
2025年5月末に、Astemoによるメディア向け技術発表・試乗会が開催された。目玉のひとつは次世代の電子制御サスペンションで、フロントフォークには自動車高調整機構を初採用。もうひとつの目玉は次世代ADASだったが、悪天候のため試乗は叶わず。でもそのぶん、根掘り葉掘りしてきたぞ!
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:Astemo
【冒頭解説】ECUをサスペンションに一体化、フロントフォークに自動車高調整を初採用
2021年1月に日立オートモティブシステムズ、ケーヒン、ショーワ、日信工業が経営統合して誕生した日立Astemo(アステモ)は、2025年4月1日より商号を『Astemo』に変更した。そんなAstemoがメディア向け技術発表・試乗会「Astemo Tech Show 2025」を開催したので、栃木県にあるテストコースにお邪魔してきた。
今回の予定では、第2世代の電子制御サスペンション「SHOWA EERA Gen2(ショーワ イーラ ジェネレーションツーあるいはジェンツー)」に大型車用ギアポンプ式サスペンションスプリングアジャスターを組み合わせたものと、世界初・二輪車用の路面検知機能を追加した「二輪ADASコンセプト」に試乗できる予定だったが、あいにくの天候不順により試乗できたのは前者のみ。後者については詳しく解説を聞いてきた次第だ。
試乗できた「SHOWA EERA Gen2」は、EICMA 2023で初披露されたものの進化版だ。以前のものはリヤショックに制御用ECUとダンピングコントロールのためのアクチュエータを組み込んだものだけだったが、今回はフロントフォークにも同様の機構を採用するととともに、足着きの際に車高を下げてくれるハイトフレックスの進化版も組み込まれている。
「SHOWA EERA Gen2」は、廉価な小排気量マシンに搭載することも考慮して制御基板をショックユニットに搭載するとともに、Gセンサーを内蔵することでストロークセンサーを省略可能としたもの(今回のものはストロークセンサーも装着)。別体式のECUを必要としないため配線の簡素化が可能であり、なんなら市販バイクに後付けすることも想定しているという。
EICMA 2023でお披露目されたものと同じデモ車のBMW G310R。リヤショックのみをSHOWA EERA Gen2に換装したものだが、セッティングを変更してもらいながら揺すってみるとリヤが落ち着くことによってフロントフォークのストローク感も変わることに驚いた。
後付けする場合は電源供給とコントローラーのマウントが必要ではあるものの、廉価に電子制御サスペンションを搭載できるのは魅力的だ。
「SHOWA EERA Gen2」はリヤサスペンションにのみ搭載しても大きな効果を得られる(車体の安定性に大きく寄与する)というが、今回は同システムをフロントフォークにも搭載したのがトピックだ。
ちなみにストロークセンサーは、従来のストロークセンサーコイルと同じ機能をフレキシブル基板によって実現。コスト削減と小型化に貢献している。
EERA Gen2の前後サスペンション。小さな赤いパーツ(および2枚目の写真)がアクチュエータとECUを一体化したもので、これに電源の配線とコントロールパネル的なものを装着すればシステム完成である。緑色に見えるものはプリント基板ストロークセンサーだが、これを省略してもGセンサーによって同様の機能を得ることが可能だという。
さらに、これまでリヤサスペンションに搭載してきたハイトフレックス(車高調整機構)を大型車用ギアポンプ式とすることで、自重によるストロークで少しずつ車高が上がる従来式に対し、モーター駆動によって素早い車高復帰を可能にしたうえ、フロントフォークにも同機構を搭載可能とした。
これにより、リヤサスペンションのみの場合よりも車高をさらに下げることができ、かつ光軸のズレも発生しないようになった。
停車時に自動的に車高が下がり、足着きがよくなるというのがハイトフレックスのメリットだったが、次世代のものは応答性を高めつつ、さらに実用的になったと言える。
【試乗インプレッション】電子制御サスペンションはさすがの出来
エンジニアの方々とお話できる貴重な機会も。
試乗できたのは、「SHOWA EERA Gen2」を装着したドゥカティ・ムルティストラーダV4Sだ。ハーフウエット路面のテストコースを、ツーリング、スポーツ、ダイナミックの各モードで3周ずつ走行。モード切替の際に停車し、新型ハイトフレックスの足着き性を試す、という流れである。
減衰力を調整してくれる電子制御モードでは、ツーリングモードで柔らかいサスペンションフィーリングだったものがスポーツモードではビシッと締まった感じになる。コースは大小のカーブのほか、車体が傾いているときに通過するギャップも。ギャップを通過する際には柔らかいほうが衝撃は少なく、硬いほうが収束は早い。これはまあ、一般的なサスセッティングによる違いと同じだ。
そして電子制御でリアルタイムに最適な減衰力に調整してくれるというダイナミックモードになると、乗り心地がよく、ギャップの通過もショックは少なく収束も早いといういいとこ取りになる。カーブへの進入も、ハードなサスペンションをちゃんと動かすという意識は必要なく、好きなペースで入っていけばそれに合わせて車体姿勢を作ってくれる感じだった。
アップダウンやブラインドコーナー、クリッピング付近の路面の陥没などが用意されたテストコースを走行。
驚くのは、前後サスペンションそれぞれにECUを搭載しているにもかかわらず、統合制御されているかのように前後がきっちり協調しているように感じられたことだ。もっと長時間、さまざまな状況で試乗したら、また何か違うものが見えてくるのかもしれないが、今回の試乗コースでは何の違和感も覚えることはなかった。
そしてハイトフレックスだ。現在市販されているもの(ハーレーダビッドソン・パンアメリカがSHOWAを搭載、BMW・R1300GSはザックス)に比べて車高の自然な上げ下げに気を遣ったといい、今回でいえば交差点のような低速ターンの直後に停止というコースでも、停止して足を出す頃には車高がきっちり下がりきっていた。
また、従来型はサスペンションのストロークの繰り返しによって機械的にポンピングされ、車高が通常走行状態に上がりきるまで長くて8秒ほどかかったというが、今回のものはギヤポンプ式としてモーターで車高が上がるため、走行開始から2~3秒で車高が回復する。発進してすぐに交差点やカーブがあっても違和感なく進入でき、ハイトフレックスが付いていることを意識させない、かつ前後とも車高が同時に上下するので停止時の光軸を心配する必要がないなど、普段のライディングに見事に溶け込んでいると感じた。
今後の市販車への搭載についてはまだ決まっていないというが、海外メーカーのアドベンチャーモデルがすでに採用しているシステムの最新版ということもあり、「SHOWA EERA Gen2」と「ギアポンプ式ハイトフレックス」、あるいはその両方が登場するのもそう遠くない未来だろうと思えた。「SHOWA EERA Gen2」についてはミドルクラスへの搭載もあり得そう。新興メーカーや日欧米メーカー、最初に採用するのはどこになるだろうか?
【二輪ADASコンセプト】ステレオカメラでミリ波レーダー式を超える!
今回は、EICMA 2023で発表された二輪ADASコンセプトの進化版もお披露目された。あいにくの天候により試乗はかなわなかったが、二眼式のステレオカメラを搭載することによって正確な測距を可能にし、ミリ波レーダーでは不可能な白線や路面の凹凸(特にスピードバンプなど)も認識できるようになっている。
これは日立オートモーティブシステムズの従来の技術(スバルが採用しているアレ)を活かしながら二輪用としたものだが、二輪は車体が傾くうえに停止すると支えなしでは転ぶという特性から、かなり難度は高かったようだ。
バイク特有の千鳥走行(複数台が左右互い違いに連なって走る)でも他車をしっかり認識し、また曲率の高いカーブで前走車が車体正面から外れても認識・追従が可能。
さらに、この技術はACC(アダプティブクルーズコントロール)や緊急ブレーキアシスト、前方衝突警告といったライダー支援に活用できるほか、エンジン制御システムや電子制御サスペンションとも連携した制御を行うことによって、安定性を保ったまま警告や原則動作が可能になるという。
追従走行の映像を観ながら解説していただく。クルマで実用化されているカメラ+ミリ波によるACCとそん色ない動きをしていた印象だ。今後もステレオカメラ式ならではのメリットを活かしながら開発していくという。
二輪特有の振動や、泥はねなどからカメラ視界を守るといった課題もあるようだが、EICMA 2023ではスクーターのPCXのサイドミラーに搭載した展示もされていたことから、大型バイクだけでなく幅広い車種での普及を狙っていることが伺える。
このほか、単眼カメラによる簡易版の開発も進めており、測距性能も実用レベルに達していることが説明された。今後の展開も楽しみだ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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