基礎ができていれば、迷ったときにいつでも戻れる

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.23「地味な練習、大好き! ライディングはまだまだ奥が深い――」

  • 2019/12/15

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第23回は、反復練習で得られるものについて語ります。

TEXT:Go TAKAHASHI

MICHELIN

モトGPタイヤの開発思想を感じる

今年の年末は忙しい! アッチで飲んで、コッチで飲んで、しまいには海の上で飲んで……(屋形船です)。もちろん仕事もしてますし、その合間にはゴルフもすればツーリングにも行って、忙しいのなんの! ……と言いつつ、自分が好きで楽しめることしかしていないので、疲れはないんですけどね。

12月2日は、ミシュランのメディア向け新製品試乗会に参加しました。メディアの皆さんが試乗したのは、来春に発売予定のストリートタイヤ「パワー5」と、サーキット走行に対応する「パワーカップ2」です。

僕は試乗会の前日に新品タイヤの皮むき要員として(?)たくさん走らせてもらい、自分なりの感想を持ちました。当日は走りませんでしたが、メディアの皆さんの意見が気になります。そこでインプレッションを聞いて回ったのですが、ちょっと驚きました。

タイヤのインプレッションは、乗る人のライディングスタイルや速度域、荷重のかけ方などによってさまざまにバラけるのが常。なのに「パワー5」と「パワーカップ2」に関しては、ほぼ一致! これはとても珍しいことです。

僕も皆さんも感じたのは、フロントタイヤの大幅な進化です。接地感と安心感が高まって、フルバンク域まで持ち込んでも粘り着くようなグリップ力を発揮してくれます。また、適度にたわんでくれるから、路面からのインフォメーションも多い。非常にいい仕上がりでした。

もともと定評のあるリヤタイヤの進化も感じられました。コーナー立ち上がりでわざと滑らせても、しっかりと荷重が乗ったままのスライドなのでコントロールしやすく、動きも分かりやすい。スパッと逃げてしまうことがないので、やはり安心して走ることができました。

さまざまなライダーで評価が一致する。原田さんも仕上がりに太鼓判だ。

今年の日本GPでミシュランの2輪モータースポーツ部門責任者、ピエロ・タラマッソさんにモトGPタイヤの話を聞いた時、こんなことを言ってました。

「ミシュランはもともとリヤタイヤのパフォーマンスに定評がありました。モトGPでも同様です。でも、レーシングライダーはわがままな生き物(笑)。『リヤはイイから、フロントももっとよくしてほしい』と要求されるんです。そうやってフロントタイヤの性能を上げ、それに合わせてリヤも……と、最適なバランスを追求し続けています」

今回の「パワー5」と「パワーカップ2」も、前後タイヤのバランスが非常によく取れています。モトGPタイヤと同じ開発思想が織り込まれていることを、強く感じました。

1日中でも同じ練習をしたいタイプです

その2日後、12月4日には念願のトライアルレッスンを受けました。先生は、プロのトライアル選手であり、ゴルフ仲間でもある本多元治くん。スタンディングや上り下りの仕方、ちょっとしたギャップの乗り越え方など、基本的なことを教わりました。

詳しくは、後日ヤングマシン本誌やWEBヤングマシンでお知らせしますが、いや~、面白かった! トライアルは、ステップワークや荷重のかけ方の勉強になります。

ちょっと話はそれますが、12月9日に気の合うバイク仲間ふたりと房総テキトーツーリングに出かけました。まったくのプライベートで、事前に決まっていたのは「午前10時に君津のコンビニで待ち合わせ」だけで、あとは行き当たりばったり。まったくのノープランです。

バイクは、僕がセロー、テクニカルガレージRUN社長の杉本さんがWR250R、そしてライターの剛ちゃんがランツァと、3人とも250ccのオフ車! 剛ちゃんが「林道に行ってみようぜ~」と言うので山に入ってみましたが、トライアル経験がめちゃくちゃ役立ちました(ちなみに林道は台風の影響で行き止まりに……。山に入る方はお気を付けて)。

コーチ役となった本多元治さん(右)と、初のスタンディングスティルに挑戦する原田さん(左)。すぐに出来てしまう原田さんに本多さんは「ありえない!」と驚く。

途中、岩や泥でかなり荒れた道にも入ったんですが、セローの走破性+トライアル経験で難なくクリア! ステップへの足の置き方や、どの方向にどう力をかけるか、下りでのフロントブレーキのかけ方など、本多くんに教わったことがすべて生かせたんです。もっともっとトライアルの練習をしたくなりました。

僕はもともと地味な性格なので(笑)、反復練習が大好き。何かひとつ新しいことを経験したら、それを徹底的に反復練習して、体に染み込ませます。子供の頃はポケバイでの8の字を1日中やってましたし、プロになってからもモトクロスの練習と言えばひとりで延々とブレーキングだけを繰り返したりしてました。

朝からブレーキングを始めて、お昼ご飯を食べたら午後からまたブレーキング、という具合です。みんなはコースを走り回ったりジャンプをしたりいろんなことをしていましたが、僕はひたすらブレーキング。ひとつのことをいくらやり続けても飽きないんです。

たぶん、地味な性格に加えて、怖がりで慎重ということもあると思います。ひとつのことがしっかり自分のものにならない限り、不安が残ってしまうので次のステップに進めないんです。

ある時はサーキットでS字コーナーを徹底的に練習します。コーナーの場合はただ走るだけじゃなく、ラインを変えてみたり、早めにブレーキングしたらどうなるのか、遅めだとどうか、メリハリをつけたり、あえてつけなかったりと、いろいろなライン、いろいろな走り方を繰り返します。

練習の時は、1周のラップタイムはまったく気にしません。タイムを出すのは予選最後のアタックラップだけで十分。練習は練習なので、ひとつひとつのコーナーで、いろいろな走りを徹底的に繰り返すんです。

このやり方は、地味で怖がりで慎重な僕にピッタリでしたが(笑)、メリットもあります。それは、「いつでも元に戻れる」ということです。

バイクのライディングはとても複雑な要素が絡み合っているので、うまく行かない時にはワケが分からない状態になりがちです。特に身に付けた技術が中途半端だと、何が合っていて何が間違っているのか分かりません。

でも、ひとつひとつの技術をじっくりと練習して完全に自分のものにしていれば、うまく行かない時にも前のステップまで戻れるんです。基礎ができているからこそ、応用ができる。そして応用で迷ったら、基礎に戻ればいい。何事もそうだと思いますが、ライディングもまったく同じなんです。

気の合う仲間と林道ツーリングへ。さっそくトライアル練習の成果が生きる!

というわけで、テキトーなツーリングを楽しみながらもトライアルで教わったことを試し、ライディングの奥深さを改めて感じました。そしてうれしくなりました。「またやることが増えちゃったよ!」と。

そう、まだまだやるべきことがいっぱいあるんですよね、バイクって。いつまでも終わりがありません。特に今回のトライアルのようにその道のプロに教わると、「勉強しなくちゃいけないことがたくさんあるなあ」とつくづく思います。

ロードレースだけをやっていたら気付かなかったことだらけで、僕のライディングスキルは今も発展途上です。そうやって教わったこと、自分のものにした技術を、これからの僕の仕事の中で皆さんに還元していきたいな、と思っています。来年もバイクで楽しみましょう!

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原田哲也

原田哲也

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1993年ロードレース世界選手権(WGP)250の世界チャンピオン。1992年に全日本で同クラスのチャンピオンを獲得し、翌年に初挑戦のWGP250で戴冠した。現役当時のニックネームは「クールデビル」。'02年に現役を引退し、現在はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。