
ホンダ・レーシングは電動モトクロッサーの「CRエレクトリック・プロト」で、10/27-29に開催された全日本モトクロス第8戦にスポット参戦した。参戦クラスは最高峰のIA-1、ライダーは現アメリカンホンダのアドバイザーで、2010年のAMAプロモトクロスチャンピオンであるトレイ・カナード。内燃機関との混走レースを、ホンダ初の電動レーシングマシンはいかに戦ったのか?
●文:ヤングマシン編集部・松田 ●写真:ホンダ/ヤマハ発動機/編集部
電動CRでヤマハの無双ライダーと一騎打ち
全日本モトクロスの第8戦にスポット参戦したCRエレクトリック・プロトは、ホンダとしては公式レースに出場する初の電動レーシングマシン(詳細はこちら)。参戦したのは国内最高峰のIA-1クラス(国際A級ライダーが4スト450cc車で競う)で、埼玉県のオフロードヴィレッジで開催される第8戦では、15分+2周のレースを3回繰り返す3ヒート制で争われる。
2023年のIA-1クラスは、今年から参戦しているヤマハファクトリーのジェイ・ウィルソン選手が第7戦まで全勝という無双っぷりを見せており、ここにCRエレクトリックを駆る元AMAチャンピオンのトレイ・カナード選手がどんな戦いを挑むのかも注目された。
もちろん今回のスポット参戦は、レース参戦によるデータの収集が表向きの目的。しかし、1ヒートの走行時間が短く、かつテクニカルなオフロードヴィレッジをスポット参戦の場に選んだのは、ホンダとしても”それなりの勝算”があってのことだろう。
【ホンダCRエレクトリック プロト】全日本モトクロス第8戦にスポット参戦したCRエレクトリック プロト。スペックなど詳細についての発表はないが、車体はCRのフレームをベースにしつつも各部は専用化が図られている模様。関係者によると「車重は450モトクロッサーよりもまだ重い」らしい。モーター出力なども不明だが、3ヒートで2回もホールショットを奪った加速性能を見るに、450と同等以上の出力を発揮可能なはず。
日本人選手が駆る450cc車より2秒も速い
決勝前日の予選では、ヤマハのファクトリーマシン・YZ450FMを駆るウィルソン選手に約2秒遅れの5番手となったカナード選手。しかし決勝ヒート1では1周目にスタート直後の混乱に乗じて2位に上がると、前方を行くウィルソン選手と大差ないペースで走行を重ねる。
このヒート1前半で見せたCRエレクトリックの走りは、ジャンプやその着地にやや重さを感じる程度で、他の450ccモトクロッサーと比較しても遜色のないものだった。もちろんカナード選手の技量もあるのだろうが、観客からも“電動やるなぁ!”という声が聞こえたほどだ。4周目に記録したベストラップ・1分37秒195はウィルソン選手のヒート1のベストの約0.7秒落ち、かつ他の選手からは約2秒も速いという好タイムだ。
しかしレース後半になるとカナード選手&CRエレクトリックはペースが落ち、ウィルソン選手&YZ450FMとの差は徐々に広がってしまう。最終的には11周を走り、ウィルソン選手に20秒遅れの2位でゴールした。3位の内田篤基選手(カワサキKX450)との差は3秒で、ウィルソン選手以外のエンジン車には勝ったことにはなる。
このヒート1後にホンダ関係者に聞くと「一発の速さは既にあるが、15分という走行時間が厳しい。10分のレースがあれば勝てるかもしれない」とのことで、ペースダウンはバッテリーの消耗か、または後半にペースを落とす制御が入っていたものと思われる。車重も450モトクロッサーよりは重いそうで(具体的な重量は非公開)、このあたりが当面の課題となるのだろう。
電動モトクロッサーでエンジン車をタイムで上回る走りを見せたトレイ・カナード選手。既に現役は退いているものの、その走りは健在。ヤマハのジェイ・ウィルソン選手とともに日本人選手を圧倒する走りを見せた。
ヒート2/3はアクシデントでリタイヤ
対して、ヒート2/3は残念な結果に終わってしまった。ヒート2でカナード選手はホールショットを奪い、ハイペースで1周目をクリアしたものの、2周目になんとウィルソン選手に突っ込まれるような形で転倒。再スタートできたウィルソン選手に対し、カナード選手はそのままリタイヤとなってしまった。
余談となるがこの後、15番手まで落ちたウィルソン選手は猛追を見せて場内を湧かせたものの、トップの星野優位選手(ヤマハYZ450F)、2位の大倉由揮選手(ホンダCRF450R)にはわずかに届かず3位でゴール。開幕からの連勝記録はストップしてしまった。
ウィルソン選手は「カナード選手&CRエレクトリックは速く、脅威を感じた。その結果絡んでしまった」といったことを語っており、レース後にはカナード選手を謝罪に訪れていたが、ヒート2でウィルソン選手が見せた激走はこの日一番の見せ場だったと思う。
そしてヒート3だが、再びホールショットを奪ったカナード選手だったが、今度は2週目の前半で転倒。フロントからのスリップダウンで車両の損傷は少なさそうに見えたが、やはりここでリタイヤとなった。転倒現場近くにいた人物によれば「モーターは再起動していたように見えたが、押し引きが出来ない状態だった。転倒時にブレーキを壊したのかも」とのこと。
ここまで無傷の17連勝、すでに前戦の第7戦でチャンピオンを決定しているヤマハファクトリーのジェイ・ウィルソン選手(ゼッケン27)。第8戦でも圧倒的な走りを見せ、ゼッケン41・CRエレクトリック プロトのカナード選手とともに会場を沸かせた。
継続参戦が“アレルギー払拭”に繋がるか?
関係者によるとヒート2のリタイヤは「ウィルソンと絡んだ際に、転倒時にモーターを停止させるリストバンド(右手首に装着している)がウィルソンのバイクに絡まり、そのまま持って行かれてしまったために再起動できなかった。それはレースなので仕方ないが、データが取れなかったのが残念。ドライバビリティやバッテリーの制御を変更するにも、そのベースとなるデータが欲しかった」とのこと。
実際、ヒート2はヒート1から制御を変更していたようで、ホールショットからのウィルソン選手を焦らせるほどのスピードは、周囲に速さを印象付けるための“一発勝負モード”だったのかもしれない。このあたりはプロトということもあり公式発表もなく、ピット作業も外部から遮断したテント中で行われていたため、伺い知ることができないのがもどかしい。
ホンダとしても不本意だっただろうが、この日集まった約3300人の観客は“一発ならウィルソンとタメで走れるじゃん!”という印象をCRエレクトリック・プロトに抱いたはず。2024〜2025年に大型の電動ファンモデルを3機種投入すると公言しているホンダだけに、レースで能力を見せて“電動アレルギー”を払拭していくためにも、今後も継続的な参戦をお願いしたい。
IA-1 決勝ヒート1 順位
順位 | ゼッケン | 選手名 | 車種 | ラップ数 | ベストラップ | タイム差 | |
1 | 27 | ジェイ・ウィルソン | YAMAHA FACTORY INNOVATION TEAM | YZ450FM | 11 | 1:36.503 | |
2 | 41 | トレイ・カナード | Team HRC | CRエレクトリック プロト | 11 | 1:37.195 | 20.603 |
3 | 8 | 内田篤基 | Yogibo MOUNTAIN RIDERS | KX450 | 11 | 1:39.132 | 3.178 |
4 | 7 | 大塚豪太 | T.E.SPORT | CRF450R | 11 | 1:40.194 | 3.169 |
5 | 9 | 星野優位 | レーシングチーム鷹/STAR Racing 166 | YZ450F | 11 | 1:39.491 | 2.846 |
IA-1 決勝ヒート2順位
順位 | ゼッケン | 選手名 | 車種 | ラップ数 | ベストラップ | タイム差 | |
1 | 9 | 星野優位 | レーシングチーム鷹/STAR Racing 166 | YZ450F | 11 | 1:39.102 | |
2 | 6 | 大倉由揮 | Honda Dream Racing Bells | CRF450R | 11 | 1:38.928 | 2.316 |
3 | 27 | ジェイ・ウィルソン | YAMAHA FACTORY INNOVATION TEAM | YZ450FM | 11 | 1:36.635 | 1.225 |
4 | 5 | 小方 誠 | TEAM HAMMER | CRF450R | 11 | 1:39.635 | 16.555 |
5 | 3 | 渡辺祐介 | YAMAHA FACTORY RACING TEAM | YZ450FM | 11 | 1:39.686 | 2.546 |
IA-1 決勝ヒート3順位
順位 | ゼッケン | 選手名 | 車種 | ラップ数 | ベストラップ | タイム差 | |
1 | 27 | ジェイ・ウィルソン | YAMAHA FACTORY INNOVATION TEAM | YZ450FM | 10 | 1:39.243 | |
2 | 6 | 大倉由揮 | Honda Dream Racing Bells | CRF450R | 10 | 1:40.042 | 3.296 |
3 | 8 | 内田篤基 | Yogibo MOUNTAIN RIDERS | KX450 | 10 | 1:39.849 | 4.387 |
4 | 5 | 小方 誠 | TEAM HAMMER | CRF450R | 10 | 1:40.523 | 5.908 |
5 | 4 | 大城魁之輔 | Honda Dream Racing Bells | CRF450R | 10 | 1:40.726 | 2.684 |
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(レース)
※写真はMotoAmerica Mission King of the Baggers ハーレーダビッドソン「ロードグライド」のワンメイクレース! ツーリング装備をサイドバッグに絞った仕様の“バガー”[…]
実は”ホンダエンジン”時代からの愛車だった マンセルがF1のパドックで乗っていたのは、ホンダのダックス70(CT70)でした。1988年モデルとも、1987モデルとも言われていますが、いずれにしろ当時[…]
イベントレース『鉄馬』に併せて開催 ゴールデンウィークの5月4日、火の国熊本のHSR九州サーキットコースに於いて、5度目の開催となる鉄フレームのイベントレース『2025 鉄馬with βTITANIU[…]
全日本、そしてMotoGPライダーとの違いとは 前回は鈴鹿8耐のお話をしましたが、先日、鈴鹿サーキットで行われた鈴鹿サンデーロードレース第1戦に顔を出してきました。このレースは、鈴鹿8耐の参戦権を懸け[…]
昨年の最終戦から連勝を続けた水野涼 2025年の全日本ロードレース選手権がようやく4月19日・20日に栃木県・モビリティリゾートもてぎで開幕しました。4月9日・10日には、PRE-TEST “Roun[…]
最新の関連記事(新型EV/電動バイク)
ひと目でEVとわかる先進的なスタイリング こちらが今回発表された「CUV e:」! Hondaはこれまで、EVバイクとしてパーソナル向けに原付一種の「EM1 e:」を市販化していますが、CUV e:は[…]
【本田技研工業 電動事業開発本部 二輪・パワープロダクツ電動事業開発統括部 CUV e: LPL(開発責任者) 後藤香織さん】2006年入社。以来一貫して2輪車開発に従事し、おもに車体設計としてEV-[…]
パワフルで坂道も得意、実用的な原付二種EV 2023年のジャパンモビリティショーでコンセプトモデル「SC e: Concept」として参考出品されていたものが車名を「CUV e:」と改め、2025年6[…]
高まるペット移動ニーズに応える革新的モビリティ ガソリン価格の高騰と50ccクラス原付の製造終了という時代の転換期において、経済的かつ環境に優しい移動手段への需要が急速に高まっている。その一方で、近年[…]
50ccクラスは16歳から取得可能な“原付免許”で運転できるほか、普通自動車免許でもOK バイクを運転するための免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大[…]
人気記事ランキング(全体)
ネットで注文できる1サイズ&1プライスガレージ。完成状態で運搬されてクレーンで据え置きされる サンデーメカニックなら誰もが知る工具ショップ・アストロプロダクツのホームページ上に「BIKE小屋」という商[…]
バイクライフを変えるスマートナビ「AIO-6シリーズ」 「AIO-6シリーズ」は、従来のバイク用ナビゲーションシステムが「道案内」や「車載モニター」に限定されていたのに対し、4G通信技術を搭載している[…]
昔の日本で大型輸入車に乗れるのは非常に限られた人だけ 現在の日本では様々な輸入車が当たり前のように走っているけど、昔は世界で1番厳しいとされた認証型式の取得や車検制度という高い壁があり、日本を走る外車[…]
完全に消える? それとも復活する? ホンダの名車CB400スーパーフォアが生産終了になって今年ではや3年目。入れ替わるようにカワサキから直列4気筒を搭載する「Ninja ZX-4R」が登場し、唯一無二[…]
バイクは性能だけじゃない。大胆に温故知新を貫いた 1馬力でも高く、0.1秒でも速く…。1980年代後半、そんな熱狂にライダーは身を焦がしていた。レースでの勝利を至上命題にしたレーサーレプリカが世に溢れ[…]
最新の投稿記事(全体)
ビモータの工房があるイタリアの都市「リミニ」をその名に冠する Ninja ZX-10RRのエンジンを搭載したビモータ製スーパーバイクが、ついに正式発表された。すでにスーパーバイク世界選手権を走っている[…]
【特集】バイク界の近未来を斬る! 時代を変えるべく、さまざまなテクノロジーや新モデルが発表されています。 しかし市販化をただじっと待っていられないっ! そこで国内4メーカーの最新潮流、さらに近未来につ[…]
スズキは、昨年のEICMAで世界初公開、大阪・東京・名古屋モーターサイクルショーで日本でも公開した新型モデル「DR-Z4S」および「DR-Z4SM」を見て、触って、跨ることができるイベント「スズキ モ[…]
LCDメーターがTFTにグレードアップ、外観も一新! リーニングマルチホイール=LMW採用の原付二種スクーターとして独自の地位を築いているヤマハの「トリシティ125」が欧州でマイナーチェンジ。最新YZ[…]
最後の250cc4気筒レプリカは、扱いやすい動力性能とハンドリング追求で究極を目指した! ホンダが1960年代に世界GPを制覇した原動力はマルチシリンダー(多気筒化)。125cc5気筒や250ccの6[…]
- 1
- 2