毎年のように新技術が投入され、日本の4メーカーが世界4大メーカーとして覇権を争っていた時代。フルカウルとセパレートハンドルが認可され、レーサ―レプリカ大航海時代が幕を開けたのが1983年だった。
●文:ヤングマシン編集部
- 1 フルカウルとセパハンの認可が下り、本格レーサーレプリカが次々と放たれる
- 2 SUZUKI RG250Γ──カウル×セパハンの本格レーサーレプリカ
- 3 SUZUKI GSX-R──GSの魂を継いだ元祖4ストミドルレプリカ
- 4 YAMAHA TZR250──レーサーと共同開発でヤマハハンドリングを体現
- 5 YAMAHA FZ400R──初代F3王者と並行開発、懐の広さも一線級
- 6 YAMAHA RZV500R──ケニーの王機を再現した孤高のV4
- 7 HONDA NS400R──天才の気分に浸れる、クラス唯一のV3
- 8 SUZUKI RG500Γ/400Γ──RCV-S並み? リアルGPレプリカの金字塔
- 9 KAWASAKI GPZ400R──戦場はストリート、時代に抗ったミドルNinja
フルカウルとセパハンの認可が下り、本格レーサーレプリカが次々と放たれる
時代の主流は空冷エンジンから水冷エンジンへ、そして大型バイクは世界最速を目指してしのぎを削り合った。それにやや遅れてはじまったのがレーサーレプリカブームだ。昭和55年(1980)に登場したヤマハRZ250が当時の同TZ250と設計思想を共有していたことから「レーサーそのまま」という言葉が雑誌に踊り、若いライダーたちを熱くさせた。そして昭和58年に登場したのがスズキRG250Γだったのだ。フルカウルをまとい、セパレートハンドルを装着した姿は、まさしくレーサーレプリカ(レーシングマシンの複製)そのものととらえられ、熱狂のレーサーレプリカブームがはじまることになる。
昭和58年(1983)には東京ディズニーランドが開園し、任天堂ファミリーコンピュータが登場。昭和59年(1984)には週刊少年ジャンプでドラゴンボールの連載がはじまり、前年の北斗の拳などと合わせてジャンプ黄金期を迎える。昭和60年(1985)には夏目雅子が死去し、西遊記ファンなどに衝撃を与えた。
SUZUKI RG250Γ──カウル×セパハンの本格レーサーレプリカ
’83年、保安基準が改正され、ついに国内でもレーサー的なカウリングとセパレートハンドルが認可されることになった。この機を捉え、いち早く登場したレプリカ路線のマシンがRG250Γである。量産車初のアルミフレームをはじめ、「ヤッコ凧」と呼ばれた大型カウル(オプションでフルカウルもあり)やセパレートハンドル、流行のフロント16インチ、サイレンサー別体式チャンバーなどを採用。レーサーそのままの姿は、ライバルが時代遅れに見えるほど革新的だった。さらに並列2気筒はクラス最強の45psを発生。RZより軽い131kgの車体もあり、市販車レースで好成績を博した。以降のレプリカブームを決定付けた1台である。
SUZUKI GSX-R──GSの魂を継いだ元祖4ストミドルレプリカ
’83年は、鈴鹿8耐で王者に輝くなどスズキの耐久レーサー、S1000Rが旋風を巻き起こした。2眼ヘッドライトにハーフカウル、そしてヨシムラ譲りの集合サイクロンマフラーというGSの特徴を市販車に落とし込んだモデルがGSX-Rである。心臓部は GSX400FW譲りの水冷直4で、クラス最強の59psをマーク。さらに400初のアルミフレームを採用し、CBRやFZより10kg以上軽い152kgを実現。デカ・ピストンブレーキ(車両全体で10個のキャリパーピストンを備えるの意)などの斬新なメカも備えた。爆発的なヒットとなり、ここから4ストローク中型レプリカの時代が始まったのだ。なお、車名は排気量を超えた性能を示すため、敢えて「GSX-R」としたのが粋である。
YAMAHA TZR250──レーサーと共同開発でヤマハハンドリングを体現
Γらのライバルに対抗すべく、’85年11月にヤマハが送り込んだ刺客がTZR250だ。市販レーサーTZ250との共同開発により、TZ直系の水冷パラツインと直線的なアルミ製デルタボックスフレームを採用。WGPマシンのYZR500と同様、先進のクランクケースリードバルブも獲得した。これをTZと見紛うフルカウルに包む。車体は乾燥重量126kgと軽く、前後17インチのコンパクトさも美点だ。エンジンはシャープかつ広いパワーバンドを有し、ハンドリングも自由自在。この扱いやすさが支持され、一気に2ストロークレプリカの頂点に躍り出た。同時に、この頃から確立してきた「ヤマハハンドリング」の象徴ともなったマシンだ。
YAMAHA FZ400R──初代F3王者と並行開発、懐の広さも一線級
’84年から開幕する全日本TT-F3参戦を睨み、ヤマハがワークスレーサーを投入。これと同時開発された公道モデルがFZ400Rだ。XJ400Zの水冷直4を改良し、クラス最高の59psを達成。これを角断面の鉄ダブルクレードルフレーム+アルミスイングアームの車体に積んだ。低く構えたカウルも実戦的で、高い空力性能が自慢。その戦闘力は高く、全日本F3でワークスマシンが見事、初代王座を獲得している。同時にF16インチながら扱いやすさと高バランスを兼備し、幅広い層に愛された。以後、マイナーチェンジや’86のフルカウル化を経て、モデルサイクルの短い時代に’88年頃まで販売。これも懐の広い走りが支持された証だ。
YAMAHA RZV500R──ケニーの王機を再現した孤高のV4
400ccレプリカが隆盛する’84年、ヤマハから究極のマシンが送り込まれた。当時最高峰のWGP500でK・ロバーツが駆り、王者に輝いたYZR500(OW61)のフルレプリカ、RZV500である。車体レイアウトやVバンク角(40→50度)は異なるものの、完全新設計の水冷2ストロークV型4気筒は、GPマシンと同じく2軸クランクと4本出しサイレンサーを踏襲。前2気筒がピストンリードバルブ、後側がクランクケースリードバルブという異色の吸気方式も市販車初となる。国内仕様は64psながら、比較的簡単にフルパワー88psを取り戻すことが可能だった。車体はコンパクトで、250㏄並みのホイールベース1375mmを実現。ヤマハ初のアルミフレームに水平配置&下置きのリヤサスなど贅を尽くした。まさにGP気分が味わえる1台だ。
HONDA NS400R──天才の気分に浸れる、クラス唯一のV3
ホンダワークスのNS500は、’82~’83年のWGPでF・スペンサーがライドし、’83年に史上最年少で初タイトルを獲得した栄光のマシン。ライバルが4気筒なのに対し、1軸クランクのV型3気筒を採用していた。その公道レプリカがNS400Rだ。GPマシンの前1&後2気筒に対し、熱処理の問題などで前2&後1気筒を選択。MVX250Fと並び、現在まで唯一の市販V3で、他のビッグ2ストよりコンパクトな車格やクラスナンバー1のトルクが持ち味だった。車体は、角断面アルミフレーム、空気圧でプリロードが調整できるエアアシストサスを採用。NS500と同デザインのアルミコムスターホイールをはじめ、HRCのトリコロール、ロスマンズカラーといった車体色もまさにWGPマシンそのものだった。
SUZUKI RG500Γ/400Γ──RCV-S並み? リアルGPレプリカの金字塔
WGP500で’76年から7年連続メーカータイトルを獲得したスズキ。その中核こそRG500Γである。’83年以降ワークス参戦を休止するが、その2年後に突如、同名の公道モデルが姿を現した。特筆すべきは、徹底したレプリカ度だ。スクエア4の心臓をはじめ、排気量、ロータリーディスクバルブ、ボア×ストローク=56×50.6mmまでレーサーと同一。さらにクランクケース形状や、2軸クランクの軸間距離も同じ。高価なカセット式ミッションまで搭載した。フルパワーで驚異の95psを発揮し、アルミフレームなどで軽さを追求した車体も156kgとライトウェイト。「2スト最強」の称号を手にした。400 版が用意されるのも特徴だ。
KAWASAKI GPZ400R──戦場はストリート、時代に抗ったミドルNinja
サーキットとレプリカがブーム真っ只中の’85年、カワサキが独自のストリート路線を歩むGPZ400Rを発売した。前年に登場したGPZ900Rのミドル版となる存在で、エンジンは輸出向けのGPZ600Rがベース。これをアルミ製で独特なX字を描くアルクロスフレームに搭載する。ライポジもアップハンドルに低シート高とあくまで公道向けの設定だった。軽量コンパクトなレプリカに対し、重厚長大なボディやナナハン並みの130mmリヤタイヤのフォルムに人気が集中。居並ぶレプリカを抑えて、’85~’86年のベストセラーを記録した。流行に左右されず、信念を貫き成功を収めたGPZ 。その精神は後年のZZRにも受け継がれる。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
低回転から淀みないパワー、50ccを思わせる軽快さ バイク界が一気に盛り上がり、販売台数でピークだった1983年に話題の的となったRG250ガンマ(Γ:ギリシャ語で栄光を意味するゲライロの頭文字)より[…]
オリジナルのバランスを忠実に再現してみせる ケンツが'80年代2ストレプリカの最高峰RG500Γに当時のXR45外装をまとわせた、HB(ハーベイ)カラーのカスタム車を仕上げたのはヤングマシン本誌の'2[…]
なぜスクープに当たり外れがあるの? ヤングマシン誌の花形記事といえば新車スクープだ。その歴史は1982年10月号までさかのぼり、CGもなかった当時は手書きの予想イラスト(しかも初期は白黒ページ!)を掲[…]
2ストV型3気筒の咆哮〈ホンダ NS400R〉 当初、MVX250Fの上位モデルとして400版の発売が検討されていたが、250の販売不振を受け計画はストップ。この心臓部を受け継ぎ、NS250Rの技術を[…]
すでにエンジンを完成させた……! 2ストローク+4ストロークを融合したV型3気筒の存在は、2003年1月号で初披露。リヤ1気筒の2スト側はクランク1回転毎に燃焼するので、実質的に4ストV型4気筒と同じ[…]
最新の関連記事([特集] 日本車LEGEND)
世界不況からの停滞期を打破し、新たな“世界一”への挑戦が始まった 2008年からの世界同時不況のダメージは大きく、さらに東日本大震災が追い打ちをかけたことにより、国産車のニューモデル開発は一時停滞を余[…]
究極性能先鋭型から、お手ごろパッケージのグローバル車が時代の寵児に オーバー300km/h時代は外的要因もあって唐突に幕切れ、それでも高性能追求のやまなかったスーパースポーツだったが、スーパーバイク世[…]
レプリカブームはリッタークラスへ。速度自主規制発動から世界最速ロマンも終焉へ ZZ-R1100やCBR900RR、CB1300 SUPER FOURといった大ヒットが生まれたこと、そして教習所での大型[…]
大型免許が教習所で取得できるようになりビッグバイクブームが到来 限定解除、つまり自動二輪免許中型限定(いわゆる中免)から中型限定の条件を外すために、各都道府県の試験場で技能試験(限定解除審査)を受けな[…]
ハチハチ、レーサーと同時開発、後方排気など様々なワードが巷に踊る 群雄割拠のレーサーレプリカブームはやがて、決定版ともいえる’88NSR250Rの登場でピークを迎えていく。「アルミフレーム」「TZと同[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
CB750/900Fと並んで進んでいた、ホンダが大攻勢に賭けた初の新エンジン! どのクルマメーカーもお手上げだったマスキー法という排気ガス規制をクリアして、ホンダが世界に認められたCVCCエンジン開発[…]
高いポテンシャルを持ちながら肩の力を抜いて乗れる二面性で大ヒット セローが登場した1985年は、オンロードでは本格的なレーサーレプリカブームが到来する頃でした。オフロードも同様で、パンチのある2ストロ[…]
XLCRとはあらゆる点で違う ブラックに統一された精悍な車体の中で、フューエルタンクに貼られたバー&シールドのエンブレムがゴールドで彩られ、誇らしげに煌めいている。 クォーターサイズのコンパクトなフェ[…]
50ccスクーターでバイクいじりを楽しむ 女性向けやビジネス向け、スポーツモデルからハイグレードタイプまで、かつては原付免許を取得したライダーが一度は所有したことがあったのが50ccスクーターだった。[…]
2020年モデルでシリーズ全カラーを総入れ替え! カフェは3色→2色に “火の玉”Z900RSとヴィンテージライムグリーンのZ900RSカフェが牽引してきた初代2018年モデル~2019年モデル。すで[…]
人気記事ランキング(全体)
4気筒CBRシリーズの末弟として登場か EICMA 2024が盛況のうちに終了し、各メーカーの2025年モデルが出そろったのち、ホンダが「CBR500R FOUR」なる商標を出願していたことが判明した[…]
2025年こそ直4のヘリテイジネイキッドに期待! カワサキの躍進が著しい。2023年にはEVやハイブリッド、そして2024年には待望のW230&メグロS1が市販化。ひと通り大きな峠を超えた。となれば、[…]
一定以上のスピードの車両を自動的に撮影する「オービス」 結論から言うと、基本的にバイクはオービスに撮影されても捕まらない。そもそもオービスはバイクを取り締まるつもりがない。ただし警察にもメンツがあるか[…]
CB750/900Fと並んで進んでいた、ホンダが大攻勢に賭けた初の新エンジン! どのクルマメーカーもお手上げだったマスキー法という排気ガス規制をクリアして、ホンダが世界に認められたCVCCエンジン開発[…]
一度掴んだ税金は離さない! というお役所論理は、もういいでしょう 12月20日に与党(自民党と公明党)が取りまとめた「令和7年度税制改正大綱」の「令和7年度税制改正大綱の基本的な考え」の3ページ目に「[…]
最新の投稿記事(全体)
どんなUber Eats配達員でも必ず持っている装備といえば、スマートフォン。これがなければ、仕事を始めることすらできません。 そんなスマートフォンですが、太陽が強く照っている日に使うと画面が真っ黒に[…]
今シーズンに続き富樫虎太郎選手を起用、新加入は木村隆之介 元MotoGPライダーの中野真矢さんが率いるレーシングチーム「56RACING(56レーシング)」が、2025年のレース活動概要を発表した。 […]
全日本ST1000とASB1000の両カテゴリーを制す! 開幕2連勝を飾り、常にポイントリードし最終戦を待たずにチャンピオンを決めた全日本ST1000クラスに比べ、ARRC ASB1000クラスは、ポ[…]
一度掴んだ税金は離さない! というお役所論理は、もういいでしょう 12月20日に与党(自民党と公明党)が取りまとめた「令和7年度税制改正大綱」の「令和7年度税制改正大綱の基本的な考え」の3ページ目に「[…]
ヤマハの最先端技術の結晶、それがYZF-R1だ 今からちょうど10年前の2014年11月。イタリアはミラノで開催されたEICMAにおいて、7代目となるヤマハのフラッグシップ“YZF-R1”が華々しくデ[…]
- 1
- 2