~タイヤとの繊細な関係も~

[青木宣篤の上毛GP新聞]4スト派? 2スト派? 欲しくないけど欲しい……コ難しいエンブレの話

Quartararo, Malaysian MotoGP 2019

ヤングマシン本誌に連載中の「上毛GP新聞(じょうもうグランプリしんぶん)」から、かつての4ストロークエンジンでライダーを悩ませた“エンジンブレーキ”についての考察をお届け。現在のMotoGPマシンは電子制御によって理想的なエンブレ特性がつくれるというが……?

エンブレが利かない4ストがいちばんイイ!

1990年代、ワタシは4ストマシンがうまく乗れずに、人知れず涙を流していた。鈴鹿8耐で、RVFやGSX-R750の強大なエンブレに苦しんでいたのだ。

当時はスリッパークラッチもなく、スロットルを開いて負圧を逃がす仕組みもなく、とにかくエンブレが強かった。

エンブレが強いと、実速度に対して後輪の回転数が急速に落ち、ロックしてしまう。ツーッと氷の上を走るような状態になり、ひたすら怖い。「オレもう無理です」とお手上げ状態だった。

しかし、時代がワタシににじり寄ってきた。スリッパークラッチが投入され、電子制御が進み、エンブレが緩和されていった。

ワタシの4ストMotoGPマシン経験はプロトンKR5が最初だが、最初は「乗れねェよ!」と叫びたくなるほどのエンブレだった。しかしECUが進化し、エンブレ時に強制的にバタフライを1〜2%開けられるようになり、ラップタイムが一気に向上した。

エンブレ=エンジンブレーキ。結局のところは減速しているのだ。だから単純にエンブレを弱めればタイムが上がる。

「じゃあエンブレなんか完全になくしてしまえばいい!」と思うかもしれないが、いえいえ、ライダーはもっとワガママです。

スロットルオフにした時など、少しはエンブレが欲しいのだ。後ろから引っ張られる感じが、接地感と安心感を高めるからだ。でもやっぱり、マシンを深く寝かしていく場面ではエンブレいらない。こういう細かいエンブレセッティングがラップタイムに響くのだ。

もろもろ考えると、今もやはり2ストのエンブレは最高だ。それでも最新モトGPマシンはかなり理想的な――つまり2スト的なエンブレの利かせ方ができている。

ヤマハのファビオ・クアルタラロはエンブレをほとんど利かせず、リヤブレーキを多用しながらタイムを稼いでいるという。これなどまさに2ストの乗り方。バイクって乗り物には2ストエンジンが一番なんですよ……。と、しみじみ言っておいてナンですが、ホンダのマルク・マルケスはエンブレ強めがお好みだ。

Quartararo, Malaysian MotoGP 2019
コーナリング中にも左手ハンドブレーキで積極的にリヤブレーキを使っているクアルタラロ。エンブレは極端に弱めているはずだ。

ライディングスタイルによってエンブレの好みも異なるが、それぞれに合わせて非常に細かくセッティングしている、ということ。共通ECUの今でも、そこにかける手間暇は相当なもの。開発コスト削減のためにオリジナルECUが禁止されたのも頷ける……。

という具合に、エンブレに関しては2スト回帰が目立つのだが、じゃあエンジン全体としてやはり2ストの方がバイク用として優れているのか、と言えば、やはりそうではない。

4ストエンジンのパワフルさは強烈だし、扱いやすいパワーデリバリーも4ストの方がずっと上。シンプルに「2ストと4スト、どっちが速く走れるか」と問われれば、迷わず4ストと答える。

エンブレの問題もセッティング次第でどうにでもできるようになった今、もはや4ストエンジンに死角はない……んだけど、やっぱり2ストはいいんだよねぇ……。

もともとがハードブレーカーのマルケス。さらにリヤブレーキを多用することでよりディープなブレーキングを実現している。

さて、エンブレセッティングの重要度が増したのはミシュランタイヤの特性によるところも大きい。

’15年までのブリヂストンタイヤは基本的に前後輪ともケース剛性が高く、「ある荷重域からたわむが、そこまではたわまない」と、非常にハッキリしていた。

フロントブレーキを強くかけてリヤがあまり接地していない状態だと、リヤタイヤにはほとんど荷重がかからず、たわまない。つまりフルブレーキング時はリヤタイヤがほぼ存在しないも同然だった。

一方、’16年からのミシュランタイヤは、もっと低い荷重域からタイヤがたわむ。リヤタイヤも路面に着いてさえいれば、グリップ力を発揮する。だから今はリヤブレーキの役割も非常に重要になった、というワケ。

エンジンやタイヤの特性。そしてライダーのスタイル。すべてが繊細に、そして微妙に関わり合って成り立っているのだ。

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