
ついに地上に舞い降りたシン・ハヤブサ。すべてを刷新したスタイリングと、継承されたエンジン&シャーシ。変わるべきものと守るべきものを見極めた正常進化が、ライダーの心に訴える。だからこそ気になる新旧ハヤブサの違いを、心ゆくまでご覧あれ!
●文:伊藤康司 ●写真:山内潤也
ひと目でハヤブサと解る、鋭さを増した最新フォルム
スズキのグローバルチャンネルで1月28日に公開され「オールニューモデル、まもなく登場」と銘打ったティーザー映像。一瞬で走り過ぎるシルエットは、バイク好きなら誰もが「コレはハヤブサだ!」と感じ、2月5日の正式発表で、その予感が的中したことを知る。それほど新型ハヤブサは“ハヤブサらしいデザイン”が成される。
……が、もちろんデザインは全面刷新。前モデルの有機的なフォルムに比べ、“線と面”を巧みに組み合わせた構成は、イメージを共有しながらも極めて現代的だ。たとえばスズキならではの縦型のヘッドライトも多灯LEDとなり、左右分割のテールライトと合わせて、スーパーカーを彷彿させる“新しさ”を醸す。さらに吊り下げ式のミラーや、テールライト下に備わるディフューザー状のパーツもスーパースポーツカー的な意匠だ。
また、カウル側面のメッキのモールも、ハヤブサの新たなアイデンティティとして確立しているが、そもそもメッキパーツはクルーザーやレトロ系の十八番であり、スポーツ系にはそぐわなかったハズ。しかし、フラッグシップとしての存在感や所有感を、そんな最新トレンドを投入することで結実させたのは見事としか言いようがない。
ちなみにフレーム形状やステップ位置が前モデルと同一なのにもかかわらず、ライディングステップはステー部からラバー、ペダルやヒールガードなど、すべて新規パーツに変わっている。こういった細部への注力も、旗艦たるバイクを欲するユーザーの心に、強く訴えかけるのではないだろうか。
【バトンは渡された!】ひと目でハヤブサと解るのに、鮮度に満ちたデザイン。究極マシンなのに、敢えて変えなかったエンジンとシャーシ。無限の期待を背負い、シン・ハヤブサ、発進!
新旧ハヤブサ徹底比較〈スタイリング&ライディングポジション〉
【力と空気の流れを体現するデザイン】新型のデザインアイコンであるサイドのメッキモールは、空力にも大きく影響するため、風洞実験を重ねて何度も修正。サイドカバーの“V字”は隼の首の羽根をイメージしている。
【独自性を崩さず、直球でアップデート】マシン前方に凝縮感を持たせたマスフォワードなデザインは、有機的な前モデルより直線的な造形を取り入れながらもひと目でハヤブサと解る。そのカタチが即座に高性能をイメージさせる稀有な存在。
【じつは“細マッチョ”】フロントカウルのサイドをレイヤー構造として、ライダーの足元の防風性を高めている。前モデルと比較すると意外とふくよかに見えるが、CdA値は同様という。
【大気を切り裂く精悍なマスク】縦型ヘッドライトとウインカー一体のエアインテークのレイアウトは前モデルを踏襲しながらシャープな意匠に一新。差し色の別パーツとインテークに下部に刻んだV字スリットも鋭さを強調。
新型にまたがった印象は旧型と大差なく、足着き性の良さにホッとする。ニーグリップエリアのフィット感もほぼ同様だ。[175cm 62kg]
2代目の特徴は、抜群の足着き性の良さと、それとは対照的にやや遠めのハンドル位置。上半身の前傾度まで初代のイメージを踏襲。[175cm 62kg]
新旧ハヤブサ徹底比較〈エンジン&シャーシ〉
乗り味や雰囲気を大切にするトラッドスポーツはともかく、メーカー自らも”アルティメット・スポーツ”と呼ぶ究極バイクが、エンジンやフレームの基本構成を22年も変えず、さらに継承することなど、普通はあり得ない。
しかしスズキは決断した。10年もの開発期間において、エンジンは排気量拡大やターボ装着、果ては6気筒まで試し、当然ながら搭載エンジンに合わせた別形状のフレームも製作したという。それでも初代ハヤブサからからのレイアウトを選択したのは、単純に”素性の良さ/基本性能の高さ”が存在したからだけではないだろう。
開発に携わったエンジン設計者は「長いこと乗ってください。10万キロ、20万キロ、なんなら50万キロ」と語る。そのため、ボルト1本、Oリング1本まで徹底的に見直して、絶対的な耐久性を磨き上げたのだ。
「2代目よりスペックが劣る」と揶揄する声もあるが、厳しい排出ガス規制のユーロ5をクリアしつつ、基本設計が同一で排気量も上げずに、わずかな減少に留めたのは、むしろ驚異と捉えるべきだ。しかも中速域のトルクやパワーの伸びは格段に向上し、発進加速や総合性能がアップしている。
その強心臓を抱くフレームとスイングアームも2代目を継続し、前後サスも先代を踏襲するが、エンジン特性や最新タイヤに合わせて内部改良し、ブレーキもアップデートされる。新型ハヤブサは”変わること”を目的としない、正常進化の最適解だと言える。
【新型エンジンは内部パーツをほとんど刷新】しかしながら新ハヤブサでは、ピストン/コンロッド/クランクシャフト/トランスミッション等の主要部品をはじめ、内部パーツのほとんどを刷新(カットモデルの黄色の部分)。ボルト1本/Oリング1個に至るまで、徹底的に見直して耐久性を追求した。
【中速域を増強し総合性能を向上】馬力/トルクともにピークこそ2代目からわずかに減少したが、中速域のトルク増強やパワーの伸びは圧倒的に向上。0-200mや0-100km/hの発進加速は2代目を上回り、6000rpmまでのスピードは他のどのバイクより勝る。
【新型:素性が良いから継承できる名作フレーム】メインフレームは98年の初代から継承され、スイングアームは10%剛性を高めた2代目を踏襲。シートレールは車体デザインに合わせて直線的な形状に変更して700g軽量化。
【2代目:299km/hを支えるツインスパー】鋳造材と押し出し材(スーパーカーも採用する展伸材)を組み合わせたアルミツインスパーフレーム。スイングアームピボット部からシート側に立ち上がる造形などは、はもはやハヤブサを形作るデザイン要素のひとつ。
【フロントまわりはバージョンアップで制動力を強化】キャリパーは前モデルもラジアルマウントのブレンボ4POTを装備したが、新型は高剛性でコンパクトなスティルマにバージョンアップし、ディスクローターをφ310→320mmに大径化。KYBのφ43mm倒立フォークは内部設定を変更している。
【リヤショックも内部変更で操安向上】KYB製リヤショックは内部を変更。リヤの1POTキャリパーは前モデルのトキコ製からニッシン製に変更され、φ260mmのディスクは踏襲。前後ホイールは新デザインの7本スポークでタイヤはBSのS22を履く。
新旧ハヤブサ徹底比較〈主要装備〉
【明るく照射範囲が広いフルLEDヘッドライト】ロービームで上段(新型はLED4灯)が点灯し、ハイビームでは合わせて下段のプロジェクターが点灯するパターンは新旧共通。新型はインテーク横のウインカーがDRLを兼ね、白色に点灯しているが、ウインカーやハザード作動時はDRLが消灯して橙色のターンシグナルが点滅する。
【斬新なスーパーカー風テール】テールライトは縦型から左右分割の横型へ。多灯LEDによるウインカー内蔵のコンビネーションライトは最新スーパーカー風。ライト下部には、やはりスポーツカーのリヤディフューザーを彷彿させるパーツが装着される。
【新型のハンドルは3分割】ハンドルはライダー側に12mm引き、ポジションの自由度をアップ。従来モデルは一体型で、上面からトップブリッジに固定していたが新型は3分割で裏側から固定する方式に変更。
【電子制御満載だが使いやすいスイッチ配置】前モデルの左スイッチは極めてシンプル。新型は各種電制のセレクトボタンを装備。新型の右スイッチはクルーズコントロールを装備し、ライドバイワイヤのためワイヤーケーブルがない。
【GPタイプの穴あきレバー】新型はマスターをラジアル化し、レバーは高速時に風圧で押されるのを抑制する穴あきタイプで、レバーアジャストが5→6段に増加。クラッチマスターは横押しだが、デザインをブレーキと共通化し、レバーも同様に穴あきタイプに。
【5連メーターは健在!】敢えてアナログ式を踏襲し、スピード/タコメーターはLEDで光るスケールマーキングを追加。中央のカラーTFTは、画面は角型だが従来モデルをイメージさせる円型の表示レイアウトが秀逸。走行モードや各種デバイスを表示するSDMS画面と、ブレーキ圧やバンク角などを表示するACTIVE DATE画面に切り替え可能。
【燃料タンクは2分割デザイン】燃料タンクは前部のエアボックス部を別パーツのカバーとした2分割のデザインに変更。エアボックスが10.3→11.5Lに拡大した分、燃料タンク容量は1L減少し20Lに。
【新デザインのラバー】ステップの位置は前モデルと同じだが、チェンジペダルの軸位置が変わり、リンクシャフトにクイックシフトのスイッチを装備。ブレーキペダルのセレーションのデザインも変わっている。
【キチンと座れるタンデムシート】厚みのあるタンデムシートは、テールカウル形状に合わせて座面が前モデルの四角から三角に変わった。グラブバーは人間工学に基づいて握りやすさを増した新形状に変更している。
【新型はシート下が狭い!?】新型は車載工具をタンデムシート裏面とETC車載器の脇に直接収納(工具の種類は前モデルの方が豊富)。ヘルメットホルダーのフックは、前モデルは車体側で新型はシート裏側に装備。
【タンデムステップ&荷掛けフック】ライダー側ステップと同様に、ラバーのデザインを変更(サイドカバーやインテークの“V字型アクセント”と共通)。ステー形状も変わっているが、荷掛けフックは健在だ。
新旧ハヤブサ徹底比較〈主要諸元〉
※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
長らく加速キングに君臨。あの初代より0.5秒速かった2代目 '01年の300km/h速度リミッター自主規制に伴い、雌雄を決するバトルは最高速に代わって0→400mの加速タイムを競うゼロヨン対決へと移行[…]
再録・2代目ハヤブサ vs ライバルZZR1400(YM'07年12月号より) ※以降の記事内容は、『ヤングマシン』本誌’07年12月号掲載記事を元に再構成されたものです。表現は基本的に掲載当時のまま[…]
['08] +41ccで197psに到達。使い勝手と外観も熟成 '99年にデビューしたスズキ ハヤブサは、'08年に全面変更を受けて第2世代へ進化。エンジンは初代をベースに1299cc→1340ccへ[…]
再録・初代ハヤブサ vs ライバルZX-12R:アウトバーンで速度無制限バトル(YM'00年5月号より) ※以降の記事内容は『ヤングマシン』本誌'00年5月号掲載記事を元に再構成されています。表現は基[…]
初代ハヤブサは、下馬評を一蹴する、まさに常識を覆したマシンだった 排気量が1300ccもあるとかなりゴリゴリして、そこまで高回転域を回せないんじゃないか、車重も重すぎるのではないか? といったところが[…]
最新の記事
- 「カワサキ初のレーサーレプリカ」ライムグリーンカラーを導入した初の大排気量車:カワサキZ1000R【あの素晴らしい名車をもう一度】
- 変化を一気見! カワサキ「Z900RS」歴代カラー大図鑑【2018~2025年モデル】
- 2025MotoGPヘルメット勢力図は5社がトップを分け合う戦国時代へ突入! 日本の3メーカーに躍進の予感!?
- 【SCOOP!】スズキ「GSX-8」系にネオクラが存在か!? 丸目のGS&クーリーレプリカ復活希望!!
- 「初の100ps超え!! 」全面改革で進化した第二世代のZ:カワサキZ1000J【あの素晴らしい名車をもう一度】
- 1
- 2