どこまでも攻められるのに、しなやかで乗り心地抜群!

新技術が生み出した悪魔のグリップの正体とは?【ピレリ ディアブロ ロッソIV コルサ 試乗!】

ピレリタイヤのラインナップは、物凄く細分化されている。これはターゲットをピンポイントに絞り込んで開発しているからゆえだが、ユーザー側からすると悩みの種にもなりやすい。しかし、試乗すると最新のディアブロ ロッソIV(クワトロ)コルサはターゲットがとても明確。これまで両立できそうでできていなかった、ソフトな乗り心地と高いグリップを見事に調和させていたのだ。


●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:ピレリジャパン ●外部リンク:ピレリジャパン

ハイグリップタイヤ並みのグリップなのに乗り心地も良い!

2021年に登場したピレリのディアブロ・ロッソ IV(クワトロ)をさらにスポーティにしたのが、ディアブロ ロッソ IV コルサ(以下、クワトロ・コルサ)だ。

PIRELLI DIABLO ROSSO Ⅳ CORSA
ピレリ ディアブロ・ロッソ・クワトロ・コルサ/排水性を確保しながら、横方向のグルーブを最小化したトレッドデザイン。ミッドリーン時の設置面積を広げ、旋回中の剛性と横方向のグリップを確保。フルバンク時にはスリックエリアを使うことで、高いグリップ力を得ることが可能。

しかしピレリタイヤのこのカテゴリーにはディアブロ スーパーコルサSPがあり、クワトロ・コルサはスーパーコルサSPとロッソ・クワトロの間のポジションニングとなる。

ここまでタイヤ作りを細分化する意味はどこにあるのだろう? と、疑問が出てくるほどバリエーションに富んだラインナップをピレリは持っているのだ。

そして欧州車のスポーツモデルの純正タイヤは現在もディアブロ・ロッソIIが多く、これも加味するとタイヤ選びはより複雑さを増す。ここまで細分化する理由は? と思ったのだが、そんな疑問は試乗するとすぐに解決した。クワトロ・コルサは、今ピレリが考える公道用スポーツタイヤのトップエンドと考えて良いことが明確に体感できたからだ。

結論を言うと、スーパーコルサSPでウエット路面や寒い日が不安な方や、乗り味がソリッド過ぎると感じている方、ディアブロロッソIIで公道とサーキットを楽しんでいる方には、最新のクワトロ・コルサをぜひオススメしたい。
 
今回は公道とサーキットを走ったので、その模様をお届けしよう。

クワトロ・コルサのリリースにあったINFERNAL GRIP(悪魔のようなグリップ)のビジュアル。このようなインパクトのあるPRと世界観は、イタリアブランドならでは。悪魔のようなグリップ……ってどんなグリップだろう、と好奇心をくすぐられる。

アベレージを上げても電子制御の不自然な介入がない

テストしたのはドゥカティのパニガーレV4 S。214psを発揮するスーパースポーツだ。公道をスポーツモードで走り出して感じるのは、乗り心地の良さ。路面追従性が高く、ギャップも素直に吸収。また、スーパーコルサSPのような硬いフィーリングや尖ったプロファイル(タイヤの形状)によるクイック過ぎる動きもない。ちなみに指定空気圧は『フロント:2.3キロ、リヤ:2.1キロ』と低めだが、今回は少し高めの前後2.5にセット。それでも硬さはない。

今回はドゥカティのパニガーレV4 Sに装着。スーパースポーツのトップエンドにストリートメインのタイヤを履いて、どこまでポテンシャルを発揮できるか検証してみた。

また交差点などの小回りでも穏やか。スーパーコルサSPだとバイクが先行してどんどん曲がりたがるが、クワトロ・コルサは安定感を持ったままライダーの思い通りにターンインしていく感覚が強い。

翌日は、ピレリ ファントラック デイに参加するため、都内から自走で千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイを目指す。高速道路なども神経質さを感じにくい。

ピレリ ファントラック デイは、しっかりとクラス分けされており、マナーが良いライダーが多い。ショップ申し込みがメインのため、きちんとメンテナンスされた車両が集まる安心感の高い走行会だ。

1872年にジョバンニ・バティスタ・ピレリが創業し、1879年に設立されたピレリケーブル&システムは、電話用通信ケーブルの製造を開始し、電話網が広がるとともに成長。1890年には自転車用タイヤ『ティポ・ミラノ』を発表した。2022年、ピレリは創業150周年を迎えた。それを記念して、2022年に製造されるクワトロ・ロッソには、ご覧のプリントが入る。

1本目は、冷感で『フロント:2.3キロ、リヤ:2.1キロ』の指定空気圧で、モードは『スポーツ』で走り出す。しっかりスロットルを開け、丁寧にブレーキングしながらタイヤを揉んで熱を入れていく。

今回はピレリ ファン トラック デイに自走で参加。帰路はかなりのウエット路面だったが、パニガーレV4 Sは安心感に溢れていた。これがスーパーコルサSPだったらかなり気を使っていたはず。

暖まりの早さは特筆で、グリップが高まっていくのが明確だ。市街地で感じたとおり、ハンドリングは穏やか。でも、曲がらない感覚はなく、常にパニガーレV4 Sがライダーのコントロール下にあり安心感が高い。そして、サーキットでもしなやかさが光る。

スタンダードのスーパーコルサSPはプロダクションレース用ではないものの、ハンドリングもソリッドで、ピレリタイヤの中ではフィーリングも硬質。荷重を与えるとライダーの操作にどこまでも応えてくれるが、その操作が曖昧だと難しさを感じる部分もある。一方で、クワトロ・コルサはその難しさをなくしたような感覚だから、ペースも上げやすい。

実はストリートメインのタイヤをスーパースポーツに履いてサーキットを走ると、電子制御の介入が早まることが多いのだが、クワトロ・コルサにはその傾向がなく、どこまでも自然。これはタイヤがしっかりとグリップしている証である。

アップ&ダウンがあり、ヘアピンから高速コーナーまでを楽しめる袖ヶ浦フォレストレースウエイを走行。タイヤやバイクのキャラクターが出やすいコースだが、パニガーレV4 S×クアトロ・コルサの組み合わせに苦手なシーンは見当たらなかった。

空気圧で乗り味が変化するのは、さすがコルサ!

よりメリハリのあるライディングを心がけ、ペースアップ。すると若干フロントの応答性が足りなくなってきたのと、リヤが張ってきたので一度パドックに戻り空気圧を調整。この辺りもすぐに対応してくれるのがピレリ ファントラック ディの魅力だ。

初めてのタイヤだったので、走行前にタイヤサービスの岡屋さんに空気圧を相談。まずは指定空気圧でスタートし、その後も何度も調整してもらいつつ、アドバイスもいただいた。これがピレリ ファン トラック ディの魅力。

計測してもらうと温感で『フロント:2.5キロ、リヤ:2.6キロ』まで上がっていた。タイヤサービスの岡谷さんに症状を伝えると的確なアドバイスをもらえ、『フロント:2.3キロ、リヤ:2.4キロ』にセット。

パニガーレV4 Sのライディングモードも『スポーツ』から『レース』へ。スロットルレスポンスが向上し、電子制御の介入も少なめになり、さらにサスペンションの減衰力も強くなるため、シャキッとした動きになる。そんなパニガーレV4 S本来のキャラクターとクワトロ・ロッソの相性も抜群だった。

前輪の安心感が向上し、それなりのバンク角までブレーキを残せるように。さらにその後、向きを変える際のレスポンスもアップ。リヤのグリップも増し、より大胆にスロットルを開けられるようになってきた。前後のバランスが向上し、旋回中のライン調整をしやすい。
 
袖ヶ浦フォレストレースウェイの5-7コーナーは、下りの大きな左コーナーなのだが、ここの進入は信頼できるフロントのフィーリングがないと最初の向き変えが決まらない。

でも、クワトロ・コルサはハイグリップタイヤとほぼ同じ乗り方が可能。それは「ここまでいけるか〜」とちょっと感動するレベルで、もはやストリートメインのタイヤのフィーリングではない。

走行後、再び空気圧を計測してもらうと温感で『フロント:2.4、リヤ:2.5』になっていたので、『フロント:2.3、リヤ:2.4』に再びセットしてもらった。

こうやって空気圧を変化させていくと、着実に好みに近づくのがタイヤの面白いところ。この面白さに気がつくと普段から空気圧が気になるようになるので、意識してみると良いかもしれない。

今回、モードは『スポーツ』と『レース』をテスト。どちらのモードも電子制御の介入の仕方はハイグリップタイヤそのものだった。制御が入った時の動きまでをきちんと考慮して開発しているのがピレリタイヤの特徴でもある。

カーボンブラックのスペシャルコンパウンド(図のオレンジ部分)を、センター&ショルダーのコンパウンドの下に敷くことで、高い安定性を確保。これが温度にかかわらず、タイヤ本来の性能を発揮させることに貢献している。

左はフロント。クワトロはセンター部分のハードコンパウンドの面積が33%なのに対し、クワトロ・コルサは45%と面積を増加させている。右はリヤ。クワトロはサイズによって3分割と5分割のコンパウンドを採用。クワトロ・コルサは3分割で、センターはハードでなくミディアムコンパウンドを採用。これがウォームアップ性の高さに貢献。

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