高い技術を継承し、後世に伝えたい

ドレミコレクションが復元中の「三式戦闘機・飛燕」が鋲打式/安全祈願祭を開催!

カワサキZ系のカスタムやリプロダクトパーツで名高いドレミコレクションが手がけている、旧日本陸軍の戦闘機「飛燕」の復元プロジェクト。その無事成就を祈願する鋲打式、安全祈願祭が執り行われた。


●文と写真:伊藤康司

実物大模型を無事に作り上げるための鋲打式

カワサキZ系のカスタム/リプロパーツや、最近ではホンダCB400SF用のCBX外装キットで知られるドレミコレクションは現在、第二次大戦中に製造された旧日本陸軍の三式戦闘機「飛燕」の実物大展示模型の製作にも取り組んでいる。その鋲打式(びょううちしき)/安全祈願祭が2月23日に執り行われた。

この「鋲打式」とは、土木工事に例えると起工式に行う「鍬入れ(クワいれ)」のようなもの。木槌で鋲(びょう)をエイッ、エイッ、エイッ、と三回打つ仕草を行い、製作作業の安全や成就を祈願するのだ(本来は作業開始時の細かな部品の段階で行うが、今回は機体の形がわかるよう仮組みまで進めた状態で行った)。式には発注者であるドレミコレクション代表の武浩さんはもちろん、復元プロジェクトに関わる方々なども参列し、同じように鋲打ちの儀を行った。

令和5年2月23日、三式戦闘機「飛燕」の実物大展示模型製作業務の無事成就を祈願すべく、常盤神社の神官によって鋲打式、安全祈願祭が執り行われた。

飛燕には特別な想いがあった

復元プロジェクトの発端は、武さんがオリジナルの飛燕の機体を手に入れたことから始まった。航空機やミリタリーファンの間で話題になったが、2017年にインターネットオークションに出品されていた飛燕を武さんが落札したのだ。

その飛燕は戦時中にパプアニューギニアの島に不時着した機体で、1970年代に発見された。そしてジャングルから搬出するために胴体や主翼が切断され、オーストラリア人のコレクターが所有。そのコレクターが、戦時中の航空機などを研究する日本の研究家に購入を打診したことでインターネットオークションに出品されたのだ。

じつは武さんはドレミコレクションを開業するより前に、アメリカに訪れた際に偶然レストア中の飛燕を目にした。その素晴らしさに感動し、自分も古いものを伝えるような仕事をしたいと考え、それがドレミコレクション起業のきっかけになったのだという。だからこそ、ネットオークションで飛燕を見つけた瞬間に「自分の原点はこれだ!」と、考える間もなく入札のボタンをクリックしたとのこと。

ちなみに落札価格は1500万円だったが、現在までに飛燕に費やした金額はそれを大きく上回り、もはや計り知れない額になっているという。しかし武さんとドレミコレクションにはそこまでしても飛燕を復元させたいという目的があり、使命にも近い想いでこの作業に挑んでいる。

ドレミコレクション代表の武浩さん。2017年にインターネットオークションに出品された飛燕を落札。当初はこの機体を修復する予定だったが、それに掛かる時間を考慮し、オリジナルは手を入れずに保管することにして実物大レプリカの制作に踏み切った。

飛燕とは?

川﨑 三式戦闘機 キ61 飛燕(ひえん)
第二次世界大戦時に川﨑航空機(現在の川﨑重工業航空宇宙システムカンパニーの前身)が開発・製造した戦闘機で、旧日本陸軍が1943年に制式採用。航空機は空冷式エンジンが主流だった当時、ドイツの液冷式エンジンを国産化し、日本で唯一の液冷式エンジンを搭載、過給器(=スーパーチャージャー)も備えた戦闘機だった。

当初はオリジナル機体を復元しようと思ったが……

インターネットオークションで落札した機体は、2017年の11月に岡山県のドレミコレクションの倉庫に到着。切断され、胴体と主翼の一部は失われ、ジュラルミンの外板も相応に腐食が進んだ状態。それでも当初、武さんはこのオリジナルの機体を修復しようと考えた(飛燕入庫時の状況はこちら)。しかし……。

「戦時中に飛燕を作っていた方や、そのご家族など関係者の方々が、10人以上も岡山まで見に来られたんです。皆さん95歳以上です。そして、『(戦争に負けたので)飛燕の制作に携わっていたことを家族にも話せずに過ごしてきた』などのお話をたくさん語って頂き、皆さんが涙を浮かべて『ありがとう』といってくれたんです」と武さん。

「そして98歳のおばあちゃんが『完成するまで死ねないね~』って笑って言うんです。偽善者っぽいですけど、こんな自分でもおじいちゃんおばあちゃんに貢献できるんだなって思った。でも、オリジナルの機体を修復するには20年くらいかかってしまう。そこで広洋社さん、日本立体さんに力を貸して頂き、実物大のレプリカを作ることにしたんです」。こうして復元プロジェクトが始まった。

計器や照準器、操縦桿などは、可能な限り当時の部品を集めて製作している。

岡山で保管しているオリジナル飛燕の機体から取った詳細なデータを元に新品の機体を作り上げていく。

すべて齊藤さんの手作業で、薄い鋼板やアルミ板を溶接や叩き出して緻密に製作。

製作を請け負う日本立体の代表、齊藤裕行さん。これまでも博物館などに展示するゼロ戦や紫電改などの実物大レプリカを手掛けてきた。

日本の礎となった技術を後世に伝えたい

今回の鋲打式のために仮組みされているが、日本立体の齊藤さんによると作業の進捗はおおむね50%ほど。今年の5月末くらいを完成目標に、細部の修正や仕上げなども行っていくという。

「最初はここまでやろうなんて考えていませんでした、お金もかかりますしね。だけど、大戦中にアジアで唯一航空機を作って、戦争には使われてしまったけれど、その技術を継承してきたから今の日本があると思うんです。それをリアルに生きている間に継承していけたら良いかなと。かつて航空機に携わった方たちや、いまバイク好きや飛行機好きの方がこの飛燕を見て元気になって頂けたら、それだけで僕のご褒美になるので(武さん)」

飛燕は完成後にドレミコレクションのある岡山に運び、オリジナルの機体と共に展示する予定だ。そのため武さんは、すでに岡山に展示館用の広い土地も用意済み。奇しくもこの鋲打式とほぼ同時期に、滋賀県の工事現場で地中に埋まっていた飛燕のエンジンが発見されるなどのニュースもあり、復元された飛燕が展示されれば大きな話題を集めそうだ。

「先人たちの技術や努力が飛燕を通じて継承して行けたら」と語る武さん。

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