国産市販バイクが世界の頂点に上り詰めた昭和44年(1969年)から現代に至る50年の間に登場した”エポックメイキングなロードスポーツ”をテーマににお届けするシリーズ。今回は平成13~26年(2001~2014)、“規制や不況と戦い生まれた名車”をお届けする。
●文:ヤングマシン編集部
- 1 究極性能先鋭型から、お手ごろパッケージのグローバル車が時代の寵児に
- 2 SUZUKI GSX-R1000──驚異のパワー/ウエイトレシオと懐の深さでスーパースポーツ第2章へ
- 3 HONDA CBR1000RR──RC211Vの遺伝子を継承したRR
- 4 YAMAHA TMAX──スクーターの皮を被った本気スポーツ
- 5 HONDA CBR600RR──初のミドルRRはプチRCV
- 6 HONDA CB1300シリーズ──ジャパニーズネイキッドの真髄
- 7 YAMAHA YZF-R6──コーナリングで兄・R1の先を行った
- 8 YAMAHA WR250R/X──妥協のないオフロード版R1
- 9 KAWASAKI Ninja 250R──フルカウル250スポーツを再興した立役者
- 10 KAWASAKI Ninja1000──速いけどイージーな万能選手
- 11 HONDA NC700X──価格破壊&実用性の革命児
- 12 YAMAHA MT-09──RZの再来? 過激な新生MT
究極性能先鋭型から、お手ごろパッケージのグローバル車が時代の寵児に
オーバー300km/h時代は外的要因もあって唐突に幕切れ、それでも高性能追求のやまなかったスーパースポーツだったが、スーパーバイク世界選手権のレギュレーション変更により、公道スポーツからスーパーバイクのベースマシンへと変貌していく。’04年がその大きな転換点となり、最強最速は時代の中心から外れていった。代わって登場してきたのは様々なジャンルのスポーツバイクで、TMAXやWR250R/Xなどは新たなジャンルを開拓したといっていいだろう。そして2008年にはリーマンショックが訪れ、ニューモデル開発は冬の時代を迎える。さらには2011年の東日本大震災……。
そのころに登場したのは、身の丈サイズのなかで限りなく面白いものを、というこの時代ならではの欲求に応えるマシンたちだ。価格もスペックも抑えながら、どうやってバイクを楽しむか。時代は大きく、大きく変わっていった。
平成13年にはアメリカ同時多発テロ事件が発生。映画『千と千尋の神隠し』が大ヒットした。平成14年以降は歩きタバコ禁止条例が採用されはじめるなど、世間の雰囲気が変わりはじめる。シアトル・マリナーズのイチローは毎年のように大活躍し、様々な記録を打ち立てた。
SUZUKI GSX-R1000──驚異のパワー/ウエイトレシオと懐の深さでスーパースポーツ第2章へ
R1の登場で戦国時代を迎えたリッタースーパースポーツ。残るスズキが満を持して’01年に投入したモデルがGSX-R1000だ。’00年型GSX-R750をベースとする軽量コンパクトな車体に、988㏄エンジンを搭載。当時最強の5代目CBR900RR(929RR)を8ps凌ぐ160ps、900RRと並ぶ乾燥重量170kgをマークした。パワーウェイト比は圧巻の1.06kg/psで、同ジャンルがより先鋭化する端緒となった。
心臓部はR750を基盤に、ボアを1mm、ストロークを13mm延長し、73×59mmに拡大。「Own The Racetrack」(サーキットの覇者)を標榜しつつ、ロングストロークの扱いやすい性格までも体現したのだ。そのインパクトは初代YZF-R1を超え、スーパースポーツの新基準になるほどだった。
HONDA CBR1000RR──RC211Vの遺伝子を継承したRR
スーパーバイク世界選手権(SBK)のレース規定が変更され、4気筒モデルは1000ccに。これを受けたホンダは、CBR900RRにフルモデルチェンジをかけ、モトGPマシン=RC211Vの技術を惜しみなく注いだCBR1000RRを投入した。新設計エンジンは954→998ccに拡大され、シリーズ初の主要3軸三角配置を導入。メインフレームから独立させたユニットプロリンクサス、市販車初の電子制御ステアリングダンパーもRCV譲り。公道を視野に入れつつ、サーキットでの勝利を狙った初のRRとなった。そして、センターアップマフラーも話題に。RCVと瓜二つのスタイルを作り上げ、空力やバンク角の面でも有利。同年登場の新型R1と並び、スーパースポーツのトレンドとなった。
YAMAHA TMAX──スクーターの皮を被った本気スポーツ
250ccスクーターブームは、’00年代になると大型クラスにも波及。クルーザー指向が強まる中、ヤマハはスポーツ性能を追求したTMAXを投入した。スクーターで一般的なユニットスイングではなく、ダイヤモンドフレームや独立式リヤアームを採用。抜群の軽さと運動性能を実現し、元祖マキシスクーターにして今も代表格に君臨する。
HONDA CBR600RR──初のミドルRRはプチRCV
CBR600F4iの後継機としてデビューした、600クラス初のRR。CBR1000RRに1年先駆けて、市販車で世界初となるセンターアップマフラーやユニットプロリンクサスなどRC211Vを意識した装備を与えた。設計自由度が高く、軽量&高剛性な新鋳造方式の中空構造アルミフレームも世界初。欧州を中心にレースや公道で人気を博した。
HONDA CB1300シリーズ──ジャパニーズネイキッドの真髄
CB1000スーパーフォアは’98年に1300に進化し、重厚長大路線に舵を切る。だが、スポーティなCBを望む声は多く、またライバルであるXJR1300の好調な売れ行きを前に、’03年に全面刷新を敢行した。新設計エンジンなどで12kgもの減量を達成。さらに高重心化による軽快なハンドリングで、堂々たる車格ながら運動性能を両立し、大型ネイキッドの決定版となった。’05年にカウル付きのスーパーボルドールも追加。
YAMAHA YZF-R6──コーナリングで兄・R1の先を行った
’99年にデビューしたYZF-R系の次男が、’06年型で3世代目に進化。ショートストローク化をはじめ、吸排気チタンバルブや圧縮比アップで高回転化を促進。メーターには2万rpmまで刻まれる。さらに特筆すべきは量産バイク初の電子制御スロットル。いち早く電脳化を推し進め、画期的なレイヤードカウルも後世に影響を与えた。2024年に欧州でレース専用マシンとして販売されるR6もこのマシンが原型となっており、2017年~2022年にかけてワールドスーパースポーツ選手権で6連覇するなど、きわめて高い戦闘力を誇っている。
YAMAHA WR250R/X──妥協のないオフロード版R1
WR250R(写真右)は“オフロードでのYZF-R1”をコンセプトに開発。新設計の水冷シングルは、250初のチタンバルブやストレート吸気で31psを叩き出す。これを市販250オフロード初のアルミフレームに搭載し、乾燥重量はわずか123kg。モトクロッサーに迫るスペックで大いに話題を呼んだ。サスペンションも前後フルアジャルタブルとこれまた豪華。WR250X(左)は前後17インチホイールを装着したモタード版だ。
KAWASAKI Ninja 250R──フルカウル250スポーツを再興した立役者
’00年代に入り、250スポーツの生産終了が相次ぐ中、カワサキが世界戦略車として’08年に投入。デビュー当時、国内250クラス唯一のフルカウル車で、長寿ツアラーのZZR250をベースに、モトGPマシン=ZX-RRをモチーフとするデザインを与えた。パラツインは新たにFIを採用し、31psを発生。微粒化インジェクターとデュアルスロットルバルブにより低中速域で扱いやすく、前後17インチやペタルディスクの足まわりも充実している。高品質ながら、海外生産と徹底したコストダウンで50万円を切る税込価格(’08年当時)も実現し、大ヒットを記録。現代に通じる250ブームの火付け役となった1台だ。
KAWASAKI Ninja1000──速いけどイージーな万能選手
高い運動性能を有しながら、安楽なライポジで街乗りやツーリングも得意な“ラクッ速”のハイト系スポーツ。このジャンルをメジャーに押し上げたモデルが、’11年に登場したニンジャ1000だ。ベース車は快速ネイキッドの’10年型Z1000(写真右)で、エンジン上部をメインチューブが通るバックボーンタイプのアルミフレームに、リニアなレスポンスを示すダウンドラフト吸気の1043cc直4を搭載。これにスーパースポーツ風のフルカウルと手動で3段階調整が可能な可変式スクリーンを与え、快適な巡航性能を実現した。さらに厚みのあるシートや、19L燃料タンク、大容量シート下スペースなどで実用性を高めている。
HONDA NC700X──価格破壊&実用性の革命児
共通プラットフォームでジャンルの異なる多機種展開を行う――クルマで使われる手法をバイクに持ち込み、61.9万円という低価格を実現。エンジンは味わいと6000rpm以下の実用性に絞り、通常のタンク部を収納スペースとするのが特徴だ。手元のスイッチで変速できるDCT仕様を用意し、兄弟車としてネイキッドのS、スクータータイプのインテグラも投入された。
YAMAHA MT-09──RZの再来? 過激な新生MT
マスターオブトルクを標榜する新世代MTシリーズの第1弾としてデビュー。’76年登場のGX750以来となる完全新設計の3気筒は、2スト的な弾ける加速で話題に。車体は新作アルミフレームなどで軽量コンパクトさを追求し、装備重量188kgという400ccクラス並みの軽さを達成した。3段階のパワーモードや、モタード系の異種交配デザインも特徴だ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([特集] 日本車LEGEND)
世界不況からの停滞期を打破し、新たな“世界一”への挑戦が始まった 2008年からの世界同時不況のダメージは大きく、さらに東日本大震災が追い打ちをかけたことにより、国産車のニューモデル開発は一時停滞を余[…]
レプリカブームはリッタークラスへ。速度自主規制発動から世界最速ロマンも終焉へ ZZ-R1100やCBR900RR、CB1300 SUPER FOURといった大ヒットが生まれたこと、そして教習所での大型[…]
大型免許が教習所で取得できるようになりビッグバイクブームが到来 限定解除、つまり自動二輪免許中型限定(いわゆる中免)から中型限定の条件を外すために、各都道府県の試験場で技能試験(限定解除審査)を受けな[…]
ハチハチ、レーサーと同時開発、後方排気など様々なワードが巷に踊る 群雄割拠のレーサーレプリカブームはやがて、決定版ともいえる’88NSR250Rの登場でピークを迎えていく。「アルミフレーム」「TZと同[…]
レプリカブームがナナハンクラスに進撃。’80s名作ロードスターも誕生した 250ccで始まったレーサーレプリカ熱狂時代は、RG250Γをリリースしたスズキが同時代の開拓者として次なる一手を打つ。それが[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
CB750/900Fと並んで進んでいた、ホンダが大攻勢に賭けた初の新エンジン! どのクルマメーカーもお手上げだったマスキー法という排気ガス規制をクリアして、ホンダが世界に認められたCVCCエンジン開発[…]
高いポテンシャルを持ちながら肩の力を抜いて乗れる二面性で大ヒット セローが登場した1985年は、オンロードでは本格的なレーサーレプリカブームが到来する頃でした。オフロードも同様で、パンチのある2ストロ[…]
XLCRとはあらゆる点で違う ブラックに統一された精悍な車体の中で、フューエルタンクに貼られたバー&シールドのエンブレムがゴールドで彩られ、誇らしげに煌めいている。 クォーターサイズのコンパクトなフェ[…]
50ccスクーターでバイクいじりを楽しむ 女性向けやビジネス向け、スポーツモデルからハイグレードタイプまで、かつては原付免許を取得したライダーが一度は所有したことがあったのが50ccスクーターだった。[…]
2020年モデルでシリーズ全カラーを総入れ替え! カフェは3色→2色に “火の玉”Z900RSとヴィンテージライムグリーンのZ900RSカフェが牽引してきた初代2018年モデル~2019年モデル。すで[…]
人気記事ランキング(全体)
2025年こそ直4のヘリテイジネイキッドに期待! カワサキの躍進が著しい。2023年にはEVやハイブリッド、そして2024年には待望のW230&メグロS1が市販化。ひと通り大きな峠を超えた。となれば、[…]
一定以上のスピードの車両を自動的に撮影する「オービス」 結論から言うと、基本的にバイクはオービスに撮影されても捕まらない。そもそもオービスはバイクを取り締まるつもりがない。ただし警察にもメンツがあるか[…]
第1位:JW-145 タッチパネル対応 蓄熱インナーグローブ [おたふく手袋] 2024年11月現在、インナーウェアの売れ筋1位に輝いたのは、おたふく手袋が販売する「JW-145 蓄熱インナーグローブ[…]
新色×2に加え、継続色も一部変更 ホンダは、水冷4バルブの「eSP+」エンジンを搭載するアドベンチャースタイルの軽二輪スクーター「ADV160」に、スポーティ感のある「ミレニアムレッド」と上質感のある[…]
寒い時期のツーリング 冬はライダーにとって、本当に過酷な季節です。急激に気温が下がったりしてきましたが、オートバイに乗られているみなさんは、どういった寒さ対策をしていますか。 とにかく着込む、重ね着す[…]
最新の投稿記事(全体)
どんなUber Eats配達員でも必ず持っている装備といえば、スマートフォン。これがなければ、仕事を始めることすらできません。 そんなスマートフォンですが、太陽が強く照っている日に使うと画面が真っ黒に[…]
今シーズンに続き富樫虎太郎選手を起用、新加入は木村隆之介 元MotoGPライダーの中野真矢さんが率いるレーシングチーム「56RACING(56レーシング)」が、2025年のレース活動概要を発表した。 […]
全日本ST1000とASB1000の両カテゴリーを制す! 開幕2連勝を飾り、常にポイントリードし最終戦を待たずにチャンピオンを決めた全日本ST1000クラスに比べ、ARRC ASB1000クラスは、ポ[…]
一度掴んだ税金は離さない! というお役所論理は、もういいでしょう 12月20日に与党(自民党と公明党)が取りまとめた「令和7年度税制改正大綱」の「令和7年度税制改正大綱の基本的な考え」の3ページ目に「[…]
ヤマハの最先端技術の結晶、それがYZF-R1だ 今からちょうど10年前の2014年11月。イタリアはミラノで開催されたEICMAにおいて、7代目となるヤマハのフラッグシップ“YZF-R1”が華々しくデ[…]
- 1
- 2