
昭和の時代、ホンダが開発したモペット「ホリディ」をご存じでしょうか? ・・・え、知らない? それもそのはず。この「ホリディ」は一般販売されることはなく、「幻の市販されなかったバイク」として知られています。なんでも操縦安定性に問題があったとか。そんな幻のバイクになってしまったホリディを直して乗ってみた正直なレポートです!
●文:ヤングマシン編集部(DIY道楽テツ)
幻のモペット「ホンダホリディ」
昭和の時代、ホンダが開発したモペット「ホリディ」の正式名称は「ホンダホリディ」、型式はPZ50。1973年頃「ブーンバイク」というアイデアを基に、ホンダ社内のアイデアコンテストを経て、鈴鹿製作所の少人数チームが開発を担当。約1200台が生産されましたが、操縦安定性に課題があったため発売は中止されました。
一説によれば、試乗した本田宗一郎が転倒して激怒してしまい、販売が中止されたという噂がありますが・・・関係者によればそれはあくまでデマとのこと。でもどっちに転んでも「操縦安定性に課題」があったというのは間違いなさそうですよね。
ただし、このホリディは完全にお蔵入りになったわけではなく、生産された車体はホンダ従業員や販売店関係者にのみ販売されたといわれています。つまり、市販されなかったものの「関係者限定」で流通していたというわけです。
さらに驚くべきことに、正式販売されないにもかかわらず3型までマイナーチェンジが行われたとされており、その存在はいかにも「幻のバイク」らしい匂いがプンプンなのですよ。
その幻のバイクがなぜかウチにある不思議
で、そのホリディですが・・・なぜか筆者のウチに来ました。
こんな状態のマシンが・・・
そしてレストアしました!
きらり~んとレストア完成!
いやー、このバイク。話のネタには困らないのですよ。たとえばパーツリスト。
普通のバイクなら例え原付スクーターだったとしてもそれなりの厚みのページ数になるのですが、ホリディの場合はエンジンがコレ。
一ページだけかい!! いくらシンプルなエンジンとはいえ、たった1ページに全部品が集約ですよ? 大きい部品はまだマシとしても小さい部品が見にくいことこの上ない。
しかもそれだけじゃない。車体編はもっとすごいんだ、どん!
見開きだけ!
えっと、これは何ですか? 初見殺しのついでに老眼殺しですか? コンビニまで走ってB4サイズに拡大コピーしたのですが、それでも小さすぎる。部品の向きも分かりにくい。
しかもパーツごとの縮尺がバラバラだから何がどの部品だか分かりにくい。ついでに言わせてもらうとパーツ番号の数字も潰れちゃって見えやしない!!(←お手上げ状態)
しかもレストアのスタートはこの状態からというね・・・!
自分で分解したのならまだ見当がつくというものですが、他の方がバラしたものが箱に入った状態で、それをさらに見にくいことこの上ないパーツリストだけで組み立てていくという鬼畜チャレンジをしたわけです。
(いやー、ホンっとに長い道のりでした)
何度も挫けそうになったけど、なんとか完成までこぎつけることができました。膨大な時間がかかってしまったのでそれをすべてレポートしていたら1冊の本になってしまいますが、YouTubeの方で公開していますので興味ある方はぜひともご覧になっていただければこれ幸いかと。
レストア第一回目のYouTube動画です。
危険な? 幻のバイクがやってきた!
そのメカニズムは開発者の情熱が息づく走る資料館
レストア作業は困難を極めましたが、そのメカニズムはまるで博物館の資料を紐解くような気分の連続でした。たとえばエンジン。
ミッションはおろかオイルすら入っていない極めてシンプルな構造の空冷2サイクルエンジンで、分解して全部の部品を並べてもこんな感じ。
部品点数、少なっ!! たったこんだけの部品で1分間に何千回も回るエンジンになるかと思うとドキワクものでしたよ。
エンジン駆動を伝えるVベルトにテンション掛ける目的でフレームとの間にはスプリングが入ってるし(押せばエンジンがブルブル動いちゃう)。
「エンジンのクランクシャフトの回転をホイールに伝えるための遠心クラッチ」と「ペダルのクランクの回転をクランクシャフトに伝えるための遠心クラッチ」が内側と外側の二重に装着されているというなんとも摩訶不思議な構造になっていたり。
モペットなので、右側は自転車としてのチェーンが後輪に繋がって、左側はエンジンからの駆動を伝えるバイクとしてのチェーンが後輪に繋がっていて、これでペダルを回すと二本のチェーンが同時にメカニカルに回る姿は・・・かなり、エモいです。
それ以外にも随所に見られる部品は見たこともないような形をしていたり、今では手に入らない部品だったり。正直な話、整備性は悪いし、今ならもっとシンプルに作れる部分も多数あります。
でもそれはつまり1973年というバイク開発の過渡期のエンジニアたちの苦労の痕跡であり、アイデアの結晶でもあるわけです。こういった試行錯誤があったればこそ、今の故障の少ない高精度なバイクがあると思うとなんとも感慨深いのですよ。
全バラ状態から組み上げたからこそ隅々まで手に取って触れることができたので、本当に貴重な体験だったと思います(大変だったけど)。
注目すべきはその始動方法
ホリディの始動方法は、かなり面白いです。これはぜひとも動画のほうでも見ていただきたい、一見の価値があります!
まずハンドルロックがイグニッションキーを兼用しているので、ロックの解除とともにイグニッションがオンになります。
次にクランク部分のホイール(名称不明なので謎ホイールと呼んでる)のレバーを「ON」にします。
左ハンドルのところにある小さなレバー(デコンプ)を引きます。
センタースタンドをかけてペダルを早めに回して、回転が上がったところでデコンプレバーをリリースすると…
「ペダルのクランクの回転をクランクシャフトに伝えるための遠心クラッチ」が繋がってエンジンのクランクシャフトが回るので、それでやっとエンジンを始動することができます!!
いや~・・・このエンジンの始動方法が最初まったくわからなくて、セルスターターはおろかキックペダルもない状態でどうやってエンジンかけるものかと悩んでいたので、仕組みが分かった時は本当にすっきりしましたね~!古いのにちゃんとクラッチが動作したのにマジで感動です。メイドインジャパンすげぇ!
感動を共有したい!【火入れの儀式】※エンジン始動テストのYouTube動画です
自転車モードの実力とは
レストアをして車体が完成したところで、いよいよ実走テストですよ! まずはペダルを漕いで人力で走る「自転車モード」からいってみましょうか。
おっさんがこんな可愛いフォルムのモペットを「キコキコ」とペダルを漕いで走ってたら、さぞかしシュールで可愛い絵面になるんじゃないかな~と思っていたのですが・・・。
これが遅い! いや、遅いなんてもんじゃない。漕げども進まないので、ほんの25m走ったところで汗が吹き出してくる始末。正直な感想を言わせてもらうと「自転車として走れたもんじゃない」!
レストアの完成! テスト走行※テスト走行のYouTube動画です
販売中止になった元凶「操縦安定性に課題」を体験
そんでもって気になるのはやっぱりこれですよね。ホリディが発売中止になったという元凶である「操縦安定性」とは如何なるものなのか?
と言っても・・・これまでホンダのモンキー(8インチの旧型)や、同じくホンダのズーク、ヤマハのポッケ等々、とても安定しているとは言えないミニバイクをいろいろ乗ってきたので、操縦安定性に難があると言ってもビビるようなことはないだろう~・・・なぁんて。
そう、タカをくくっていたのですが!
走ってみると・・・怖い! 曲がってみると・・・ ぎゃあ。もっと怖い!
曲がらないとかじゃなくて、むしろ「曲がりすぎる」のですよ。もう、ストン! と落ちる(曲がる)感じ。そんでもって直進安定性がないに等しい。はじめに走り出した時は、まっすぐ走るのすら難しくてフラフラしてしまったほど。
もっとも、ある程度走ったらそれもだんだん慣れてきて、概ね最高速度である30km/hで走ってもそれほど怖い思いをすることはなくなっていったのですが、でもそれが初心者の方が乗っても安全かと言うと・・・微妙、というかかなりアウトでしょうってのが正直な感想でしたね!
このホリディの発売中止ののちに、「ノビオ」や「ピープル」などのモペットたちはみなホイールが大きくなって、フレームも一回り太くしっかりしたのを見ると、このホリディで得たノウハウが大いに生きてるのでしょうね~。
チャンスがあれば乗ってみてほしい
そんなわけで今回は友人のバイクのレストアという形で「幻のバイク」に触れて、直して、そして実際に乗る! という機会を得ることができたのですが、思わずみなさんに伝えたくなっちゃう、とても興味深いバイクでしたね。
ハイパワーのスーパースポーツとは異なる次元で、小さなバイクには独特の恐怖や緊張感があります。大きなバイクではけっして味わえない、その小さなバイクならではの面白さにハマるんです(わかってくれる人、絶対いるはず)。そうした体験を与えてくれたのが、このホンダ「ホリディ」でした。
皆様も、もしチャンスがあったらぜひとも乗ってみてください! 現代バイクでは決して味わうことのできないその乗り味に、きっと感動(恐怖?)できるはずです!
ほとんど同い年じゃないか!?→「レトロ自販機の聖地」52年前のレトロなバイクで行ってみた
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