2019年は日本車キラーのBMW S1000RRが、『シフトカム』などの新テクノロジーを盛り込んでフルモデルチェンジ。ついにサーキットへと解き放たれた。ドイツ・PS誌では日本に先立ち、条件が同じ1000cc直4スーパーバイクのライバルを集めて、サーキットで全開テストを敢行。第1回ではアンダルシア・サーキットでS1000RRがベストラップをマークし、続く第2回ではホンダとヤマハが挑む様をお届けしよう。
文:Volkmar Jacob(PS) 写真:Arturo Rivas(PS) まとめ:宮田健一
舞台はスペイン・アンダルシア!
アンダルシア・サーキットは南スペイン・アルメリアにあり、旧コースの隣に約1年半前に完成したばかり。旧コースと接続することもできる。全長約4km半で習得は難しく、特にピット出口から数百m先の山頂直後はカーブが縮小し、早めのターンオフが必要となる。
タイヤはピレリで統一!
イコールコンディションでのテストを期するために、タイヤはピレリで統一。しかも、サーキットでの限界性能を引き出すことに挑戦するため、銘柄にはレーシングスリックのDIABLO SUPERBIKE SC1をチョイスした。このタイヤはSBK=ワールドスーパーバイク世界選手権の公式タイヤでもあり、まさにガチ仕様。タイヤ専門のスタッフも派遣され、エア圧などは厳密に管理された。
HONDA CBR1000RR SP:1000ccと思えぬコンパクトぶり
うぉーっ! 現行のファイアーブレードはどれほどコンパクトに構築されていることか! 思わずもう1度モデル名を見直してしまった。これは本当に“1000”なのだろうか? 他に例を見ないスーパーバイクで、600ccクラスに乗ってるような楽しい気分を伝えてくる。195kgとスーパーバイクとして最も軽い車体は貪欲にコーナーに突っこんでいくことができ、前輪はその先のラインを完璧にトレースすることができる。セミアクティブサスペンションは美しくバランスのとれた働きをし、スプリングもきれいに反応してくれる。ライディング中にたくさんの幸福ホルモンが身体から放出されてくるのが分かる。
しかし、光があるところには影があるものだ。毎度ながらこのマシンのABSはレースだと少し早すぎるペースで作動し、まだカーブで路面を掴んでいるかグラベルにまっすぐに入ってしまっているかにかかわらずブレーキレバーがピクついてライダーのコントロールを置いてきぼりにしてしまう。イタリアの協力バイク雑誌が報告しているようにホンダは2019年モデルでABSをはじめとした電子制御デバイスまわりを再プログラムした。ウイリーコントロールもトラクションコントロールとは独立して別々に調整できるようになっている。ただ、ドイツのホンダはまだ最新型を輸入しておらず、今回の車両も修正前だったのが残念だ。
さて、サーキットの話に戻ろう。タイムは1分53秒1で、ホンダはBMWのちょうど2秒遅れとなってしまう。CBRはどこで後れを取ったのか。全セクションのデータ記録によると、タイムギャップは少しずつ増えており、これはもうパワー差以外の何物でもないという結果になった。ベンチテストによるCBRの実測値は188psで、BMWとはなんと26psもの差があり、全体で見ても一番不利な数値となっている。パワーがすべてではないが、十分なパンチ力がなければ最も洗練されているといってもいいサスペンションを十分に活かしきれていないのが残念。ただ、単独で走っている間は、初めに述べたように非常に楽しい。まとめるなら、CBRは限界領域ではなく中速域で非常に均等にそのパフォーマンスを提供してくれるマシンだと言えよう。
最後に、この直4エンジンは非常に正確に動作する。しかも、排気フラップが約4000rpmで開くとき、まるで本物のレーシングマシンのようなクリアなサウンドを響かせる。実に素晴らしいが、正直なところとても音が大きい。ドイツ国内では公共の場所、そしておそらくサーキットでも大きすぎるくらいだ。しかし、少なくともここスペインのゲレンデでは、それを気にする必要はなかった。
CBR1000RR SPのディテール
丸山浩のミニインプレ:なんといっても車体の軽さがエキサイトメントを呼び込む
街乗りからツーリングまでストレスなくこなす万能性を持ちながら、いざスポーツをするときはクラストップの最軽量車体が俊敏でエキサイティングなハンドリングを提供する。パワーは最も控えめだが物足りなさ感はなく、低回転からかなり力強いトルクを発揮。トラコンやウイリーコントロールの介入度も絶妙。純粋にスポーツを楽しむのにオススメだ。
YAMAHA YZF-R1M:『速さはパワーのみにあらず』を証明
今のBMWにとって最大の危険と言えるのはヤマハだ。昨年行ったテスト(ヤングマシン20 18年7月号掲載)でも、ラップタイムでR1Mは先代S1000RRに最も接近し、わずか0.4秒遅れの2番手タイムを記録した。また、エンジンとシャーシの点数評価では、先代S1000RRを数ポイント上回っていた。では、今回の評価は?
「R1Mは本物のレーシングバイクに乗っているような気がする。スピードは感じないが、途中では本当に速いんだ」とテスター陣は答える。これはヤマハがホンダ同様、コーナーを貪欲に攻められるようにライダーに正確な前輪の感触を提供し、必要とあればラインを任意に調整することも可能としているためだ。この目的のために、R1Mはフルバンクした位置で驚くほど安定しており、足まわりが細かく動いてはいてもシャーシ本体は微動だにしない。ただ、ヤマハは足まわりを組み立てる方法を正確に知っていると思うだけに、ちょっとブレーキが鈍かったのが残念だ。
さて、テスター全員の意見が一致したのがエンジンだ。きちんとしたパンチ力、優れた燃料噴射、スムーズな特性、心地いい重低音サウンド。どれをとっても素晴らしい。もちろん、各気筒90度のクランクオフセットを持つクロスプレーンシャフトは操っていて本当に喜ばしい。コックピットのパワーセレクト(PWR)をポジション2に設定すると、4つのシリンダーは突然の全開入力でもスムーズで柔らかに加速してくれる。驚いたのは実測データで5000〜7500rpmまでのパワーとトルクが今回の中では最も出ていなかったということだ。しかし、ライダーには主観的にそれを感じさせない。なぜならこの領域の大部分がフルバンク状態にいるからだ。
しかも、トラコンやウイリーコントロールといったアシストシステムが、あらゆる速度で優れた働きをする。特にウイリーコントロールは傑出しており、激しい加速でS1000RRのフロントが数cm浮いているような場面でも、R1Mは路面に触れるか触れないかほどしか姿勢を崩さない。
そして肝心のラップタイムはと言うと、これが驚いたことにR1Mと新S1000RRは、まったくの同タイムを記録した。実測パワーでは17psもの違いがあったが、それをものともしない完成度はさすが。今回もヤマハとBMWは容赦のない戦いを、我々の前に繰り広げて見せてくれた。
YZF-R1Mのディテール
丸山浩のミニインプレ:これぞまさしくザ・レーシングマシン
跨った瞬間から「シロートお断り」感を隠そうともしないスパルタンなモデル。トラコンやオートシフターなど電子制御は車体に無駄な動きを一切起こさせず、ひたすらマシンを前に前にとタイムを削ることに専念させる実戦的な方向性を持つ。電子制御サスの設定メニューは2018年モデルから対話型で分かりやすくなっている。
テストはドイツの「PS」誌が敢行! テストを行ったのは、最新スポーツバイクを中心に扱うドイツのナンバー1バイク月刊誌の「PS」。我々ヤングマシンのように実測テストで白黒つける妥協のない本格ガチンコテストが誌面作りのモットーで、今回もスーパースポーツ世界選手権ライダーの“ケリー”ことクリスチャン・ケルナーをメインテスターに熱い戦いを誌面で繰り広げた。
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