‘80s国産名車 ヤマハFZ750 完調メンテナンス【消耗部品はそれなりに揃うが、状況は厳しい】

ヤマハFZ750

今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は「ヤマハFZ750」について、メンテナンス上のポイントを明らかにする。


●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●取材協力:クロスロード

【取材協力:クロスロード】’85年に創業したクロスロードは、もともとは2輪用品店だったものの、今から15年ほど前にFZ750専門店にスイッチ。代表の山田將人さんが自分自身のために補修用パーツを集めていたら、いつの間にか膨大な数になり、さらには数多くの車両が持ち込まれるようになったため、専門店としての活動を決意したと言う。 ■兵庫県三木市細川町西字東山650-8 ●TEL:0794-86-2635

基本的に丈夫なバイクだが真夏の渋滞は避けるべき

ネットでFZ750の問題点を検索すると、かなりの数がヒットするのはスタータークラッチの滑りで、それに続くのは、クラッチレリーズシリンダーからのフルード漏れ/ガソリンタンク内の錆/キャブレター/燃料ポンプ/センサー/点火系の不良など。

「まあでも、生産年を考えれば、整備履歴が不明の車両でそういったトラブルが起こるのは、止むを得ないことでしょう。ただしスタータークラッチに関しては、一般的なエンジンとは異なり、FZ系の場合はクランクケースを分解しないとたどり着けない構造なので、修理にはかなりの手間がかかります。だから費用対効果を考慮して、エンジンをFZR1000に載せ換える人が少なくないのですが、750には750ならではの魅力があるので、ウチでは積極的な推奨はしていません」

クロスロードの山田さんによれば、革新的な技術だった5バルブヘッドやダウンドラフト吸気に関するトラブルは、まったくと言っていいほどないそうだ。

「日本市場では評価が定まる前に販売が終了しましたが、FZ750は丈夫なバイクと言っていいと思いますよ。ウチできちんと手を入れた車両なら、以後のメンテナンスは基本的にオイル交換だけでOKですから。もっとも、’80年代中盤とは状況が大きく異なる現代の道路事情を考えると、ラジエター容量は十分とは言えないし、エンジンの熱を受けたキャブレターがパーコレーションを起こすことがあるので、夏場の渋滞は避けたほうがいいでしょう」

ヤマハFZ750 メンテナンスポイント

シリンダーヘッド:独創的な5バルブにトラブルはなし

量産車初のDOHC5バルブを採用したシリンダーヘッド(吸気バルブの角度は、左右が17.25度で、中央は11度)を含めて、エンジンの主要部品はかなり丈夫。もっともオイル管理をきちんと行っていない個体の場合は、カムシャフトやクランクメタルなどにダメージが出ると言う。

キャブレーター&フューエルポンプ:完全分解で本来の資質を取り戻す

キャブレターにガソリンを圧送する電磁ポンプは外付け式で、ユニットはシート下右側に備わっている。この部品やリレーの故障で、調子を崩している個体も少なくないそうだ。

同店がキャブレターのOHを行う場合は、トップカバーとフロートチャンバーを外してジェットや通路の掃除を行うだけではなく、ボディを完全分解。インシュレーターの交換頻度も高い。

ダウンドラフトタイプの負圧式キャブレターはミクニBS34。スライドピストンは終売になっているが、その他の消耗部品の大半は現在でも入手することが可能。

スタータークラッチ:ケース内だから修理は大変

FZ750の数少ない弱点が、クランクケース内に収まるスタータークラッチ。と言っても、滑るのはある程度以上の距離を走ってからなので、弱点は言い過ぎかも。FZR1000では対策品が導入されたが、それでも万全ではない模様。

クラッチリリース:ピストンの錆びがシールを攻撃する

エンジン左側に備わる油圧クラッチのレリーズシリンダーは、整備不良によってピストンが錆びやすく、その錆びがシールを攻撃し、フルード漏れにつながる。FZ750用はASSY交換が前提だが、他機種用でシール単品が購入できる。

エキゾーストシステム:出力特性の改善と軽量化を実現

’86年のデイトナ200を制したエディ・ローソンのレーサーを規範とする同店のオリジナルマフラーは、出力特性改善と軽量化に貢献。パイプの素材はステンレスで、サイレンサーはカーボンとチタンの2種を準備。価格は19万8000円。

エンジンオイル:入念なテストを経てシェルの鉱物油を推奨

これまでにさまざまなエンジンオイルをテストして来たクロスロードは、現在はシェルアドバンスが販売する鉱物油のAX-5を使用している。粘度は10W-40。交換サイクルは現代のバイクと同様に、3000kmまたは半年ごと。

ラジエーター:放置期間が長いと腐食や錆びが発生する

現代の交通状況だと、冷却性能はギリギリなので、同店ではラジエターの大容量化(写真はSTD)やオイルクーラーの増設を検討中。なお放置期間が長かった車両は、冷却系パーツに腐食や錆が発生している可能性がある。

リヤショック:ハンドリングと乗り心地の要

十中八九の確率でヘタッているリヤショックはアフターマーケットパーツに交換するのが定番で、同店の一番人気はオーリンズ。ただし、チェーン式のリモートプリロードアジャスターを備える、純正のオーバーホールを希望する人もいるそうだ。

リヤサスペンションリンク:内部のベアリングとシャフトの状況に注意

リヤサスペンションのリンクは、内部のニードルベアリングが劣化しているだけではなく、フレームとアームを結ぶボルトが曲がっているケースが多いと言う。耐久性を高める手段として、現在の同店ではクロモリ製シャフトをテスト中。

ブレーキキャリパーサポート:ブレンボ用サポートをワンオフ

純正ディスク+フォークの使用を前提にして、同店がワンオフ製作したブレンボ前後キャリパー用サポート。もっとも制動力の向上を望む場合は、足まわり一式をFZR750やFZR1000用に交換したほうが手っ取り早い…という説もある。

タイヤ:純正と同じサイズのラジアルは存在しない

日本仕様の純正サイズ、F=120/80R16/R=130/80R18のラジアルが現在は存在しないため、タイヤは自ずとバイアスになる。同店の定番はK300GPだが、同じダンロップのGT601やブリヂストンBT-46にも適合サイズが存在。

メインハーネス:純正は終売だがリプロ品を計画中

電装系の要となるメインハーネスは、すでに終売。ただし現在の同店では、弱点の対策と各部の強化を図ったリプロ品の販売を検討中。なお発電系部品に関しては、純正の補修に加えて、他のヤマハ車から流用という選択肢がある。

スパークユニット:コンデンサーのパンクが不調の原因

点火系の不調は、イグナイター内部に備わるコンデンサーのパンクが原因というケースが多い。そういう事態に直面した場合は、現代のアフターマーケット製に交換するのが一般的だが、クロスロードでは分解して補修を行う。

イグニッションコイル:経年変化によってボディに亀裂が入る

フレームのヘッドパイプ後部に設置された点火用のイグニッションコイルは、経年変化でボディに亀裂が入り、リークを起こすことがある。アフターマーケット製で代用はできるものの、クロスロードではヤマハ純正を推奨している。

スパークプラグキャップ:耐久性や防水性なら純正部品がベスト

イグニッションコイルと同じ話になってしまうけれど、スパークプラグキャップに関しても、同店は耐久性と防水性に優れる純正を推奨。社外品は水分の侵入でスパークプラグが錆びやすく、リークの可能性も高いという。

クロスロード オリジナルパーツ:消耗部品はそれなりに揃うが、状況は厳しい

海外仕様が’94年、兄弟車のFZXが’00年まで販売されていたのだから、維持は難しくないはず…と思いきや、山田さんによると、FZ750の純正部品の供給状況はかなり厳しいと言う。

「ガスケットやOリングといった消耗部品はある程度出ますが、それ以外は終売だらけで、アフターマーケットのリプロ品も決して多くはありません。ウチの場合はストックで対応できますが、今の時点で白紙の状態からこのバイクと付き合うのは、なかなか大変だと思いますよ」

【独自のピストンを開発中】写真の純正ピストンは終売。アフターマーケットにはボアアップ用が存在するものの、現在の同店は日本生産の鍛造品として、純正のリングとピンが活かせるスタンダードサイズを開発中。

【当時のRCスゴウ製を復刻】現役時代にRCスゴウが販売した製品の復刻品を、同店はEddieレーシングステップと命名。素材は2017で、ピボット部にはDUメタルを圧入。ブレーキスイッチ付きで、8万2500円。

【カーボン素材で純正の姿を再現】同店製アンダーカウルは、カーボン素材で純正のスタイルを忠実に再現。フルキットは4万9500/5万9400円。純正マフラー用と同店製マフラー用が存在し、日本と海外仕様の両方に対応。

【ロゴ入りのグリップカバー】メンテナンス時に重宝するクロスロードオリジナルの合成皮革製グリップカバーは、マニア心をくすぐるFZのロゴ入り。左右セットで3850円。中央はオーナーズクラブ用として製作。


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