地域が一体になって盛り上げているバイクイベント、それが九州は熊本で開催される『鉄馬』だ。鉄フレームのバイクを“鉄馬”に見立て、排気量や空冷/水冷で区切ったクラスが多数。さらにお祭りのようなブース出展で賑わう。その盛り上がりの一端に触れてみた。
総勢2000人が鉄フレームのバイクを楽しむ
イベントレースと言えば、毎年5月と11月に茨城県のTSUKUBA2000で開催される「テイスト・オブ・ツクバ」(以下T.O.T.)が有名で、最近は1万人を超える観客を集めるほどの大人気を博しています。
そして、九州・熊本にも大勢のエントラント(参戦者)や観客を集めるイベントがあります。それが、昔懐かしい鉄フレームを採用するバイクで競われる「鉄馬」。2014年から開催されているこのイベントも、年を重ねるごとにエントラントが増えてきて、それに伴って観客も増加。
ピットには協賛メーカーのテントや、食事を提供するキッチンカーなどが並び、開催サーキットであるHSR九州の最大級のイベントに成長しています。
9月14~15日に開催された「鉄馬 with ベータチタニウム」では、有料入場者数1191名(HSR九州発表)、エントラントとチーム関係者などを含めると総勢2000人がイベントを楽しみました。
「鉄馬」実行委員会会長の上野さんによると、鉄馬がスタートしたころ、すでに九州からもT.O.T.に参戦しているライダーがいて、こちらでも鉄フレーム&18インチホイールのバイクが出られるレースをできないかという声が盛り上がり、2014年にHSR九州で開催することに至り、3年目には年2回のイベントになったそうです。
上野さんは「50になったら鉄馬」と言って、40代後半から50代のライダーが楽しめるイベントにしようとカテゴリーを細分化。さらに、土曜日が練習と予選、日曜日はスターティンググリッドを決める5周のセミファイナルレースと決勝にあたるファイナルレース(7周)と、2日間めいっぱい走行できるようなタイムスケジュールとなっていました。
そして、レースだけではなく、「鉄馬はお祭り!」と上野さんが言うように、集まった九州のライダーが1日楽しめるようにさまざまな趣向も凝らされています。
日曜日のライダースブリーフィングのあとに登場したのは、大津日吉神社の神主さん。表彰台に設けられた祭壇に向かい、レースの安全を祈願されていました。
さらに今回は、パドックに自衛隊の戦車と装甲車が展示され、お昼休みには2台が揃ってレーシングコースを爆走! 日本にはサーキットがたくさんありますが、戦車が本コースを走ったなんて話はいまだかつて聞いたことがありません。
ホンダ開発者も視察(?)に来場していた
お祭り要素満載の鉄馬ですが、ここでレースの内容についても触れておきます。
参戦バイクは、鉄フレームが必須条件で、エンジンは空冷がメインですが水冷もあり、ホイールサイズも18インチが主流で、17インチも19インチもあり。
簡単に各クラスを紹介すると、
- ① アイアンNK4:1990年以降に生産された4st4気筒400㏄の車両で、排気量アップは自由。CB400SFやZRX400が参戦。
- ② アイアン モンスター18:1970~1989年に生産された650㏄以上の4st空冷4気筒で、ホイールサイズは18インチ以上。Z系、CB系、カタナなどが参戦し、鉄馬でもっとも多くのエントリーを集める人気クラス。
- ③ アイアン モンスター400:1970~1989年に生産された4st空冷4気筒400㏄以下の車両。
- ④ アイアン モンスター750:1970~1989年に生産された650~860㏄までの4st空冷4気筒の車両。ゼファー750もこのクラス。
- ⑤ アイアン スポーツ:アイアンモンスター以外の4st国産4気筒・排気量600㏄以上の車両で、空冷・水冷は問わず。GSF1200、ZRX1100/1200、GPZ900Rなどが参戦。
- ⑥ アイアン スポーツ エキスパート:クラスも排気量も関係ないオープンクラスで、国際ライダーの参戦も可能。鉄馬の最速クラス。
- ⑦ アイアン モンスター17:1970~1989年に生産された4st空冷4気筒650㏄・17インチ以上の車両。XJR1200/1300などが参戦。
- ⑧ Z900RS:Z900RSのワンメイククラス。
となっています。
イベントレースではありますが、参戦ライダーはそれぞれ満を持してこの日を待っていただけに、決勝レースは激しいバトルが繰り広げられ、今回もコーナーでの接触・転倒という場面もありました。
そんなレースを、元GPライダーで本WEBで「ノブ青木の上毛グランプリ新聞」を連載中の青木宣篤さんがレーシングアドバイザーとしてコントロールタワーから見守っていました。
クラス分けにあるように、基本は70~80年代に生産された旧車がメインなのですが、異彩を放っていたのがカワサキ・Z900RS。これは、今回もアイアンスポーツエキスパートクラスに参戦して、森脇尚護選手のライディングで見事に優勝を飾ったモリワキの影響が多いのだと言います。
大人気モデルとなったZ900RSですが、発売当初はドレスアップパーツが主体だったところ、モリワキがレース用パーツも用意して自らも参戦したのがひとつのきっかけとなって参戦者が増加。今回も19台がエントリーする、一大クラスになっています。
また、当日はZ900RS九州 Ownersのメンバーによるミーティングも開催され、100台近いZ900RS&CaféがHSR九州に集っていました。
面白かったのは、筆者がパドックで取材しているとホンダ関係者数人に遭遇(HSR九州は本田技研熊本製作所に隣接しています)したこと。
鉄馬が非常に盛り上がっているという話を聞いて見に来たとのことでしたが、カワサキのZ900RSが大挙して来場している姿(しかも自分たちのテリトリーに!)を見てどう思ったか聞くと、大型車の開発を担当しているエンジニアの方は「やっぱり悔しいですよ。あと2年、待ってください」とのこと。
残念ながらいまのホンダには、Z900RSのように大勢のライダーを惹きつける大型スポーツモデルが存在していないのは事実で、当然、そういうモデルの待望論も内外から出ているのでしょう。
ホンダからも大人が楽しめ、レースもできるようなモデルが登場することを期待しますが、何より、このように他メーカーのエンジニアを刺激するようなモデルのオーナーたちもがたくさん集う鉄馬は、九州ライダーたちの一大ムーブメントとして熱さを放ち続けて欲しいと思いました。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 多事走論 from Nom)
一度掴んだ税金は離さない! というお役所論理は、もういいでしょう 12月20日に与党(自民党と公明党)が取りまとめた「令和7年度税制改正大綱」の「令和7年度税制改正大綱の基本的な考え」の3ページ目に「[…]
持ち株会社を設立し、ホンダと日産、さらに三菱自動車も加わる? ホンダと日産が経営統合するという話が、12月18日からTVのニュースやワイドショーで大きく取り上げられています。 両社は、今年の3月に自動[…]
アクアライン上り線の混雑時間帯の料金が1600円に! 2025年4月から新料金制を導入 12月3日に開催された「第4回東京湾アクアライン交通円滑化対策検討会」において、令和7(2025)年4月からアク[…]
2025年11月の規制を睨み、2021年頃に開発の話が持ち上がった ご存知のように、バイクの世界にもカーボンニュートラル(CN)の波は激しく押し寄せていて、国内外の二輪メーカーはその対応に追われている[…]
新基準原付についてのパブコメ募集が始まった! 来年4月1日からの道交法改正がほぼ決まり 来年11月に施行される新排ガス規制に現在の原付一種(50cc)は対応することが困難という二輪業界からの要望を受け[…]
最新の関連記事(モリワキエンジニアリング)
ホンダ「RC211V」のエンジンを得てモトGPへの挑戦を開始した その後、1990年代はベースマシンの戦闘力不足や、レギュレーションの変更などもあり、思うような活躍ができなかったモリワキ。そこに、20[…]
モリワキは、アメリカへ渡ったPOP吉村を日本から支えた 1973年に、ヨシムラがアメリカに拠点を移すことに反対し、ポップ吉村こと吉村秀雄(以下ポップ)に勘当された森脇護(現会長)とポップの長女である南[…]
編集部がカスタムマフラーが欲しくて全国を奔走。ハーレー市場にぜひ参入してほしいモリワキ、ヨシムラに懇願 実のところ、編集部がまず話を持ち込んだのはヨシムラジャパンだ。2024年3月の大阪モーターサイク[…]
ハンター350が鉄馬の“ネオクラシック350”クラスに参戦! 午前9時すぎ。鉄馬の開催数日前にHSR九州を訪れると、すでに単気筒エンジンの快音が轟いていた。コースを見ると、ビタッとロイヤルエンフィール[…]
アライヘルメット VZ-RAMスノードーム SHOEI X-Fifteenマルケスダズル カブト F-17フォルテ BMW Motorrad GSカウィールGTXスニーカー ナイトロン ’22ヤマハX[…]
人気記事ランキング(全体)
2025年こそ直4のヘリテイジネイキッドに期待! カワサキの躍進が著しい。2023年にはEVやハイブリッド、そして2024年には待望のW230&メグロS1が市販化。ひと通り大きな峠を超えた。となれば、[…]
一定以上のスピードの車両を自動的に撮影する「オービス」 結論から言うと、基本的にバイクはオービスに撮影されても捕まらない。そもそもオービスはバイクを取り締まるつもりがない。ただし警察にもメンツがあるか[…]
第1位:JW-145 タッチパネル対応 蓄熱インナーグローブ [おたふく手袋] 2024年11月現在、インナーウェアの売れ筋1位に輝いたのは、おたふく手袋が販売する「JW-145 蓄熱インナーグローブ[…]
新色×2に加え、継続色も一部変更 ホンダは、水冷4バルブの「eSP+」エンジンを搭載するアドベンチャースタイルの軽二輪スクーター「ADV160」に、スポーティ感のある「ミレニアムレッド」と上質感のある[…]
寒い時期のツーリング 冬はライダーにとって、本当に過酷な季節です。急激に気温が下がったりしてきましたが、オートバイに乗られているみなさんは、どういった寒さ対策をしていますか。 とにかく着込む、重ね着す[…]
最新の投稿記事(全体)
どんなUber Eats配達員でも必ず持っている装備といえば、スマートフォン。これがなければ、仕事を始めることすらできません。 そんなスマートフォンですが、太陽が強く照っている日に使うと画面が真っ黒に[…]
今シーズンに続き富樫虎太郎選手を起用、新加入は木村隆之介 元MotoGPライダーの中野真矢さんが率いるレーシングチーム「56RACING(56レーシング)」が、2025年のレース活動概要を発表した。 […]
全日本ST1000とASB1000の両カテゴリーを制す! 開幕2連勝を飾り、常にポイントリードし最終戦を待たずにチャンピオンを決めた全日本ST1000クラスに比べ、ARRC ASB1000クラスは、ポ[…]
一度掴んだ税金は離さない! というお役所論理は、もういいでしょう 12月20日に与党(自民党と公明党)が取りまとめた「令和7年度税制改正大綱」の「令和7年度税制改正大綱の基本的な考え」の3ページ目に「[…]
ヤマハの最先端技術の結晶、それがYZF-R1だ 今からちょうど10年前の2014年11月。イタリアはミラノで開催されたEICMAにおいて、7代目となるヤマハのフラッグシップ“YZF-R1”が華々しくデ[…]
- 1
- 2