直4最強218psエンジンの全容

【エンジン編】ホンダ2020新型CBR1000RR-R/SP トリプルアール詳細解説

ホンダがミラノショーで発表した新型CBR1000RR-R/SPは久しぶりの完全新設計モデル。狙いをサーキットに定めて徹底的に戦闘力を高めてきているだけに、多くの内容が盛り込まれている。今回はエンジンを解説しよう。

MotoGPマシン・RC213Vと同じボア×ストロークを採用

新型CBR1000RR-Rの発表に際して、開発責任者の石川譲氏は「主戦場をサーキットに移しました。RR-Rはサーキットでこそポテンシャルの全てを出し切ることができます。エンジンはRC213Vと同じボア×ストロークを採用し、車体レイアウトの自由度を確保するために並列4気筒のエンジンレイアウトを選択しました」と語った。

新型CBR1000RR-R/SPは、全く白紙の状態から開発が始まり、RC213Vと同じボア×ストロークを持つ並列4気筒エンジンが選択された。他にも、セミカムギアトレーン、フィンガーフォロワーロッカーアーム、チタンコンロッド、RC213V-Sのフリクションロス低減技術などMotoGP由来のテクノロジーを数多く採り入れている。アッパーカウルに設置されたラムエアダクトは、ヘッドパイプ部分を貫通して直接エアボックスまで通じている。4-2-1エキゾーストシステムのサイレンサーは楕円形でアクラボヴィッチと共同開発されたものだ。これらの装備でCBR1000RR-R/SPのエンジンは160kW(217.6ps)/14500rpm、113Nm(11.5kg-m)/12500rpmのスペックを実現したのだ。

【HONDA CBR1000RR-R/SP 2020年型】約218psを叩き出すトリプルアールのエンジンは等間隔爆発の並列4気筒レイアウトで従来型から変わっていない。しかし、細部に至るまで工夫が凝らされている。

並列4気筒ではクラス最大ボアでトップの最高出力を達成

CBR1000RR-R/SPの並列4気筒エンジンはMotoGPの技術をフィードバックして完全新設計されたもの。最高出力160kW(217.6ps)を達成するために、RC213Vと同じオーバースクエアの81mm×48.5mmのボアストロークを採用している。これは従来型の76mm×55.1mmのボアストを大きく上回るだけでなく、1000cc直4モデルの中で最大となる。ちなみにS1000RRは80mm×49.7mm、パニガーレV4Rは81mm×48.4mmで、エンジン型式こそ異なるがV4Rのボアと同寸となる。

圧縮比は13.0:1に設定。吸気バルブは径32.5mm、排気バルブは径28.5mmで、バルブ駆動にはフィンガーフォロワーロッカーアームを採用。これはバケットタイプに比べると慣性重量が75%削減できる上、カム山にDLCコーティングを施すことによってフリクションロスを35%削減し、さらなる高回転化が可能となった。バルブまわりは、特許出願中の新しいセミカムギアトレーンによって駆動されている。高回転/高リフトカムのスプロケットはクランクシャフトにあるタイミングギヤが駆動するカムアイドルギヤによってチェーン駆動されるので、チェーン全長を短くすることができる。

ホンダが開発したTI-64Aチタン鍛造のコンロッドとキャップは、クロモリ鋼と比較して重量が50%低減される。また、同じくホンダが開発したHB149クロムモリブデンバナジウムスチールボルトを使用し、ナットは省略している。また、コンロッド小端に挿入するブッシュはC1720-HTベリリウム銅で作られており高回転域での信頼性を確保。さらに大端部の側面にはDLCコーティングを施すという念の入れようだ。ピストンは軽量かつ強度と耐久性を確保するためRC213V-Sと同じA2618アルミニウムで鍛造されており、ピストンあたりの重量は従来モデルより5%軽くなっている。そして高回転化に対応するために、スカート部にテフロンとモリブデンベースのコーティングが施された。

ピストンの温度を管理するために冷却油を噴射するマルチポイントピストンジェットは、ピストンの上下各位地においても適切に冷却できるよう3方向にオイルを噴射し、低回転域では油圧の損失を抑えるため流れを止めるようにしている。

RC213V-Sと同じ素材で製造されたCBR1000RR-Rの鍛造ピストン。
フィンガフォロワー側にDLCコーティングする例はよくあるが、CBR1000RR-Rはカムシャフト側にコーティング。
従来のバケットタイプに比べて慣性重量を大幅に軽減できるため、高回転エンジンに必須の機構となるフィンガフォロワーロッカーアームを採用。
ハイリフトカムを駆動するために長くなってしまうカムチェーン長を抑えるためにセミカムギアトレーン方式を採用。
コンロッドはチタン製で従来のクロモリ鋼に比べて重量は半減。
ピストンジェットは3方向にオイルを発射。ピストン位置の上下に関わらず最適な位置にエンジンオイルを吹き付けピストンを冷却する。
ピストンにエンジンオイルを吹き付けるピストンジェットは、低回転域では機能を停止する。

スマートキーがエンジンパワーに貢献?!

吸気は、高い圧力が得られるアッパーカウルの先端にあるラムエアダクトからエンジンに導かれる。開口部のサイズはRC213Vと同等で、ダクト入口の上部と左右にセットされるTurbulator(タービュレーター=乱流翼)は、ハンドリングへの影響を抑えながら吸気を最大限に導入する。また、吸気口角度は高速域や加速時に流速を維持するものとなっている。

幅広い速度域で安定した性能を維持するために、過給された空気はヘッドパイプ部を通過し、エアボックスまでストレートに流れる。この経路を確保するためにキーシリンダーは撤去されてスマートキーが採用された。また同じ理由でステアリングアングルは左右各25度に抑制されている。エアフィルターは、従来モデルより25%拡大されており、濾過された空気は、エアボックス上部に設置されたインジェクターからの燃料と一緒に偏芯型ファンネルを通して燃焼室へ導かれるようになっている。

ボア×ストロークだけでなくラムエアダクト開口部の面積もRC213Vと同等という。
このTurbulator(タービュレーター=乱流翼)と呼ばれる形状がハンドリングへの影響を抑える役割を担っている。
真ん中から真っすぐエンジンまで届くラムエアダクトを実現するためにハンドル切れ角は25度に。
トップブリッジにキーシリンダーがないのも効率化に貢献。さらにレーサー風の見た目は満足度が高いだろう。
イグニッションスイッチはダクトに左側に設置されている。

特許出願中の新技術も多数投入された

スロットルボディは径48mmから52mmに拡大され、楕円形の内部断面により、スロットルバタフライバルブからインテークバルブへのスムーズな流れを生み出している。吸気側のバルブ挟み角は11度から9度に起こして燃焼室体積を削減、また混合気の流速は2%アップした。スロットルレスポンスに影響するポートの容積は13%削減することによって反応が良好になっている。さらにスロットルシャフトに剛性の高いステンレス素材を採用することにより、たわみとフリクションロスを減らし、ライダーのアクセル操作により忠実なフィードバックをもたらしている。

排気側のキャタライザーは直径を10mm拡大。サイレンサーはアクラボヴィッチと共同開発で、形状や取り付け角度はバンク角確保に適したものだ。セットされる排気バルブもアクラボヴィッチが開発したのもで、低回転トルクと高回転出力を両立するようになっている。特許出願中のバルブストッパーは、閉じた時に排気ガスの漏れと騒音を低減するための機構で、これにより内部容積を出力設計と比較して38%も削減することができている。

さらにRR-Rのエンジンは、シリンダーボアの歪みを抑えるために、冷却水用のボトムバイパス(特許出願中)を備えている。この機構は、ラジエターからメインのウォータージャケットに冷却水を循環させる一方、シリンダー下部には暖水を供給するというもの。これによりホースを増やすことなく、シリンダー全体での温度の低下と均一な温度分布を実現し、高回転域の信頼性を確保することになった。

セルモーターは一般的なクランクシャフトでなく、クラッチ軸となるメインシャフトを駆動するようにレイアウトされている。特許出願中のこの構造によりクランクシャフトをコンパクトにできるだけでなく、省スペース化に貢献している。

IN側のバルブ角は9度に起こされた。
4-2-1のエキゾーストを採用し、集合部分にキャタライザーをセットする。
低回転域のトルクと高回転パワーを両立させる排気バルブには新開発のバルブストッパーが採用されている。
CBR1000RR-Rのシリンダーは下部を流れるボトムバイパスを備えている。
ボトムバイパスは温度を下げつつ均一化を果たすことでシリンダーの歪みを抑え、高回転域での信頼性もたらす。
これまでクランクシャフト駆動していたセルモーターはメインシャフトを回す方式に変更。これによりクランクシャフトをよりコンパクトにすることができる。

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