まだバイクで公道を走ったことがない“サーキット純粋培養”の15歳、阿部真生騎さん。レーシングライダーとして芽を伸ばしつつある彼が、初めて公道仕様のバイクにまたがった! 保安部品のついた新型YZF-R25は、彼のフレッシュな目にどう映ったのか!? 那須モータースポーツランドで人生初インプレッションにチャレンジする!
モトGPマシンみたいなデザインがカッコいい!
「水を得た魚」とは、このことだ。新型YZF-R25がイキイキとサーキットを駆けている。ブレーキング、コーナリング、そして加速と、伸びやかにパフォーマンスを発揮しているのだ。
YZF-R25を難なく乗りこなし、限界域まで本気のテストライドをしているのは、15歳の若きレーシングライダー、阿部真生騎さんだ。
アグレッシブなライディングは、幼少の頃からポケバイやミニバイクで腕を磨いたから……ではない。バイクに乗り始めてわずか2年というから驚かされる。
だが真生騎さんが、ノリックの愛称で知られたグランプリライダー・阿部典史さんの息子だと知れば、驚きは納得に変わるだろう。
’19年にはレース仕様の従来型YZF-R25で筑波、もてぎ、SUGOの各選手権にエントリーし、腕を磨いた。モタードの全日本スーパーモトではクラス優勝も果たしている。
とは言っても、何しろ15歳だ。免許はなく、公道走行仕様のバイクに乗るのは今回が初めて。サイドスタンドの存在に「!」と息を呑む(レーシングマシンはスタンドを装備していない)。
ここから先、真生騎さんのYZF-R25のインプレッションは、サーキット純粋培養の若きレーシングライダーのコメントということを留意してお読みいただきたい。ちょっとスペシャルなインプレなのだ。
遠くから、そして近くからYZF-R25を眺めた真生騎さんは、「カッコいいですね」と笑った。「ニーゴーの市販車って、もっと子供っぽいデザインかと思ってました。でも、これはカッコいい。ヤマハのモトGPマシン、YZR-M1っぽくて気に入りました」。かつて父・典史さんが走らせたマシンの名前をさらりと口にする。
ノリックがM1で戦ったのは、’04年まで。15年前のことで、進化し続けるレース界では「かなり昔のこと」と言える。だが、M1のアッパーカウル中央部には、当時も今も変わらないM字形のエアインテークが設けられている。もっとも吸気効率のよい位置と形状を貫き続けてのことだ。
その位置と形状は、新型YZF-R25にも受け継がれている。若い感性の真生騎さんが「M1っぽい」と感じたのは、かつて父が走らせたM1と、今、彼が眺めているYZF-R25との間に、ダイレクトな血脈があるからだ。
最初にYZF-R25にまたがった時、真生騎さんはちょっと困惑した。メインキーの操作方法が分からなかったのだ。レーシングマシンにキーはない。とことんレーシングライダーである。
軽快にスパスパ曲がる車体とても伸びやかなエンジン
那須モータースポーツランドに、並列2気筒エンジンの排気音が響く。タイヤを温め、初めてのコースを把握するために数周ゆっくり走ると、真生騎さんは徐々にペースを上げていった。
力強いエキゾーストノートを奏でながらインフィールドに飛び込んできたYZF-R25は、真生騎さんの的確なコントロールによってパシッ、パシッと車体を寝かせ、起き、機敏にコーナーを立ち上がっていく。ペースが上がれば上がるほど、バイクも人も楽しげに見える。とてもリズミカルだ。
YZF-R25を降りた真生騎さんは、「このシート、フワフワしててすごく座り心地がいいですね!」と15歳らしいフレッシュな笑顔を見せた。
彼が普段走らせているのは、シートと言っても薄いスポンジが貼られているだけのスパルタンなレース車両。市販車ならではの快適なシートにまず好感触を抱いたようだ。
「ポジションも、レース車両とはだいぶ違ってかなりラク。でも、サーキットを走っても違和感はありませんでした。いいバランスだと思います」
そしてレーシングライダーらしくギュッと引き締まった表情を浮かべると、「新型YZF-R25はすごく曲がりやすいです」とコメントした。
「最近は重さのあるYZF-R6やパワフルなモタードでの練習を繰り返しているので、その影響もあって軽快さが際立ったのかもしれません。
でも、僕が今年戦ってきたレーサー仕様のYZF-R25に比べても、切り返しのクイックさは遜色ないですね。むしろ軽く感じます。
Rの小さなタイトなコーナーでもスピードを落とさずにスパスパ曲がれるので、すごく気持ちいいです!」
レース仕様車は、保安部品を取り外し、専用カウルを装着するなどして軽量化が図られる。しかし、真生騎さんが走らせてきたのは従来型だ。新型は倒立式フロントフォークの採用を始め、車体まわりの剛性バランスが徹底的に見直されている。
レブリミッターに当たるまで回し切ったエンジンについても、好印象を持ったようだ。
「高回転域での伸びがすごくいい。僕が乗ってきたレース仕様と遜色ない速さです」と驚く。
ビギナーから上級者まで 満足させる懐の深さ──
その一方で、「ニーゴーらしく、発進時は極低回転からスロットルを開けやすいんです。そこから中回転域まではかなり扱いやすく仕立てられている。初心者の方でも安心できると思います。いろんな意味で、ちょうどいい仕上がりになってるんじゃないかな」と、バイク歴2年の15歳は笑う。
「真生騎にとって、’19シーズンにYZF-R25でレースしたことは最高の練習になりました」と、祖父にあたる阿部光雄さん。自身もオートレーサーとして鳴らし、現在は真生騎さんが所属するWebikeチームノリックヤマハの監督を務めている。
「真生騎がバイクに乗り始めたのは、ちょうど2年前の’17年11月22日のこと。いきなり600ccスーパースポーツはさすがに無理がありました。
でもニーゴーなら、危ない思いをすることなく基本を学び、ライディング経験を積み重ねることができる。YZF-R25では主にライディングフォームの作り込みに力を注いだんです」
さらに接戦を繰り返すことで、メンタル面を鍛えることにも役立ったと阿部監督は言う。
「レース界はもちろん、バイク業界全体にとっても、ニーゴーがブームになったのは大きなメリットがあったと思います。レースはエントリー数が増えましたし、バイク業界にとっては多くの若者が乗り始めてくれた。
15歳でレースに本気の真生騎はちょっと特別な例かもしれませんが、ファーストステップとしてYZF-R25は大事な役割を果たしてくれました。
あ、サーキットではニーゴー乗りのオジサンレーサーも目立つんですよ(笑)。老若男女、誰でも楽しめるのがニーゴーの良さですよね」
YAMAHA YZF-R25
DUNLOP α-13SP
バイク専用サーキット
ライセンスを取得してのスポーツ走行を始め、各種スクールやイベントを多数開催。ビギナーからベテランまで幅広く楽しめるバイク専用サーキットだ。東北自動車道那須ICから約15分。
●文:高橋剛 ●写真:柴田直行/YM Archives
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