
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第142回は、鈴鹿8耐に向けて参加した鈴鹿サンデーロードレースで感じたことを徒然に。
Text: Go TAKAHASHI Photo: DUCATI
全日本、そしてMotoGPライダーとの違いとは
前回は鈴鹿8耐のお話をしましたが、先日、鈴鹿サーキットで行われた鈴鹿サンデーロードレース第1戦に顔を出してきました。このレースは、鈴鹿8耐の参戦権を懸けた選考レース(トライアウト)。僕が毎年監督を務めさせてもらっている「NCXX RACING with RIDERS CLUB」も、去年は失格になってしまったため、今年はトライアウトからの挑戦です。ライダーは井手翔太くん。
「挑戦」とは言っても、結果は最初から分かっていたので、監督である僕は安心していました。井手くんも全日本ST1000クラスのトップライダーですからね。鈴鹿サンデー組の中ではダントツの速さを見せて優勝し、無事に鈴鹿8耐参戦権を獲得しました。
鈴鹿サンデーは、全日本を目指すライダーたちの登竜門、とされています。そこでは全力のライディングが繰り広げられていましたし、レースを楽しんでいる雰囲気も感じられて、とてもいいものでした。しかし、現役全日本ライダーとの間に歴然とした差があることは否めません。その差の正体は何かと言うと、僕は「怖さ」ではないかと思います。
レースは、上のカテゴリーに行けば行くほど、スピードが上がります。スピードが上がればブレーキングはハードになるし、バンク角も深くなります。その時、何が限界を決めるのかと言えば、ライダーが怖いと感じること、なんです。
鈴鹿サンデーライダーに対して、全日本ライダーは怖さを感じていません。決して怖い物知らずというわけではないのですが、怖さを感じるレベルが違う。一般ライダーの皆さんが「怖い!」と感じてブレーキングを始めるスピードやポイントと、鈴鹿サンデーライダーが「怖い!」と感じてブレーキングを始めるスピードやポイントは、まったく違います。同じように、鈴鹿サンデーライダーと全日本ライダーでは、やはり怖さを感じるスピードやポイントが違う、ということです。
もっと言えば、全日本ライダーとMotoGPライダーでは、やはり怖さを感じるスピードやポイントがまったく違います。さらに差は大きいかもしれません。その中でもトップクラスのマルク・マルケスに至っては……(笑)。あれだけ転倒して痛い目に遭っても、またすぐ同じスピードで走ってまた転んで……の繰り返しですからね。1ミリでも怖さを感じていたら、とうていやっていられません。
M.マルケス
怖い物知らずではやっていけない、けれど……
僕も子供の頃からバイクに乗り始めましたが、やはり最初は怖かったのを覚えています。でも、「速く走りたい」「勝ちたい」という気持ちが怖さに勝つんですよね。そうこうするうちに、慣れから怖さが薄らいでいきます。そして「速く走れた!」「勝った!」という喜びの方がどんどん強くなって、怖さを忘れていくんです。
繰り返しになりますが、怖い物知らずではありません。何度も転んで痛い思いをしているし、仲間を喪うこともある。でも、いつも「自分には何も起こらない」と思って、怖さを向こうに追いやってるんですよね。レーシングライダーは、そんな人たちばかり。変わってるんです(笑)。
この怖さの話、一般ライダーの皆さんは決して参考にしないでください。バイクに乗っていて怖さを感じる当たり前だし、その怖さには絶対に従うべきなんです。怖いと感じた時は、絶対に無理をしない。「変な人」であるレーシングライダーを見習ってはいけません。スポーツバイクに乗っている人は特に、レーシングライダーに憧れることがあるかもしれませんが、「特殊な人が、特殊なことをやっているんだな」ぐらいの引いた目で見ていてくださいね。
さて、話は再びMotoGPに戻ります。ヨーロッパラウンドの見どころは、マルケス兄にペースを乱されたフランチェスコ・バニャイアがどう立て直すか、です。以前ジジ(ダッリーリャ。ドゥカティのゼネラルマネージャー)と話した時、「ペッコ(バニャイアのニックネーム)は、ヨーロッパラウンドからが本番だぞ」と言っていました。その言葉通りの、3位表彰台。スペインGPではマルケス兄との直接対決も見られ、いよいよヒートアップ。「スーパー特殊な人たち」によるスペシャルなバトルが、ますます楽しみです。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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