1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第28回は、MotoGPカタールテストに注目します。
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イタリアでは街が封鎖されるなどの事態も
新型コロナウイルスが世界的な大問題になっていますね。日本でも感染された方、発症された方、亡くなられた方がいらっしゃいます。まずは心からお見舞い申し上げます。
僕自身は元気にいつも通り過ごしていますが、イタリアでは街が封鎖されたり、スーパーから商品が消えたりとおおごとになっています。モナコはまだそれほどの騒ぎにはなっていませんが、モナコの住民は今、世界中にバカンスに出かけていて、これから戻ってくるので決して他人事ではありません。
大阪、東京ともにモーターサイクルショーが中止になってしまいました。今の状況では、多くの人が集まるイベントの開催を見合わせるのは致し方ない判断ですよね。その他の仕事もあって日本に行く予定でしたが、もしかするとモナコに戻れなくなる可能性もあるので、どうしようか考えながら調整しているところです。
11歳の下の娘はスキーレース大会が中止になってガッカリしています。いろんな国から人が集まるので、これも仕方ないですよね……。でも彼女はスラロームの名手。3連勝中だからなおさらショックは大きいようです。
さすがに毎日滑っているだけあって非常にうまくて、父親である僕はとてもじゃないけどもう敵いません。上の娘は13歳で、やはり妹と同等以上にスキーが上手で速いんですが、今のところ興味はオシャレに向いています(笑)。
物事を曖昧にして「察してほしい」は通用しない
子供には「やりたいことをやりなさい」ぐらいのことしか言いません。もちろん「ウソはダメ」とか「挨拶をしっかり」など、人としての基本的なことを伝えはしますが、あまり細かくとやかく言う父親ではないと思ってます。自分では(笑)。
娘たちは自己主張もしっかりしますしね。もはや自分のことを日本人だとは思ってないんじゃないかな?(笑)国際社会を生きて行くうえで、自己主張はとても大事です。日本人は物事を曖昧にしながら「分かってくれよ~」なんて面がありますが、外国では通用しません。イエス・ノーをはっきり主張しないと理解してもらえないんです。
現役時代、シーズンオフに契約について話している中で、チームから「なぜいい成績が残せないんだ?」と聞かれたことがあります。「いいパーツが供給されなかったからだ」と答えたら、「なぜそれをシーズン中に言わないんだ!」と逆に言われちゃいました。「何も言わないから満足してるのかと思った」と。
察してはもらえないんだな、ということが分かりました。何か気になることがあったら、その場でしっかり言わないといけない。僕自身もともとハッキリ主張できるタイプだったし、日本でレースしていた時から言うべきことは言っていたつもりでした。仲良しクラブに所属しているんじゃなくて、勝つためにレースしていましたからね。でも、海外ではまだ足りなかったんです。
物事はなんでも一長一短がありますから、一概にどっちがいいとは言えません。でも、海外で暮らしていると日本という国はかなり特殊なんだな、と感じることが多いのも確かです。
新型コロナウイルス対策も後手後手に回っているように見えるのは、とかく決定を恐れるからでしょう。こちらでは各個人個人の自己防衛意識がすごく高くて、スピーディーに物事を決めていきます。もちろんそのことにも良し悪しはありますが、緊急を要する事態では有効なように思います。
新しいミシュランタイヤでMotoGPの勢力図が変わる?!
さて、MotoGPは開幕を前にカタールでのテストが行われました。ヤマハとスズキの調子がいいですね! 各ライダーとも好タイムを出しているところを見ると、ミシュランの新しいリヤタイヤとこの2メーカーのマッチングが非常にいいようです。
ヤマハYZR-M1もスズキGSX-RRも、いわゆる「ハンドリングマシン」。フルバンクに持ち込むまでの安心感や、フルバンク時の接地感が高いレベルで求められます。ミシュランの新リヤタイヤは、コーナリング重視のマシンキャラクターに合っているのでしょう。
一方気がかりなのはホンダとドゥカティがもうひとつだということ。この両メーカーはブレーキで突っ込んでギュッと減速し、クルッとコンパクトに曲がるタイプ。新しいリヤタイヤではその特性が生かし切れていないのかもしれません。
ただ、まだテストなので本当のところは分かりません。ホンダもドゥカティもテスト項目が非常に多いようで、評価にも時間がかかったはずですから、タイムアタックするまでの段階ではないのかもしれませんね。
ただし僕の経験上、ベースの仕上がりがいいマシンだと、例えタイムアタックをしなくてもタイムが“出てしまう”ものです。変更すべきところも少ないからテストも進んで、結果的に開幕戦からダッシュが効く。最初からいいサイクルができあがるんです。
そういう意味ではホンダとドゥカティはちょっと厳しいのかな、という印象もありますが、そうは言ってもカタールテストでは1秒以内に18人のライダーがひしめきあっています。今年は去年以上の接戦が楽しめそうです。
日本人ライダーも好調ですね。MotoGPの中上貴晶選手はケガの回復も順調のようです。テスト項目の少ない2019年型ということもありますが、3日間の総合でホンダ勢2番手タイムは自信になったはず。いいモチベーションでの開幕戦に期待できます。
Moto2の長島哲太選手は今シーズンきっと表彰台に立ってくれるでしょうし、優勝も見えています。Moto3では小倉藍選手が注目です。彼らがチャンピオン争いを展開してくれる可能性もありますよ!
ところで、ドゥカティがまた何かアヤシイことをやってますよね。スタートダッシュを決めるためのホールショットデバイスを“応用”して、走行中の車高制御にもトライしているようです。詳しくは分かりませんが、機械的にリヤサスペンションの動きをコントロールしていると言われています。まさに「重箱の隅つつき」ですが、これこそ海外の人たちっぽいやり方です。
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