
「初めての溶接機は、アーク溶接と半自動溶接のどちらがいいですか?」そんな質問をよくいただきます。正直、返答には少し困ってしまいます。というのも、一口に溶接といっても、この2つはそれぞれ一長一短。「コッチがおすすめ!」と即答できるわけではないんです。そこで今回は、ビギナーでも溶接を“始めやすい”のはどちらなのか、考えてみたいと思います~!
●文:ヤングマシン編集部(DIY道楽テツ)
初心者向けの溶接機は?
「初心者ですが、溶接機は何を買えばいいでしょうか?」そんな質問をいただくことが、最近増えています。折れたステーの修理から始まり、フレーム補強やスイングアーム自作、極めつけがフレームの自作まで。溶接に興味を持つ方は意外と多いようですね。
さて、100V電源でも使える溶接機といえば、大きく分けて「アーク溶接」と「半自動溶接」があります。ちなみに「TIG(ティグ)溶接」というものもあるのですが、これは別途アルゴンガスが必要だったりと、設備的にも金額的にも一般的とは言えないので除外させていただきますね。
話を続けましょうか。
まず「アーク溶接」はとにかく安いのが魅力。もともと安いのに近年はさらに価格も下がり、同時に性能も向上しています。そしてもうひとつ「半自動溶接」というものがあります。これは本来は別途ガスが必要なのですが、特殊なワイヤーを使うことでシールドガスなしでも使える「ノンガス半自動溶接」がどんどん進化しています。
アーク溶接
アーク溶接は、ポッキーのような棒状の「溶接棒(被覆アーク溶接棒)」をホルダーにセットし、母材にアークを飛ばして溶接する方式です。
アークのスタートは少しコツが必要で、母材に軽くタッピングしたり、こするようにして火花を発生させます。溶け込みが深く、強度面で優れているのが特徴。しかも溶接機自体は安価かつコンパクトで、構造もシンプルなため、準備や片付けも比較的手軽に行えます。
小さいものや変わり種のアーク溶接もある
ただし、溶接中は溶接棒が徐々に短くなっていくため、それに合わせてトーチ(ホルダー)を母材に近づけ続ける必要があります。このため、慣れるまではやや難易度が高めです。
ノンガス半自動溶接
「半自動」という名前の通り、アーク溶接でいうところの溶接棒にあたる溶接ワイヤーがリール状で本体にセットされています。トーチのトリガーを引くと、ワイヤーが自動的に送り出され、先端で母材とスパークして溶接できる仕組みです。
アーク溶接と違って、溶接棒の付け替えが不要で、ワイヤーが途切れることなく供給されるため、長い距離の溶接もスムーズ。さらに、アーク(火花)スタートがとても容易で、初心者にも扱いやすいという利点があります。
ただし、母材にしっかり溶け込んでいなくても、その上から溶けたワイヤーがどんどん積み重なってしまうため、いわゆる「ダンゴ溶接(溶接不良)」になりやすいのが弱点です。溶け込みが浅くなる傾向もあり、一見きれいに付いているようでも、実際には強度が足りず「パキッ」と外れてしまうことがあります(実はロボット溶接でも時々発生する現象です)。
初心者にも扱いやすいのはドッチ?
では、アークと半自動、初心者にはどちらが扱いやすいのでしょうか?
専門家の中には「まずはアークから」とすすめる人がいます。実際、溶接の養成学校や職業訓練所では、基礎技術の習得としてアーク溶接を入門に選んでいるところも多いようです。
ただし、アーク溶接は最初の火花(スパーク)を飛ばす工程が難関。溶接棒の先端が母材に「バチッ」とくっつき、外そうとして「キコキコ」やっているうちに、離れた瞬間にまた「バチッ」となり、その強烈な光で目をチカチカさせてしまう…そんな経験をして嫌になってしまう人も少なくありません。
さらに、熱のかけ方を誤ると鉄板に穴が空くだけで、肝心の溶接にならないという“初心者トラウマ”もありがちです。
一方、ノンガス半自動溶接は、ワイヤーが自動で送り出されるため、初めての人でも火花を飛ばすのはとても容易。これまでビギナーに教えてきた中でも、「火花が出せなかった」という人はほとんどいませんでした。
しかし、先ほど述べたように、半自動溶接は母材にしっかり溶け込んでいなくても、溶けたワイヤーが上にどんどん積み重なっていってしまいます。そのため、一見きれいに仕上がっていても、実際には強度がなく、「ポロッ」と外れてしまうケースが多いのです。
あえて勧めるなら半自動溶接
このように、どちらの溶接方式にも一長一短があります。水を差すようで心苦しいのですが、結論としては「どちらも簡単ではない」というのが正直なところです。
それでも、これまでの経験からあえて初心者にすすめるなら、私は「半自動溶接」を推します。
理由はシンプルで、私自身が初めての溶接で100Vアーク溶接に挑戦し、見事に惨敗したからです(笑)。
とくに最初の火花! いわゆるアークスタートが本当に難しくて、ここで心が折れました。当時の100Vアーク溶接機は今と違ってとても使いにくく、正直“オモチャみたいなシロモノ”だったのですよ(←プロの方がそう言ってました)。
何度やってもまともに溶接できず、「自分には才能がないのか…」と落ち込んでいたのですが、試しに200V機を使わせてもらったら・・・あらビックリ、あっさり溶接できてしまったのです。
現在のアーク溶接機は進化が著しく、100V機でも昔の200V機に匹敵する性能を持ち、格段に扱いやすくなっています。とはいえ、アークスタートのしやすさという一点では、やはり半自動溶接機に軍配が上がります。
そして、100Vの半自動溶接機もここ数年で大きく進化し、昔とは比べ物にならないほど使いやすくなりました。初心者が「まず一歩踏み出す」には、今やとても良い選択肢だと思います。
ノンガス半自動溶接機なら、スイッチを押すだけでスタートできるので、心理的ハードルがぐっと下がるはずです。
初めから溶接ができた人を見たことがない
・・・とはいえ、最初から上手に溶接できる人はいません。溶接はとにかく「慣れ」が大事。もし簡単にできるなら、世の中に熟練の溶接工なんて存在しません。
だからこそ、いきなり本番(作りたいもの・直したいもの)で挑戦するのはやめたほうが無難です。まずはホームセンターで鉄板やアングル材を買ってきて、ひたすら練習あるのみ。
プロでもいきなり製品を作れる人は見たことがありません。最初は端材を集めてかたっぱしから「ゴミとゴミをくっつけて、もっと大きなゴミを作る」この工程こそ、上達への近道なのです。
数をこなせば、必ず腕は上がります!
経験が増えると、ビードの形も揃い、余計なスパッタも減ってきて、「あ、今のは決まった!」という快感を感じるようになるはずです。
折れたマフラーステーの補修や、ちょっとしたステー制作でしたら、ノンガス半自動溶接はとても心強いアイテムとなるはずです。少しでも興味があるなら、ぜひともチャレンジしてみてください。
個人的に溶接は「魔法」だと思っています。なんたって硬い鉄と鉄が、光と熱の中で一瞬にして溶けてくっつくんですから! これを魔法と呼ばずになんと呼ぶかって感じですよね。この記事が皆様の参考になれば幸いです。今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました~!
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