで操作性の良さと上質感を両立させたいですね」
「マフラーはエアークリーナーなどの吸気系やコンピューター(ECU)までは手を加えず、純粋にマフラー交換だけで性能が出るパーツを開発する予定です。バイクメーカーや車種によって特徴が出るのですが、ホンダ車に乗られるライダーはカワサキ車ユーザーに比べてジェントルで大人な感じを求められる印象があるので、カスタムバイク感を前面に出すより、所有感を満たす仕上がりを追求します」とのこと。
単なるカスタムパーツメーカーではなく「憧れられる存在」を目指すオーヴァー。ハンドルやステップやマフラーは機能部品であると同時に、装着することで誇らしさが生まれ、所有満足度が高まる。
CB1000Fを「楽しく、カッコよく、そして安全に」するため、これから続々と誕生するパーツたち。東京モーターサイクルショーまでの間にどんなパーツたちが登場するのか、引き続きレポートをしていくので、確認してもらいたい。
東京モーターサイクルショーに向けてカスタムパーツ開発が急ピッチで進むホンダCB1000F。オーヴァーレーシングプロジェクツの手腕でどのようなスタイルに変貌を遂げるのか、とても楽しみだ。
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