
MotoGP 第10戦チェコGPで話題になったのは、スプリントレースで首位を独走していたマルク・マルケス選手が後続のペドロ・アコスタ選手に先行させる動きを見せたこと。結局はマルケス選手が勝ったのだが、レースの配信などでこの動きの理由には「タイヤ内圧規定」があると解説された。では、タイヤ内圧規定とはいったいどんなものなのだろうか?
●文: Nom(埜邑博道) ●写真:DUCATI、Red Bull、ピレリジャパン ●外部リンク:ピレリファンサイト
タイヤの内圧規定ってなんだ?
今シーズン、MotoGPクラスでたびたび話題になっているタイヤの「内圧規定」。MotoGPをTV観戦しているファンの方なら、この言葉を耳にしたことがあるでしょう。
ときには順位にも影響を及ぼすこの規定、いったいどういうもので、なんのために決められているのでしょうか。
そして、実際、MotoGPクラスのレースにどのような影響を及ぼしているのでしょうか。
7月19日に開催されたチェコGPのMotoGPクラス・スプリントレースで、ドゥカティ・ファクトリー(ドゥカティ・レノボ・チーム)のマルク・マルケス選手とフランチェスコ・バニャイア選手がレース中に意図的にペースダウンして、後続の選手を先に行かせるシーンを目撃した方もいらっしゃるでしょう。
それまでトップを独走していたマルケス選手でしたが、ペドロ・アコスタ選手(KTM)にトップを譲ると、それからアコスタ選手の背後にぴったり張り付いて走り続け、残り1周半のところでアコスタを抜き去り、そのままトップでチェッカーを受けました。
残り1周半の時点で、アコスタを抜き去ってトップに立ちそのままゴールしたマルケス。
一方、ポールポジションからスタートしたバニャイア選手は、巻き返すことができずに7位でフィニッシュ。対照的な結果に終わったドゥカティ・ファクトリーの2人でしたが、なぜこんなレース展開になったのでしょうか。
マルケス同様、突如ペースダウンをして、最終的に7位でフィニッシュしたバニャイア選手。同じチームの2人は、明暗分かれる結果となった。
MotoGPクラスの内圧規定とは?
レース中、ブレーキングやコーナリングでタイヤに摩擦熱が伝わるとタイヤ内の温度と内圧が高くなります。逆に、内圧が低いとタイヤの扁平率が上がって(つまりタイヤの接地面積が増えて)グリップ力が高まるといいます。
そこで、意図的に内圧を低くしてグリップ力を高めることを防ぐために、MotoGPクラスでは内圧の規定が厳しく定められています。
スプリントレースでは最低30%の周回数、決勝レースでは最低50%以上の周回数は、最低内圧を上回った状態で走行する必要があり、これに違反するとペナルティを受けてしまううのです。
現在のMotoGPではタイヤの最低内圧=空気圧はフロントが1.9bar、リヤが1.7barが最低値となっていて、すべてのMotoGPマシンにはタイヤ空気圧監視システム(TPMS)が搭載されています。
タイヤの内圧が重要なのはタイヤメーカーを問わない。公道ならバイクメーカー推奨、サーキット走行ならタイヤメーカー推奨のタイヤ内圧を基準に、必要に応じて微調整しよう。
このシステムは、タイヤの空気圧と内部温度をリアルタイムで計測してデータを送信し、走行中もライダーのダッシュボードやチームのモニターに表示されます。
チェコGPのスプリントレースでは、マルケス選手も、そしてバニャイア選手も、ダッシュボードに表示された内圧のデータを見て、最低内圧違反になると思い自主的にペースダウンしたということです。
ギリギリの低圧で出走したときに単独で先頭を走ると走行風でフロントタイヤの温度が下がり、既定のタイヤ内圧を下回ってしまうことがある。前走車の直後を走れば走行風が弱まり、前走車の排熱もわずかながら期待できることでタイヤ内圧を規定まで上げることができるというわけだ。
レース後の報道などを見ると、内圧違反と表示されたのはドゥカティが搭載するモニター機器のエラーだったようですが、ひとつ間違えるとレース結果に重大な変化を与えてしまうタイヤの内圧規定。来年から、ミシュランに代わってMotoGPにタイヤ供給をすることになったピレリの日本法人2輪事業部代表の児玉さんにお話を聞いてみました。
タイヤの内圧が下がり過ぎるとどうなるのか
「まずは現在のタイヤ供給メーカーの賢明なる努力によって大きな事故もなく、大会が運営されていることに敬意を表します。
我々としてはレースのレギュレーションに対して意見を言う立場にないですが、なぜ最低内圧の規定があるのか? という点についてタイヤメーカー側の意見を推察しますと、『安全性の担保』に尽きると思います。
今やタイヤの内圧管理はレースマネジメントにおける重要なセッティング項目となってきておりますが、タイヤメーカーの本来の優先順位1位は『安全に走行できること』です。極端な低圧走行ではタイヤが性能を発揮しないどころか、破壊されてしまうリスクがあります。そうは言ってもラップタイムが向上していかなければならないというタイヤメーカーとしての命題がありますから、悩ましいところではあります。
無論、競技ですから、あらゆる手段を用いてもライバルを出し抜くという考え方もあると思います。ゆえに破壊が起きる手前にリミットを置く必要があるのは必然です。
内圧管理に管理モニターが導入される、レース結果に影響を及ぼす要素になり得るなど、話題になっている背景には空力パーツの進化もあると思います。これらの進化がタイヤに与える負荷をより厳しいものにしています。
いずれにしてもライダーの視点、メカニックの視点、レース運営者の視点、興行主の視点がそれぞれ違うように、パーツサプライヤー(この場合はタイヤメーカー)の視点も異なるものがあり、そういうものを包含してこの複雑な競技は世界中で人気を博しているのだと思います。日本ではイマイチ盛り上がりに欠けるようですが、MotoGPレースは本当に面白いので、みなさんもいろんな視点でレースを楽しんでみてください!」
内圧が下がりすぎることにより、転倒などのリスクが増えるだけでなく、最悪の場合はタイヤが破壊される危険性もあるとのこと。
ご存じのように、タイヤはただのゴムの塊ではなく、カーカスやベルト、サイドウォール、そしてトレッドなど複数のパーツから構成されています。そのため内圧が極端に下がると、パーツの複合体であるタイヤの構造に異変が起き、タイヤが壊れてしまう可能性もあるのだそうです。
300馬力を超える出力に加え、空力パーツによって強烈なダウンフォースを生んでいる現在のMotoGPマシンですから、タイヤにかかる負担は想像を絶するものでしょう。
そんな極限の戦いが毎レース行われているのですから、レースのオーガナイザーは安全を担保するための規定を設けています。しかし、ライダー、チームにとってはレースは勝つことが大命題。そのためには、さまざまなレギュレーションを守りながらも、最高のパフォーマンスを発揮する絶妙なマシンセッティングを行っています。
内圧に関しても当然そうで、規定違反にならず、最大のグリップ力を発揮するギリギリのところでセッティングが行われているのです。
とはいえ、いったんスタートしてしまえば何が起こるか分からないのがレースです。思いもよらないアクシデントが起こることもありますし、チェコGPのときのマルケス選手のように独走しすぎて常にフロントタイヤにダイレクトに風が当たってしまう場合もあります。TVを観ていると、誰が抜いたとか、誰が抜かれたとかに興味がいってしまいますが、その裏側では安全を担保しながら各チーム、ライダーによる丁々発止の駆け引きも行われているのです。
ヨーロッパやアジアに比べるとここ日本でのMotoGP人気はそれほど高くはない気がします。でも、今年からMotoGPにステップアップして、まずまずの結果を出し将来を嘱望されている小椋藍選手(トラックハウス・MotoGPチーム)も3年目となる再来年からアプリリア・ファクトリー入りも噂されるほど。
また、いまのF1の大人気を仕掛けた「リバティメディア」によるMotoGPの買収が完了し、さらなるMotoGP人気に火をつけるさまざまな施策が行われ、ショー的要素が格段に高まることが予想されています。
そんな状況の中、9月26日~28日までモビリティリゾート・もてぎで日本GPが開催されます。みなさんもぜひもてぎに足を運んで、トラックでの争いの裏側にある虚々実々の戦いをその目で確認してください。
そして、一般公道でもタイヤの内圧管理=エア管理はとても重要なこと。破壊されるまでいかなくとも、本来の性能が発揮できない、ライフが短くなるなど、適正なエア管理をしなければトラブルを招きかねません。
楽しく安全にバイクライフを送るためにも、MotoGPマシンに倣ってしっかりエア管理を行いましょう。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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