衝撃のヤマハ セロー250生産終了の報を受け、はや1年半。刻一刻と新車で購入できる台数が減りゆく中、オフロードマシン総合誌『ゴー・ライド』編集部はセローの進化とその走りの真髄を追求すべく、旧型セロー225Wを愛車とするパリダカライダー・堀田修氏に新旧セローの比較試乗をしてもらい、その乗り味や特徴など違いを聞いた。そこから見えてきた真なる”セローらしさ”をみなさんにお伝えするゾ!!
セロー225Wとの出会い&その楽しみ方
堀田修氏(以下堀田):実はこのセロー225W、購入したわけではなく兄の妻から譲り受けたものなんです。だから最初は特に思い入れがあったわけではないんですよ(笑)。でも、せっかくセローに乗っているんだからと、林道に行ってみたんです。そうしたら、良かったんですよ(笑)。
転ぶ気がまったくしない足着き性と扱いやすさ
堀田:セロー225Wの良かった点はやっぱり足着き性ですね。それと車体のコンパクトと軽さ。ワダチやギャップで振られてもすぐに足を着けるし、エンジンも低速トルクがあって扱いやすい。転ける気がまったくしませんでしたね。
当時は同じヤマハのTT250Rレイドに乗っていたのですが、セローは”小柄な人や女性が乗るマシン”というイメージでした。だから、身長171cmの僕があえて乗るマシンではないな、なんて思っていたのですが、ダートで乗ってみるとすごく良かった。これが”2輪2足”の安心感なのかって痛感しました。
セロー225Wに思う”セローらしさ”
“セローらしさ”とは、もちろん足着き性もあるのですが、車体のコンパクトさと扱いやすいエンジン特性とのバランスの良さ、という感じですね。それを評して”トレッキング性能”とか”マウンテントレールマシン”なんて呼んでいるんだと、僕は思っています。
セロー250ファイナルエディションに試乗
’93セロー225Wで林道走行を楽しむ堀田氏に、’20セロー250ファイナルエディションでダートライディングしてもらった。
乗り味もパワー特性もスムーズ。ひと回り大きくシート高も高いが、足着き性は変わらず良好
堀田:2台を同時に見比べると、250の車体はひと回り大きいですね。エンジン単体も大きい。シート高も20mm高くなっています。ただ、またがってみると、車体の大きさと足着き性の差はそれほど気にならないですね。
それほど気にならなかったのは、エンジンとサスペンションのバランスがいいからなんです。250に排気量アップしているので、低速トルクはしっかり出ているのですが、それはアクセルを開けた瞬間にドンっという感じでは出てこない。むしろ低回転から高回転までスムーズに吹け上がって、225よりもギクシャク感が減っていますね。
そのエンジン回転の上昇とサスペンションのストローク感がマッチしているので、マシン全体の動きもとてもスムーズ。どの回転域でもストレスなくマシンコントロールができるから、車体を軽く感じられます。
アクセルの開け始めは225に軍配。スムーズさは250
堀田:キャブレターのセッティングもあると思いますが、極低回転では225の方がドンと出ているように感じます。ただ、そこからアクセルを開けていった時のスムーズさは250ですね。排ガス規制で触媒が装着されましたが、’18年のマイナーチェンジでO2センサーを装備するなどインジェクションの制御がより緻密になり、各ギヤのつながりは明らかに良くなっています。だから街乗りはもちろん、高速道路も快適に走れます。僕の225は80km/h巡行で精一杯ですが、250なら100km/h巡行もイケますから。セローで快適な高速巡航ができるなんて、進化を感じますよね。
トレッキング性能は軽さとコンパクトさ以外は250が優れる
堀田:スタックした時の押し引きについては、225の車体の軽さはやっぱりいいですね。シート高の差は20mmですが、体の小さいライダーには足着き性の差として感じられると思います。とくに250の燃料タンクは容量が大きくなっていることもあって、林道でのUターンといった取り回しで大きさを感じました。そうしたゆっくり歩くような速度域では225はいいなと思いました。
ただ、それ以外については250が良かったです。先ほども言いましたが、前後サスペンションの仕上がりが抜群です。極低速からスムーズにストロークしてくれるので、前後輪を路面にグリップさせやすいんです。それでいて、ちょっとしたギャップでジャンプしても、着地の衝撃を吸収してくれます。林道でちょっとペースを上げて走ってもしっかりと踏ん張ってくれるので、225よりも断然安心感がありましたよ。
僕の225の経年変化を差し引いても、サスペンションの性能はかなり向上しています。そして、このサスと扱いやすいエンジン特性とのバランスの良さ。ここに27年の進化の差を感じましたよ。
ほかに気になったのは燃費ですね。ぼくの225は20km/L行けばいいぐらいです。レギュレターやバッテリーを交換したりなど、メンテナンスは小まめに行なっているのですが、エンジン内部やサスペンションなどのフリクション(抵抗)は経年劣化もあって増えています。それが燃費悪化の原因になっていますね。それから欠品パーツも増えているので、コンディションを維持するのも今後はさらに厳しくなっていくでしょう。
“軽い”という225の良さは確かに魅力なのですが、それ以上のメリットを250は持っていますからね。今はトレールマシンのラインナップが減ってしまいましたが、こうした誰もが扱いやすさを感じられるモデルがなくなってしまうのは、本当に残念です。次期セローの登場は未定ということですから、セロー250の新車購入を考えている人は、急いだ方がいいでしょうね。買えない僕は後悔しそうだなぁ(苦笑)。
堀田氏にとってのセローは”ダートで遊びたいなら買っておきたいマシン”
2台を比較試乗して250にもちゃんと”セローらしさ”が受け継がれていることを確認した今回の新旧比較試乗。最後に堀田さんの2台のお気に入りポイントを聞いてみた。
堀田:セロー250は、排ガス規制をクリアするための触媒などが装着されているにも関わらず、低回転でエンストせずに粘り、高回転までストレスのない吹け上がりを実現しています。それは緻密に制御されたインジェクションのおかげだと思います。アクセルに対するレスポンスも急すぎず、かといってダルすぎないので、ギクシャクしないスムーズな乗り味を実現しています。
一方、セロー225が発売された当時、電子制御デバイスは搭載されておらず、物理的な軽量化や軽快な乗り味を実現するセッティングが施されていました。そうした中でもスリムな燃料タンクはボディアクションもしやすく、取り回しやすさにもなっているのでいいですね。
パーツ比較で見るセローの伝承と進化
新旧セローで受け継がれたコンセプトと進化したパーツを、各部を比較することで見ていこう。
エンジン
排気量の差はボアの拡大で行なっている。20psという最高出力に違いはないが、高速巡航時は250のほうが圧倒的に余裕がある。225はマスを集中化したコンパクトさが際立つ。
ヘッドライト&ハンドルスタンディング
225のヘッドライトはこのモデルから60/55Wに大容量化。250はW数は変わらずφ100mmのレンズを採用。ハンドルスタンディングはロープをかけやすいよう山形に形状変更された。
リヤのハンドルスタンディング
パッセンジャー用のグリップを兼ねたハンドルスタンディングは継承されている。スタック時の押し引きや牽引ロープのフックとしても使えるマウンテントレールらしい装備でもある。
ハンドル切れ角
新旧セローともにハンドル切れ角はトライアルマシン並みの左右51度を確保。小回りのよさを実現し、狭い林道でのUターンのしやすさにもなっている。セローの走破性向上に貢献している。
フロントサスペンション
フロントは新旧ともに正立フォークを採用。ストローク量も225mmで同一。ただし「250のほうが作動性がよく、ギャップでもしっかり踏ん張る。大きく進化しています」と堀田さん。
リヤサスペンション
この年式の225は別体式リザーバータンクを装備し、ストローク量は190mm。250はアルミ製シリンダーのボトムリンク式でストローク量は180mm。それでも「作動性は250がいい」という。
足着き性
セロー225のシート高は810mmで、セロー250のシート高は830mm。ライダーの身長は171cmで、足着き性はどちらも良好だ。セロー250で両足を着いた際に、カカトが少し浮く。シート高が高くなったのは、ツーリング時の疲労を軽減するためにクッションの厚みを増したためだという。
セロー250をトレッキングに特化して使うなら、アフターパーツとして販売されているローシートに変更するという方法もある。
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