
毎年のように新技術が投入され、日本の4メーカーが世界4大メーカーとして覇権を争っていた時代。300km/h超えを達成したマシンが複数登場することで、のちの300km/h速度リミッター導入へと繋がっていく。
●文:ヤングマシン編集部
- 1 レプリカブームはリッタークラスへ。速度自主規制発動から世界最速ロマンも終焉へ
- 2 YAMAHA YZF-R1──CBR900RRの産みの親、馬場さんも驚いた3軸配置
- 3 YAMAHA YZF-R7──スーパーバイクレースもR系へ
- 4 HONDA VTR1000SP-1──打倒ドゥカティ、ホンダ本気のVツインレーサー
- 5 SUZUKI TL1000R──ライバルも野心的Vツインスーパースポーツで対抗
- 6 HONDA CBR1100XX SUPER BLACKBIRD──カワサキから「世界最速」を奪取
- 7 KAWASAKI Ninja ZX-12R──最後の300km/hオーバーマシン
- 8 SUZUKI GSX1300R HAYABUSA──速さ+運動性能で超ロングヒット
レプリカブームはリッタークラスへ。速度自主規制発動から世界最速ロマンも終焉へ
ZZ-R1100やCBR900RR、CB1300 SUPER FOURといった大ヒットが生まれたこと、そして教習所での大型二輪免許取得が可能になったことから、1990年代後半はビッグバイクブームが加速していく。そして登場したのは、ドゥカティに対抗しうる国産Vツイン勢。ヤマハTRX850のスマッシュヒットが引き金になっていた面もあるが、いずれにせよリッターレーサーレプリカが誕生してしまったのだ。さらにはYZF-R1がWGPマシンのような車体構成を引っ提げて衝撃のデビューを飾り、翌年にはハヤブサが登場する。「何が最速なのか」という、最速の定義すら書き換える勢いでレーサーレプリカとフラッグシップマシン(のちにメガスポーツなどとも呼ばれる)が頂点を競っていった。そして異形の12Rの登場とほぼ同時に、ハヤブサが先鞭をつけた速すぎる最高速度に対して規制する動きが生まれ、最速キング争いは収束していったのだ。
1997年は消費税が3%→5%へと引き上げられたほか、お台場のフジテレビ新社屋から本放送が開始された。東京湾アクアラインの開通もこの年だ。翌年の1998年は黒澤明監督とギタリストのhideが亡くなった。そしてiMacやウインドウズ98が誕生している。1999年、ノストラダムスの大予言は当たることなく、ミレニアムを迎えた2000年にはイチローがメジャーリーガーに。プレイステーション2が発売されたのもこの年だった。
YAMAHA YZF-R1──CBR900RRの産みの親、馬場さんも驚いた3軸配置
初代ホンダCBR900RRが切り拓いたスーパースポーツカテゴリーには、その後カワサキZX-9Rも追随したが、ムーブメントとしてブレイクしたのはこのR1の登場によってだった。大排気量エンジンを軽量コンパクトな車体に搭載して高い運動性能を発揮するというコンセプトを更に明確に標榜。主要3軸三角形配置によるシャーシ前後長の短縮、その一方でスイングアームを長めとし、よく動くサスペンションとするなど、現代に通じる数々の設計手法が導入された。それまでは900ccが最適解とされていたスーパースポーツ界においてリッター化を果たした意義も大きい。この後ライバルたちもこぞってリッター化。やがてレース界も席捲するのだが、まだこの頃はあくまで峠が主眼だった。
【YAMAHA YZF-R1 平成10(1998)年】主要諸元■水冷4ストローク並列4気筒DOHC5バルブ 997.8cc 150ps/10000rpm 11.0kg-m/8500rpm■177kg(乾)■F=120/70ZR17 R=190/50ZR17
エンジンの主要3軸を三角形に配置するレーサー譲りの手法が超コンパクトな車体に貢献。よく動く足まわりと組み合わせて抜群の旋回性能を実現した。
YAMAHA YZF-R7──スーパーバイクレースもR系へ
スーパーバイクの750ccレギュレーション末期には、兄弟車となるR7も登場。やがてレギュレーション変更でR1そのものがレースの舞台でも主役となるのだ。
【YAMAHA YZF-R7 平成11(1999)年】主要諸元■水冷4ストローク並列4気筒DOHC5バルブ 749cc 106ps 7.4kg-m■176kg(乾)
HONDA VTR1000SP-1──打倒ドゥカティ、ホンダ本気のVツインレーサー
スーパースポーツ人気の高まりとともに国産メーカーには見過ごせない存在も大きくなっていた。それはLツインのドゥカティだ。気筒数が少ないぶん軽量に仕上げられ運動性に優れ、図太いトルクと排気音も4気筒に慣れたライダーたちには新鮮でシェアを伸ばしていた。そこで国産メーカー各社も2気筒スポーツを続々と発売、これに対抗していくことになる。さらにホンダはSBレース用にホモロゲーションモデルのVTR-SPも投入。想定速度域が非常に高く、公道で普通に乗っていたらガチガチでまったく動かないサスなど、完全にレースベースを前提とした仕様となっていた。当時のホンダのトレンドのひとつだったサイドラジエターも印象的。
【HONDA VTR1000SP-1 平成12(2000)年】■水冷4ストロークV型2気筒DOHC4バルブ 999㏄ 136ps/9500rpm 10.7kg-m/8000rpm■199kg(乾)■F=120/70ZR17 R=190/50ZR17
開発はHRCが主導。一般的なカムチェーンのVTR1000Fに対し、SP1/2はカムギアトレーンでエンジンは別物。車体も然りだった。
SUZUKI TL1000R──ライバルも野心的Vツインスーパースポーツで対抗
ホンダとともに積極的にVツインスーパースポーツを開発していたのがスズキだ。最初にアルミ製トレリスフレームのTL1000Sを投入。次にVTR-SP同様にツインスパーフレームで剛性を高めたレース用のTL1000Rを送り出した。エンジンはセミカムギヤトレーンを採用して高パワーを発揮。車体もロータリーダンパーサスペンションなど意欲的な機構が盛り込まれていた。
【SUZUKI TL1000R 平成9(1997)年】主要諸元■水冷4ストロークV型2気筒DOHC4バルブ 996cc 137【126】ps13.5【10.7】kg-m■192【187】kg(乾) ※【 】内はS
ホイールベース短縮策として編み出されたのがダンパー部を回転式別体型とするロータリーダンパー。ただ、うまく機能しなかった。
HONDA CBR1100XX SUPER BLACKBIRD──カワサキから「世界最速」を奪取
「世界最高性能」を標榜したスーパーブラックバードは、同時にカワサキZZ-Rから最速王者の座も奪取。「300km/h」がひとつの合言葉のようにライダーたちをスピードへと駆り立てた。日本でも大型二輪免許の教習所取得解禁も相まってビッグバイクブームはさらに高まるばかり。文字通りバイク界の頂点に立ったブラックバード人気は公道に留まらず、鈴鹿8耐S-NKクラスにも参戦するなど様々なチャレンジが試みられた。初代はキャブレター仕様で登場したが、’99年の2代目からはFIとラムエアシステムを導入。カタログ馬力こそ初代と同じ164psながら、さらなる性能アップが図られている。欧州300km/h自主規制以降はツアラー色が高められていた。
【HONDA CBR1100XX SUPER BLACKBIRD 平成9(1997)年】主要諸元■水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 1137cc 164ps/10000rpm 12.7kg-m/7250rpm■223kg(乾)■F=120/70ZR17 R=180/55ZR17
KAWASAKI Ninja ZX-12R──最後の300km/hオーバーマシン
ホンダによって奪われた世界最速の座を奪還すべく、カワサキが総力を結集して作り上げたのが12R。前面投影面積を減らすために採用された量産車初のアルミモノコック・バックボーンフレームや、カワサキ航空部門の協力を得た高速域での浮き上がりを防止するウイングレット、吸入効率を最優先して前方に飛び出したラムエアインテークなど、惜しみなく新フィーチャーがつぎ込まれた。しかし、その存在こそスズキ・ハヤブサより先に知られていたが発売時期では逆転。12Rはノーマル実測で300km/hオーバーを実現しながらも、すでに欧州では速度自主規制が決定的となっており、最速ブームは急激に萎んでいく。出た時期が遅かった。
【KAWASAKI Ninja ZX-12R 平成12(2000)年】主要諸元■水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 1199cc 178ps/10500rpm 13.6kg-m/7500rpm■210kg(装)■F=120/70ZR17 R=200/50ZR17
モノコックフレーム内部にはエアクリーナーやバッテリーを内蔵。燃料タンクは容量の半分がシート下へ潜り、重量配分の適正化に貢献。
SUZUKI GSX1300R HAYABUSA──速さ+運動性能で超ロングヒット
CBR1100XXに世界最速の座を奪われて悔しいのはカワサキだけではなかった。ZZ-R1100が世界最速の座に君臨していたときの対抗馬はスズキGSX-R1100。そのスズキが俺たちを忘れてないかとばかりに12R発売を前にセンセーショナルにデビューさせたのが初代ハヤブサだった。350km/hまで目盛りは刻まれたメーターは伊達ではなく実際に312km/hを記録。量産車初の300㎞/hオーバーを果たした。だが、ハヤブサのあまりの速さに欧州では速度自主規制が’01年から実施されることとなる。しかし、12Rと違って運動性能も高かったハヤブサはその後も需要が続き、’08にフルモデルチェンジもするロングセラーに。縦目2眼の異形モンスターは今なお人気だ。
【SUZUKI GSX1300R HAYABUSA 平成11(1999)年】主要諸元■水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 1298cc 175ps/9800rpm 14.1kg-m/7000rpm■215kg(装)■F=120/70ZR17 R=190/50ZR17
初代発売時、本誌がヨーロッパで行った最高速アタックではメーター読みで320km/hオーバーを記録。レッドゾーンまでまだ500rpmほど手前だ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
※当記事に掲載されている各テストは、路面状況/気温/ライダーなどが異なり、厳密な同一条件ではありません。すべて参考数値とお考えください。また、『ヤングマシン』本誌以外の計測データが一部含まれています。[…]
再録・初代ハヤブサ vs ライバルZX-12R:アウトバーンで速度無制限バトル(YM'00年5月号より) ※以降の記事内容は『ヤングマシン』本誌'00年5月号掲載記事を元に再構成されています。表現は基[…]
規制議論を巻き起こすほど突出した速さと人気を誇った '98年秋のショーで発表された初代ハヤブサは、よく"衝撃的”と表現されるが、写真が公開された段階では、いい意味で使われていなかった…気がする。当時は[…]
海外専用だった初代の登場から20年間で大きく変更されたのは一度だけ。にもかかわらず、日本で根強い人気を誇るのがスズキのハヤブサ。最高速というキーワードが封印されて以降も、その翼はもがれなかった。スポー[…]
Hayabusa 25周年記念モデル(日本仕様)のディテールはこちら(写真21点) 日本を含む全世界で7月より順次発売! 日本での価格は221万1000円 スズキのフラッグシップモデル「Hayabus[…]
最新の関連記事([特集] 日本車LEGEND)
世界不況からの停滞期を打破し、新たな“世界一”への挑戦が始まった 2008年からの世界同時不況のダメージは大きく、さらに東日本大震災が追い打ちをかけたことにより、国産車のニューモデル開発は一時停滞を余[…]
究極性能先鋭型から、お手ごろパッケージのグローバル車が時代の寵児に オーバー300km/h時代は外的要因もあって唐突に幕切れ、それでも高性能追求のやまなかったスーパースポーツだったが、スーパーバイク世[…]
大型免許が教習所で取得できるようになりビッグバイクブームが到来 限定解除、つまり自動二輪免許中型限定(いわゆる中免)から中型限定の条件を外すために、各都道府県の試験場で技能試験(限定解除審査)を受けな[…]
ハチハチ、レーサーと同時開発、後方排気など様々なワードが巷に踊る 群雄割拠のレーサーレプリカブームはやがて、決定版ともいえる’88NSR250Rの登場でピークを迎えていく。「アルミフレーム」「TZと同[…]
レプリカブームがナナハンクラスに進撃。’80s名作ロードスターも誕生した 250ccで始まったレーサーレプリカ熱狂時代は、RG250Γをリリースしたスズキが同時代の開拓者として次なる一手を打つ。それが[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
凛としたトラディショナルをカジュアルクラシックで訴求! ヤマハが1992年にリリースしたSRV250は、1988年のXV250Viragoで開発した空冷250Vツインを搭載、感度の高いトラディショナル[…]
ホンダCBR600RR(2020) 試乗レビュー 排気量も気筒数も関係ない、コイツがいい! 仕事柄、しばしば「スーパースポーツが欲しいんですけど、リッタークラスとミドルクラスのどっちがいいと思います?[…]
250と共通設計としたことでツアラーから変貌した400 2023年モデルの発売は、2023年9月15日。令和2年排出ガス規制適合を受けた2022年モデルのスペックを引き継ぐ形で登場した。 ニンジャ25[…]
情熱は昔も今も変わらず 「土日ともなると、ヘルメットとその周辺パーツだけで1日の売り上げが200万円、それに加えて革ツナギやグローブ、ブーツなどの用品関係だけで1日に500万円とか600万円とかの売り[…]
1980年代レーシングヘリテイジが蘇るゴロワーズカラー ヤマハは2022年5月にフルモデルチェンジした2022年モデルのXSR900を発表。2020年モデルが1970年代を中心としたカラーリングを特徴[…]
人気記事ランキング(全体)
情熱は昔も今も変わらず 「土日ともなると、ヘルメットとその周辺パーツだけで1日の売り上げが200万円、それに加えて革ツナギやグローブ、ブーツなどの用品関係だけで1日に500万円とか600万円とかの売り[…]
660ccの3気筒エンジンを搭載するトライアンフ「デイトナ660」 イギリスのバイクメーカー・トライアンフから新型車「デイトナ660」が発表された際、クルマ好きの中でも話題となったことをご存知でしょう[…]
CB1000 SUPER FOUR BIG-1の400cc版でスタート、1999年のHYPER VTEC搭載で独り舞台に! 2019年モデル発表後、期間限定で2022年まで販売され惜しまれつつホンダの[…]
1980年代の鈴鹿8時間耐久の盛り上がりを再び起こしたい 設楽さんは、いま世界でもっとも伸長しているインドに2018年から赴任。その市場の成長ぶりをつぶさに見てきた目には、日本市場はどう映っているのだ[…]
カワサキUSAが予告動画を公開!!! カワサキUSAがXで『We Heard You. #2Stroke #GoodTimes #Kawasaki』なるポストを短い動画とともに投稿した。動画は「カワサ[…]
最新の投稿記事(全体)
専用ロゴがファン心をくすぐる 1975年に初代GL1000が誕生してから50年が経つホンダのプレミアムツアラー、ゴールドウイング。2018年のフルモデルチェンジでは、フロントにダブルウィッシュボーンサ[…]
電子の力で瞬時に冷却する「ペルチェ素子」を採用 このベスト最大の売りは、その冷却システムに「ペルチェ素子」を採用していること。これは、半導体の一種で、電気を流すと素子の片面が熱を吸収(冷却)、もう片面[…]
凛としたトラディショナルをカジュアルクラシックで訴求! ヤマハが1992年にリリースしたSRV250は、1988年のXV250Viragoで開発した空冷250Vツインを搭載、感度の高いトラディショナル[…]
着脱の快感を生む「ピタッ」&「カチッ」を実現する独創的なデュアルロック 今や街乗りでもツーリングでも、すべてのバイクの必須アクセサリーといっても過言ではないスマートフォンホルダー。バイク用ナビやスマー[…]
ホンダCBR600RR(2020) 試乗レビュー 排気量も気筒数も関係ない、コイツがいい! 仕事柄、しばしば「スーパースポーツが欲しいんですけど、リッタークラスとミドルクラスのどっちがいいと思います?[…]
- 1
- 2