1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第126回は、僅差で争うバニャイア&マルティンに加え、マルク・マルケスとペドロ・アコスタに注目します。
Text: Go TAKAHASHI Photo: Red Bull
3位に50ポイント以上の差をつけているトップ2
サマーブレイクが明けたMotoGPですが、第10戦イギリスGP終了時点でランキングトップは241点のホルヘ・マルティン、2番手は238点のフランチェスコ・バニャイアでした。10戦もレースをして3点差って、前半戦は何だったのでしょうか(笑)。
しかもバニャイアはイギリスGPまでにスプリントレースを含めて8勝、一方のマルティンは6勝。それで3点差でマルティンがリードしていたわけですから、このふたりの接戦ぶりが分かります。
そして第11戦オーストリアGPではスプリントレース、そして決勝レースともにバニャイアが優勝しました。これでポイント争いはバニャイアが逆転し、5点差を付けてトップに。マルティンは、母国スペインの第12戦アラゴンGPで再逆転を狙いたいところです。
バニャイアはレースでこそ強さを見せるタイプ。速さ勝負のスプリントレースが課題でしたが、今年はスプリントレースでも3勝目を挙げて、いよいよ死角がなくなってきました。
速さのあるマルティンは、オーストリアGP終了時点でスプリントレースで4勝、決勝レースで2勝。決勝はどうしても細かいミスがあって、超ステディなバニャイアに水を空けられてしまいますね。マルティンは親指の負傷が響いていたかもしれません。今のMotoGPマシンは親指で操作することが多いので、指1本と言えども侮れないんです。
マルケスの未勝利とアコスタの転倒について
侮れないと言えば、ホールショットデバイス。今さらの機構ではありますが、オーストリアGPではマルク・マルケスのホールショットデバイスがうまく機能せず、ものの見事にフロントアップして出遅れたうえに、フランコ・モルビデリを押し出すという事態になりました。
マルケスを持ってしても、ホールショットデバイスなしではスタートがまったく決まらないわけですからね……。そりゃあライダー誰もが使いたがるわけです(笑)。
そのマルケス、鳴り物入りでドゥカティに移籍しましたが、今シーズンはここまでまさかの未勝利。マシンが型落ちという差はあるにしても、さすがに’20年の負傷以降、彼本来のパフォーマンスが戻ってきていないようにも感じます。マルケスも今年で31歳。今はまだ「型落ちマシンだから」という言い訳ができますが、ファクトリーチームに移って最新マシンを使えるようになる来年が、いよいよ正念場になります。
もうひとり気がかりなのが、ペドロ・アコスタです。ここへ来て調子を崩しているように見えますが、それだけ今のMotoGPで勝つのは難しいのでしょう。おそらく勝つ手前までは割とすぐに行けても、トップに追いつき、追い越すためには、ライダーとしてもうひとつシフトアップしなければなりません。
アコスタは、もちろんそのことに気付いています。だから面白いことに(本人は面白くないでしょうが)、本来は彼の長所である「マシンを寝かせながらのブレーキング」で、パタパタと転んでいますよね。これは、彼が自分の武器をどうにかさらに磨こうとしているからだと僕は思います。
「マシンを寝かせながらのブレーキング」は、本当に繊細な操作が求められます。そのシビアなゾーンが自分の武器だとすれば、そこを磨こうとすればどうしてもリスクが高まる。今までよりワンランク上を目指すということは、壁に当たって試行錯誤するということですから、いったんはどうしても操作が雑になってしまうんです。
さらには、彼自身のライディングだけではなく、ワンランク上の走りに見合うだけのマシンセットアップも必要かもしれません。どういう解決策でこの壁を乗り越えるかはアコスタ自身が見つけていくと思いますし、それが見つけられるかどうかが、チャンピオンになれるかどうかの分岐点になるでしょう。
いずれにしても、マルケスやアコスタのようなドえらい才能を持ったライダーでさえそう簡単には届かないのですから、バニャイアとマルティンのふたりがいかに抜きん出ているかがよく分かります。
そして恐ろしいことに、今週末に行われるアラゴンGPを含めて、まだ残り9戦も! これほどハイレベルなレースを全20戦もこなすなんて、考えられません。本当に、今、現役でなくてよかった……(笑)。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 元世界GP王者・原田哲也のバイクトーク)
チーム・ロバーツの誘いを断った唯一のライダー 年末年始に5泊6日でお邪魔した、アメリカ・アリゾナ州のケニー・ロバーツさんの家。家族ぐるみで仲良くさせてもらっていますが、実は僕、現役時代にケニーさんが監[…]
「おいテツヤ、肉を焼いてるから早く来い!」 年末年始は、家族でケニー・ロバーツさんの家に遊びに行きました。ケニーさんは12月31日が誕生日なので、バースデーパーティーと新年会を兼ねて、仲間たちで集まる[…]
開幕までに最低でもあと1秒、トップに近付くならさらに0.5秒 Moto2のチャンピオンになり、来年はMotoGPに昇格する小椋藍くんですが、シーズンが終わってからめちゃくちゃ多忙なようです。何しろ世界[…]
ポイントを取りこぼしたバニャイアと、シーズンを通して安定していたマルティン MotoGPの2024シーズンが終わりました。1番のサプライズは、ドゥカティ・ファクトリーのフランチェスコ・バニャイアが決勝[…]
勝てるはずのないマシンで勝つマルケス、彼がファクトリー入りする前にタイトルを獲りたい2人 MotoGPのタイトル争いに関してコラムを書こうとしたら、最終戦の舞台であるスペイン・バレンシアが集中豪雨によ[…]
最新の関連記事(モトGP)
チーム・ロバーツの誘いを断った唯一のライダー 年末年始に5泊6日でお邪魔した、アメリカ・アリゾナ州のケニー・ロバーツさんの家。家族ぐるみで仲良くさせてもらっていますが、実は僕、現役時代にケニーさんが監[…]
「おいテツヤ、肉を焼いてるから早く来い!」 年末年始は、家族でケニー・ロバーツさんの家に遊びに行きました。ケニーさんは12月31日が誕生日なので、バースデーパーティーと新年会を兼ねて、仲間たちで集まる[…]
高回転まで回す/回さないの“キワ”を狙うバニャイア 2024年最終戦ソリダリティGPと、2025年キックオフとも言えるレース後のテストを視察してきたので、遅ればせながらマニアックにご報告したい。 今年[…]
チーム、タイヤ、マシン、大きな変化があった2024年 2024年シーズン、小椋はチームを移籍、マシンもカレックスからボスコスクーロに変わった。さらにMoto2クラスのタイヤはダンロップからピレリになる[…]
中須賀克行から王座をもぎ取った岡本裕生は来季WSSPへ 全日本ロードレース選手権最終戦鈴鹿(10月26日・27日)を終えてから、アッという間に12月となり、2024年も終わりを告げようとしています。全[…]
人気記事ランキング(全体)
2000年代、若者のライフスタイルに合ったバイクを生み出すべく始まった、ホンダの『Nプロジェクト』。そんなプロジェクトから生まれた一台であるズーマーは、スクーターながら、パイプフレームを露出させた無骨[…]
チーム・ロバーツの誘いを断った唯一のライダー 年末年始に5泊6日でお邪魔した、アメリカ・アリゾナ州のケニー・ロバーツさんの家。家族ぐるみで仲良くさせてもらっていますが、実は僕、現役時代にケニーさんが監[…]
元々はブレーキ液の飛散を防ぐため フロントブレーキのマスターシリンダーのカップに巻いている、タオル地の“リストバンド”みたいなカバー。1980年代後半にレプリカモデルにフルードカップ別体式のマスターシ[…]
126~250ccスクーターは16歳から取得可能な“AT限定普通二輪免許”で運転できる 250ccクラス(軽二輪)のスクーターを運転できるのは「AT限定普通二輪免許」もしくは「普通二輪免許」以上だ。 […]
プロトは国内導入を前のめりに検討中! イタリアで1911年に誕生し、現在は中国QJグループの傘下にあるベネリは、Designed in Italyの個性的なモデルをラインナップすることで知られている。[…]
最新の投稿記事(全体)
カワサキUSAが予告動画を公開!!! カワサキUSAがXで『We Heard You. #2Stroke #GoodTimes #Kawasaki』なるポストを短い動画とともに投稿した。動画は「カワサ[…]
止められても切符処理されないことも。そこにはどんな弁明があったのか? 交通取り締まりをしている警察官に停止を求められて「違反ですよ」と告げられ、アレコレと説明をしたところ…、「まぁ今回は切符を切らない[…]
「乗せて指導する教育」を実施、バイク通学者が多い熊本県立矢部高校 熊本県の県立矢部高等学校は、原付免許取得とバイク通学を2年生以上の生徒に許可している。「乗せて指導する教育」を、長年にわたり続けている[…]
2000年代、若者のライフスタイルに合ったバイクを生み出すべく始まった、ホンダの『Nプロジェクト』。そんなプロジェクトから生まれた一台であるズーマーは、スクーターながら、パイプフレームを露出させた無骨[…]
論より証拠!試して実感その効果!! 老舗カー用品ブランドとして知られる『シュアラスター』が展開するガソリン添加剤「LOOPシリーズ」。そのフラッグシップアイテムであるのが『LOOP パワーショット』。[…]
- 1
- 2