
CHALLENGER RACINGの長瀬智也さんが、6/9(日)に富士スピードウェイで開催されたMCFAJクラブマンロードレースのMAX-ACクラスに参戦した。車両はハーレーのツアラーモデル・FLTRXロードグライドで、本場アメリカの大人気バガーレース「キング・オブ・ザ・バガー」ばりにカスタム&チューニングされた超ド級のマシン。しかし、なぜハーレーのバガーレーサーでレース参戦なのか。本人がその思いを大いに語ってくれた!!
●文:後藤 武 ●写真:渡辺昌彦 ●外部リンク:MCFAJ
誰もやっていないから、バガーで参戦しようと考えた
2024年の6月9日、富士スピードウエイで開催されたMCFAJクラブマンロードレースで多くの人たちが押し寄せたテントがあった。CHALLENGER RACINGとしてレース活動を行う長瀬智也さんが、ハーレーのカスタムショップであるジョイライドスピードショップ西田さん、ラフモーターサイクルの伊藤さんと共に「Japanese Chopper Racing」というチームを立ち上げてMAX-ACクラスにエントリー、3台のバガーレーサーを走らせたのである。本格的なバガーのレーシングマシンが日本でレースに参戦するのは今回が初。長瀬さんはなぜこのようなプロジェクトをやろうとしたのだろう。
「仲間たちと一緒に面白いことをやりたいと思ってバガーレーサーのプロジェクトをはじめることにしたんですが、このことをキッカケにしてバイクとロードレースの魅力を多くの人達に知ってもらえたらいいなと考えています」
ここまでの経緯を簡単に説明しておくことにしよう。長瀬さんは現在芸能活動を引退し、裏方としてさまざまな方面で活躍している。最近では自身のInstagramでバイク、クルマ、釣り、音楽などアクティブに活動している様子を発信。芸能界で活動していた頃とは別なファンを獲得するようになった。
そんな長瀬さんが最近夢中になっているのがロードレースだ。以前から時々レースに参加することはあったが、2023年からAVCC(ビンテージのアメリカンによるレース)へ本格的に参加するようになった。
転機が訪れたのは2年前。雑誌の企画でハーレーをカスタムすることになったのである。
「アメリカでバガーのレースをやっているのを見て楽しそうだと思っていました。でも日本ではまだ見たことがない。それで自分でも作ってみたいと考えたんです」
バガーとは長距離ツーリングのために大きなカウリングやバッグを装着したバイクのこと。アメリカで開催されている“キング・オブ・ザ・バガー”というレースでは、サーキットにに不向きなはずのバガーが大迫力のレースを展開して話題となっていたのである。
完成したマシンを撮影のために筑波サーキットを走らせてみると、これが予想以上に楽しかった。「筑波サーキットを走ってみてバガーを日本のレースで走らせたいという気持ちが膨らみました。本気でレースができるマシンが欲しいと考えて、ジョイライドスピードショップの西田さんに相談してみることにしたんです」
最初に製作したマシンはエンジンもノーマル。サーキットでレースをするところまでは想定していなかった。そこで次は本物のレーシングマシンを作ることにしたのである。
マフラーはヨシムラ製のワンオフ品
長瀬さんが購入したインディアンのバガーレーサーレプリカ・チャレンジャーRR。レースではラフモーターサイクルガレージの伊藤さんが乗車した。
2023年の夏が終わろうとしていた頃、ベースマシンとなるFLTRXロードグライドがジョイライドスピードショップに持ち込まれ、バガーレーサーの製作がスタートした。少しして飛び込んできたのが、アメリカのバガーレースでチャンピオンを獲得した、インディアン・チャレンジャーのレーサーレプリカモデルが発売されるというニュース。本物のバガーレーサーを知りたいと考えた長瀬さんはこのマシンの購入を決意する。
「インディアン(チャレンジャーRR)はチャンピオンマシンのレプリカだから、とても良くできていたし性能も素晴らしかったんです。でもハーレーとはハンドリングもエンジンフィーリングも、何もかもが違いすぎました。僕は乗り慣れたハーレーのフィーリングのほうが安心して走れると思いました」
マフラーの製作を依頼したのはヨシムラジャパンだ。
「バイクとレースの魅力を多くの人に伝えていきたいという長瀬さんの考えは以前からお聞きしていて、ウチでも何かお手伝いできることがあれば協力させていただきたいと思っていました。それでお話をいただいてマフラーを製作することになりました」(ヨシムラジャパン広報)
バガーのエンジン仕様や求められる特性などからマフラーの寸法が決められ、このマシンだけのヨシムラ製マフラーが作られることになった。
ふだん、サーキットに来ないような人が足を運んでくれた
マシンが完成したのはレース直前の5月末だった。すぐ筑波サーキットでテストを行い、問題が出たサスセッティングを変更。6月初旬に2回目のテスト走行。レース前に確認できたのはこの2回だけ。
「乗った感じですか? 見た目通りですよ(笑)。大きくて力強い。そこが楽しいんです」身長182cmの長瀬さんには、大きな車体が逆にフィットしていたのかもしれない。
レースにはいつも一緒に走っている仲間3人で出場することにした。新しく製作したFLTRXを長瀬さんがライディングし、インディアン・チャレンジャーRRにはラフモーターサイクルガレージの伊藤さん、最初に製作したFLTRXはジョイライドスピードショップの西田さんが乗る。
予選は極力3台が接近して走ることを心がけた。詰めかけたメディアにキング・オブ・ザ・バガーのような雰囲気の写真を撮影してもらいやすくしようという考えからだった。
決勝レース、長瀬さんは最新のスポーツバイクなどと混ざって走り、4位でフィニッシュした。
「クラス4位という成績になりましたが、順位よりも自分のイメージしたように走れたかどうかのほうが重要ですよね。それに今回はメディアの方々にも来ていただけたし、ふだんサーキットに来たことがないような方々にも足を運んでもらうことができました。じつはレース参戦もInstagramで発信していただけなので、取材なんて誰も来てくれないんじゃないかと思っていたんですよ(笑)。少しでも多くの人に見ていただきたいと考えていたので、本当にありがたいと思っています」
マシンはまだ未完成で煮詰めるべき部分は多い。エンジンもステージ1仕様だから、まだチューニングの余地がある。日本初のバガーレーサーはさらに完成されて速さを増していくことは間違いない。けれど長瀬さんは、すでにその先を見ている様子だ。
「面白いことをたくさんしていきたいと思っていて、今回のバガーレースはそのひとつでしかありません。考えていることはまだたくさんあるんですよ」
長瀬さんの行動の根底にあるのはバイクとレースの楽しさを多くの人に知って欲しいという想い。そこに面白いことを純粋に追求するパワーが加わり、仲間たちと力を合わせて大きく育ていく。いったいこれから何が生まれ、どんな展開で我々を驚かせてくれるのか。長瀬さんの活動からはしばらく目を離すことはできなさそうだ。
ハーレーFLTRXをバガーレーサーにフルチューン
ベースモデルはハーレーダビッドソンのツアラーモデル・FLTRXロードグライドだが、ジョイライドスピードショップの手でバガーレーサーに大変貌。巨大なカウルと(レースには本来不要の)パニアケースを残すのがバガーレーサーの流儀。まだ完成途上とのことで、今回は外装の塗装なども間に合わず。まだまだ進化する予定だ。
エンジンはS&Sのパーツなどを使い、ジョイライドスピードショップが独自のチューニングを施したステージ1仕様。ノーマルの117ci(1923cc)から約2100ccに排気量アップし、120psを発生する仕様だ。長瀬さんがヨシムラジャパン前社長(現相談役)の吉村不二雄氏と懇意にしている縁から、マフラーはヨシムラ製のワンオフ品を装着する。
ノーマルの面影がまったくない足まわりはBST製のカーボンホイールで前後17インチ化し、サンデーレースでは超定番のピレリ・スーパーコルサSCを履く。オーリンズ製の倒立フォークはオフセット量を変更したジョイライド製ステアリングステムを介して装着。
美しく削り出されたアルミ製スイングアームもジョイライド製。リヤのツインショックもオーリンズ製とし、2次減速はベルト→チェーンドライブに変更。メーターまわりはFLTRXのノーマルを踏襲。
FLTRXの巨大なカウルや、バガーの由来でもあるリヤのパニアケース(ハーレー流に言うとサドルバッグ)はSTDがそのまま残され、バガーレーサーらしい大迫力のルックスに貢献。鉄製のリヤフェンダーはカーボン製として軽量化。
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