ニンジャZX-25R完全解説

ニンジャZX-25Rの250cc直4エンジンはまさに破格だ【エンジン設計のプロが解説】

カワサキ ニンジャZX-25Rに搭載されることで現代に蘇ったニーゴー並列4気筒エンジンは、過去のそれとは完全に決別。唯一無二の存在として最新の技術が惜しみなく投入されている。その心臓部の秘密を「超高回転エンジンのマニア」を自称するエンジン設計のプロ・稲垣一徳氏が徹底解説する。

ニンジャZX-25Rの250cc直4エンジンはまさに破格だ【エンジン設計のプロが解説】
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【イナガキデザイン代表:稲垣一徳氏】メーカー依頼を含む、エンジン設計やコンサルティングを手掛けるスペシャリスト。30年以上にわたって様々なエンジンに関わり、’90年代後半WGP500でチームケニーロバーツが駆った2ストV3は氏の設計だ。

「あつまれ 4発の森!」

待望のニンジャZX-25Rが、とうとう国内発売された。

一番初めに言うべきは、「新型コロナ禍のこんなご時世に、こんなバイクを出してくれてありがとう、カワサキさん!」ということだろう。みんなが精神的に辛い時に、何か光明が差したような気持ちになる。バイクが好きな僕たちにとっては、確実に元気が出る話題だ。

さっそくリリースを読み込んだが、内容を考えると安いのでは…、というのが率直な感想だ。

250cc4気筒エンジンはZX-25R用として新設計され、昔のZXR250とはまったくの別物。確実な進化を感じる。超高回転エンジンとしてきちんと成立させるために、必要な技術はすべて投入し、丁寧に新設計されている印象を受けた。このエンジンなら、超高回転域の官能性能を、誰でも”当たり外れなく”享受できるはずだ。

そんなエンジンについて、今回発表された内容を解説していこう。

タイで開催された発表会で展示されたカットエンジン(写真提供:Webike THAILAND)

性能は、インドネシア向けのフルパワー仕様だと、50psを15500rpmで発生するという。排気量あたりの発生馬力で言えば、1000ccのSSクラスと同等の性能で、市販車としては非常にハイレベルなエンジンだ。

基本構成は、DOHC4バルブ・水冷4気筒と、ZXR250と同じながら、ボア×ストロークからして異なる。

ZXR250の49×33.1mmから、50×31.8mmとなり、ボアが1mm大きくなった。これにともない、INバルブがφ18.6mmからφ18.9mmにほんの少しだけ大きくなっている。

性能への影響度でいえば、INバルブの大きさとカムプロファイルの影響が支配的だが、このボア径の選択は、ポート形状や冷却等の最適化を優先した、設計要件からの選択だろう。高回転化のためのショートストローク化ではないと推察する。

もちろんZXRよりもショートストロークになっている分、やるべきことをやれば、さらなる高回転化も可能と思われるが……。

さて、はじめに丁寧に設計されたと述べたが、超高回転エンジンは細かい技術(メカニカルも電子制御も)の積み重ねと、製作精度を向上させることで、やっと成立するような代物だ。

エンジンには、ヘッドやシリンダー等、アルミ鋳造という工法で作らざるを得ないものが存在する。鋳造自体は確立された製造技術だが、細かい寸法精度まで出すことが苦手な製法でもある。

鋳造による製造精度により、0.5mmの形状のずれがあったとして、1000ccのエンジンと全体的に小さい250ccのエンジンでは、問題の深刻度がまったく異なることを想像してみてほしい。

たとえば、ポートとバルブシートリングの内径は、少しの段もなく滑らかに繋がれば良いが、ポートは鋳造の精度、シートリングの内径は機械加工の精度なので、通常は少なからず段差ができてしまう。ポートが非常に細いのに超高回転まで回り、混合気の流速が速いZX-25Rでは、少しの段差が性能ダウンに繋がり、かつそれが個体によってのバラつきとなり得るわけだ。

ところがZX-25Rでは、その段差がなくなるよう、ひとつのポートにつきシートリング側から2方向の機械加工を施している。また、性能のバラつきの主原因になりやすい圧縮比のバラつきを抑えるため、燃焼室も機械加工仕上げである。

こうした仕上げ加工は、ZXRの頃には行われていなかった生産技術。燃焼室形状はサイド部にスキッシュのないモダンな形状だ。

圧縮比自体は11.5とZXRよりも低いが、レギュラーガソリン仕様となっていることや、海外向けの場合の燃料事情と関連があるのだろう。動弁系も超高回転化のため、それは丁寧に作られている。

バルブはチタン合金こそ採用されなかったが、熱的に厳しいエキゾースト用バルブにはインコネルが採用されている。インコネルは通常のバルブ用耐熱鋼よりもさらに熱負荷強度が高く、ターボチャージャー等でも使用されている材料。もちろん製造コストも高い。インテーク側はポート内に出ている部分をウェスト化(細径化)して、ポート断面積を稼いでいる。

バルブスプリングも普通の2段不等ピッチに対し、3段不等ピッチとして固有振動数を超高回転にフォーカス。その領域でのバルブのカムリフトへの追従性を向上させている。ちなみに、バルブリフターの天頂部には高回転時のフリクションダウンのため、DLCコーティングを採用しているようだ。

カムシャフトも、超高回転時のねじり剛性を考慮して、鋳造ではなく鍛造製とされている。

超高回転時のバルブタイミングの精度を上げるカムギアトレーンや、動弁系重量を軽くするフィンガーフォロワーロッカーアームは採用されなかったが、250cc4発エンジンでは、元々部品が小さく軽い。コスト面も考慮し、未採用で行けると判断したのだろう。

バルブ挟み角は28度とし、直打式を採用。全体のパーツサイズが小さいため、フィンガーフォロワーなしでも超高回転化に問題はなさそうだ。

CBR250RR(MC22)のピストンも鋳造で、ボア×ストは48.5×33.8mmだがインテークバルブはφ19mm、エキゾーストバルブはφ16.5mm。カムギアトレーンにより非常識な超高回転を実現した。燃焼室形状には時代を感じる。

メインキーと並べると、いかに小さいパーツで出来ているかがわかる。ピストン径はφ50mmで、INバルブ(左)はφ18.9mm、EXバルブ(右)はφ15.9mmだ。これが17000rpm以上で回る。

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