1924年(大正13年)に創業した目黒製作所。そのブランド名「メグロ」が令和に復活したのは周知の通りだ。ベース車両に選ばれたのはWの末裔=W800。’65年製のカワサキ500メグロK2と比較検証し、この名車の後継「K3」を名乗るのにふさわしいのか、試乗経験豊富な丸山浩がガチでジャッジする。まずはメグロとカワサキを巡る数奇なヒストリーから始めよう。
●文:中村友彦
カワサキ稀代の名機もメグロあればこそ? K2とW1を抜きにしてZ系の成功は語れない
1960年に登場した「メグロ スタミナK1」は、1920年代に活動を開始した名門メグロにとって最後の大排気量車で、その後継に当たる’65年型「K2」は、メグロを吸収したカワサキが初めて手がけた4ストビッグバイクである。
ただしこの2台、そしてK2の大幅発展仕様と言うべき’66年以降の「W1」シリーズも含め、これらを2輪の歴史に残る名車と呼ぶかどうかは、人によって判断が異なるかもしれない。と言うのも、まずK1はイギリスのBSAが’46〜’62年に販売した「A7」の影響を多分に感じる構成だった。もちろん単純な模倣ではなく、随所にメグロ独自の技術が投入されていたのだが、K1の規範がA7であることに異論を唱える人はいないだろう。
そしてK2とW1について言えば、興味深いのはそれぞれ約1年という実質的な開発期間の短さ。その背景にあったのは、「K2=東京オリンピック用の白バイとして警視庁に納入したい」「W1=北米市場進出の足がかりにしたい」という営業サイドの要求だった。当時のカワサキの技術陣は、OHCヘッドの採用やエンジンとミッションの一体化、潤滑方式のドライからウェットサンプ化などを検討していたものの、約1年でそれらの実現は難しく、結果的にK2とW1は、既存のモデルの大改良という手法を選択せざるを得なかったのである。
そういった経緯で生まれたモデルであっても、K1/K2/W1は、以後のカワサキの躍進に多大な貢献をしていると言える。まず車体に関して言うなら、’60年代前半まではプレスフレームしか経験がなかったカワサキが、以後のマッハシリーズやZ1で、ライバル勢と遜色のないダブルクレードル式のパイプフレームを生産できたのは、K2の開発時にメグロから移籍して来た技術者のおかげである。
そしてエンジンに関する重要な要素は、後にZ1を生み出すカワサキの開発者・稲村暁一氏が、K2とW1の改良作業を担当したこと。旧態然としたバーチカルツインを改良するにあたり、問題点の解消に尽力した稲村氏は、その経験をベースにZ1で2輪用エンジンの理想を徹底追求したのだ。
また、興味深いのがクランクまわりの構成。抜群の耐久性を誇るZ1のクランクシャフトがボール/ローラーベアリング支持の組み立て式で、コンロッド大端にニードルベアリングを配したことは有名だが、その構成はW1が原点なのである。ちなみにK1とK2のクランクはA7と同様の一体鍛造で、支持方式は、K1=ローラーベアリング+ブッシュ、K2=ローラーベアリング+ボールベアリング、コンロッド大端はいずれもメタル支持だった。
そのあたりを考えると、’60年代に生まれたK1/K2/W1は、以後のZ1を筆頭とするカワサキビッグバイクの基盤を作ったモデルで、同社の歴史を語るうえで欠かせない存在と言えるだろう。
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