●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 YM ARCHIVES ●取材協力:モリヤマエンジニアリング
Z1の系譜を継承した第二世代の並列4気筒車・GPZ900R。その走りを末永く楽しんでいくには、何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろう。今回はGPZ900Rに詳しいモリヤマエンジニアリング・森山光明氏に、その弱点と対策、部品等の供給情報について尋ねた。
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エンジンに関する問題はGPZに限った話ではない
抜群の耐久性を誇ると言われた空冷Z系と比較すると、カムシャフトとロッカーアームのかじり、カムチェーン/スターターチェーンのテンショナー不良、冷却系関連パーツのサビと腐食など、意外に弱点が多い気がするGPZ900R。とはいえ、モリヤマエンジニアリング・森山光明氏によると、それらは固有の弱点ではないと言う。
「ロッカーアームとカムのかじりは、同じ時代に生まれたVFやGSXなどにも言えることですし、チェーンテンショナーに問題がある車両は、’90年代以降も少なくないですからね。冷却系もGPZ900Rに限らずで、最近のバイクでも定期的にクーラントを交換していなかったら、10年後には腐食に悩まされるでしょう。逆にGPZ固有の弱点と言うと、カウルステーとエンジン後部下側のマウントボルトの破損、カムチェーントンネルというダムに水が溜まって、1番のプラグ+キャップが劣化することくらいだと思いますよ」(森山氏)
モリヤマエンジニアリングではそういった問題への対処法を確立しているのだが、それ以前の話として、近年のGPZ900Rの中古車は抜本的な整備を必要とする個体がほとんどのようだ。
「価格の上昇とは裏腹に、中古車の程度は確実に悪くなっています。ウチでは中古車の健康診断として、約60項目を5段階で評価する『スペシャルチェックアップ』という総合点検プログラムを設定しているのですが、これをGPZ900Rで行うと、ほとんどの項目が残念ながら1〜3。そんな状態では、GPZ本来の資質は味わえないでしょう」(森山氏)
ウィークポイント解説:弱点はあるものの、対処方法はすでに確立済み
エンジン:内部で発生する”かじり”と”伸び”
激しくキズが付いたロッカーアームのスリッパー面とカム山。同店のオイルラインキットとA13以降の対策ロッカーアームを使えば、この問題はある程度解消できるが、低回転ばかりを多用しない意識は必要。
クラッチインナーのスプリングが収まる穴の内壁は、高回転時にスプリングが暴れてキズが付きやすい。クラッチの切れが悪い個体は要確認。
テンショナーの作動性がいまひとつのスターター(左)/カムチェーン(右)は片伸びが多く、前者は劣化が進むと切れることもある。
GPZは左側にカムチェーントンネルを設置しているため、シリンダーヘッド上左に水が溜まりやすい。写真は森山氏が考案した対策済みヘッドで、1番気筒に筒型の部品を設置してプラグ+キャップを保護する。
キャブレーター:全消耗部品を交換したい
モリヤマエンジニアリングでCVK34をオーバーホールする際は、バキュームピストン+ダイヤフラムや先端にラバーが備わるスターターノズル、真鍮/アルミ製の各種ジェット類など、全消耗部品の交換を推奨。
エンジンマウント/リヤショック:リヤショックは社外品に変更
第1世代はエア抜け率が高く、第2世代以降も特に優れてはいないリヤショックは、社外品に交換するのが一般的。同店の定番はオーリンズとナイトロン。折損が多いエンジン後部下側マウントボルトは消耗品と考えたい。
ブレーキ:社外品のほうが安上がり
純正部品を用いてオーバーホールすることも可能だが、コストと工賃を考えて、ブレーキキャリパーはブレンボ製に変更するユーザーが多い。純正ディスクはすでに欠品で、同店では代替品としてサンスターを推奨している。
ウォーターパイプ:腐食とサビが大量発生
ウォーターポンプ、インペラ、スチールパイプ、ラバーホースなど、水まわりはサビと腐食が発生しているケースが多い。クーラントを2年に1回ペースで交換していれば、そんなにヒドい状況にはならないのだが……。
メインハーネス:人間にとっての血管に相当
人間の血管に相当するメインハーネスは、現在でも新品が入手可能。たとえ現状で問題がなくても、劣化は確実に進んでいるので、新品があるうちに交換しておきたい。
カウルステー:緩み→振動→折損→溶接
見るからに頼りない印象の前側アッパーカウルステーは、取り付けボルト+ナットの緩みで振動が生じ、最終的にポキッと折れることが少なくない。そうなった場合は、補強を考慮して溶接で修理する。
オススメモデル:STD+αで楽しむなら’00年型A13以降がオススメ
すべてを公表しているわけではないものの、GPZ900Rは後年になると各部に対策部品を導入。もちろん傾向としては年式が新しい方が程度は良好だから、これからGPZを購入するなら、プレミアム価格のA16:ファイナルエディションは避け(予算が潤沢ならアリ)、熟成が進んだA13~15から探すのが得策だろう。
とはいえ、足まわりの全面刷新やエンジンチューニング、吸排気系変更など、アフターパーツを用いてのフルカスタムが前提なら、年式にこだわる必要はないのかもしれない。
なお速度リミッター付きの日本仕様は、かつては敬遠する人が多かったが、最近はローカムの扱いやすさに好感を抱く人が少なくない模様。
パーツ流通:補修部品はほとんどが入手可能
生産終了から17年が経過したにも関わらず、GPZ900Rの純正部品供給状況は意外に良好。エンジンの大物部品や外装は欠品になっているが、消耗部品がほとんどが入手可能だ。
もっとも、そういう状況がいつまで続くかは何とも言えないので、モリヤマエンジニアリングでは、ダメージが出やすいロッカーアームやカム、カム/スターターチェーン、水回りのパーツなどは今のうちに新品をストックしておくことを推奨。場合によっては、ネットオークションで販売されているエンジンASSYをオススメすることもあると言う。
なおエンジンのオーバーホール時に使用するピストンは、同店では排気量が972ccになるワイセコのφ75mmが定番。
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