エンジンはなくならないし、我々がなくさないようにしていく
今年は、カワサキがEVを2車種リリースすると公言しているように、いよいよ本格的なEV時代が始まりそうだ。
不二雄さんの父親であるポップこと吉村秀雄さんが始めたエンジンチューニングを祖とするヨシムラとして、来るべきEV時代をどうとらえているのだろうか。
「エンジンはなくならないし、我々がなくさないようにしていかなければいけません。人間がお金を出して買いたいと思うものって、なにかしら五感に訴えるものがないといけないんだと思います。
人がなぜエンジンに魅かれるのかというと、エンジンは呼吸をしているからなんですね。圧縮して点火して、膨張してエネルギーに変える。そういう部分にロマンを感じるんだと思いますし、本能的に人とリンクするんでしょう。それがモーターに置き換わったら感動がなくなって、そういうものに人はお金を払うのかな? と思うところがあります」
最近、カーボンニュートラルに向けてBEV(バッテリーEV)一辺倒だったヨーロッパでも、BMWが水素エンジンも選択肢にするべきだと発言し始めている。
「『水素吸蔵合金』、水素をため込む金属というのがあって、それを使うとマイナス252.6度に冷やして水素を液体化する必要がなくなって、体積も1000分の1以下になるんだそうです。そうすれば、バイクに積む容量の問題も解決するかもしれない。そういうものがいろいろ出てくると、やっぱりエンジンがいいよねという話になると思います」
日本でも、国内4メーカーにトヨタとデンソーが加わった6社で水素エンジンの研究チームを作って試験車両を走らせているし、カワサキもH2のスーパーチャージドエンジンをベースとした水素エンジンを昨年のEICMAで公開した。水素を燃料としてエンジンを残そうという動きも活性化してきているのである。
「ウチは、基本的にエンジンをベースにビジネスを考えていきます。メーカーにしても、トヨタの豊田章男社長が言っているように、お客さんが選べるもの、お客さんの使い勝手に合ったものを用意する責任があると思いますね。
EVに関しても、実際に出てみなければ何ができるか分かりませんが、こうするともっと楽しめるようなもの、パーツができるなら、当然チャレンジしていきます。EVがスタンダードになるかどうか分かりませんが、新たなスタンダードが出てきたらそれをベースにスタートします。EVでモータースポーツをやろうという人も出てくるでしょうからね」
1950年代からポップ吉村が始めたエンジンチューニングはまさにいま端境期にある。
「オヤジの時代は、オヤジ自身が先駆者で、周りの人もそう見ていた。モータースポーツも新しいものだったから、みんなが興味を持って入ってきた。自分の時代はチューニングのノウハウもある程度確立して、解析技術も進んでいろいろ分かってきた。そして、これから先はEVだ、燃料が変わるなどで違う世界が待っていて、みんなゼロからのスタートラインに並んでるんだと思います」
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