多様化しつつある近年のネオクラシックモデル。様々なモデルが生まれる中、変わらぬ存在感で中核に居続けるのがトライアンフのボンネビルシリーズだ。その“本流”T120と、派生車のスピードマスターに試乗した。
【ボンネビルT120】味わい深く、個性的
ボンネビルシリーズのフラッグシップらしい風格を感じさせるデザインだ。 水冷並列2気筒1200ccエンジンは、回してパワーを絞り出すより路面を蹴り出すトルク重視の出力特性が与えられ、加えて270度クランクを採用することでバーチカルツインらしいコブシの効いた鼓動が感じられて楽しい。
空冷の先代ボンネビルシリーズは 360度クランク(一部に270度クランク車もあり)の採用による控えめな鼓動感とスムーズな回転フィールが持ち味だったが、トライアンフのバーチカルツインらしい鼓動感では新型の方が強い主張を持っていると言える。
ボンネビルシリーズは全体的にオールドトライアンフを彷彿させるクラシカルなデザインが特徴だが、特にT120はタンクのエンブレムやアマルキャブレター風FIカバー、ピーシューターマフラーなど古き良き時代のボンネビルを強く印象づけるスタイリングだ。その本物感はトライアンフだから成せる技と言っていい。
何故なら今人気のネオクラシックモデルの起源を辿れば、その多くが‘50〜60年代の英国車につながるからである。その代表作が‘59年に登場した初代ボンネビルT120であり、世界最高速記録を樹立した米国のボンネビル・ソルトフラッツの地名に由来していることはあまりにも有名だ。
というとオールドファッションなモデルと勘違いされやすいが、中身は最新マシンである。スロットル・バイ・ワイヤによって電子制御化されたエンジンは出力特性を切り替えられるパワーモードやトラコン、ABSを搭載し、セル一発で目覚めて極低速から安定したアイドリングを刻む。
スロットルを開けると豊富なトルクによってよどみなく加速し、吹け上がりも非常にスムーズだ。3気筒シリーズのような高回転での伸び切り感はないものの、大排気量のメリットを生かし、低速域での加速力は765cc3気筒のストリートトリプルをも凌ぐかもしれない。
ハンドリングは一言で言うと安定志向である。フロント18インチと通常よりひと回り大きな前輪が付いていて、しかもワイヤースポークホイールと言うこともあり前輪の動きはまったりしている。フロントに手応えがあり倒し込み、切り返しなども比較的鷹揚だ。言い換えれば大排気量バーチカルツインらしく、落ち着いた威風堂々の走りを楽しめるわけだ。
【スピードマスター】軽快な英国流スポーツクルーザー
一方のスピードマスターだが、T120と車重はほぼ同じだが、60mm長いホイールベースと低い車高、前後インチの小径ホイールの組み合わせなどにより、ハンドリングは意外にもクイック。見た目はリジッドフレームっぽいが実はリンク式モノショックを備え乗り心地も良いなど、見た目によらずというか面白い部分を持つ。
エンジンはT120と基本的には同じだが、低中速寄りにチューニングされ、排気音も図太くパルスもより強調された感じだ。スピードマスターのベースとなったボンネビルボバー(ホイール径は前19/後16インチ)に比べても、前輪の小径化とダブルディスク化などで結果的にスポーティな走りが可能となっている。
特に試乗日はハーフウェットだったため、重心位置が低く車体の長いスピードマスターは安心感があり、T120と乗り比べても、ある程度の速度域までは遜色ないコーナリングを楽しめる。どっかりとシートに腰を据えてお尻の重心移動で曲げていくクルーザーらしいスポーツテイストがまた気持ちいいのだ。
加えてリヤシートを装備しハンドルも手前に引かれたスウェップドバックスタイルを採用しているため、快適にタンデムツーリングも楽しめる。ちなみにボバーはソロ仕 様である。つまり、ボバーシリーズの中では快適で実用性も高く、ハンドリングも軽快なスポーツクルーザーとして仕上げられているのだ。
かつて世界を席巻したボンネビル伝統のスタイルこそ英国車の本流と思うのであればT120で決まりだし、旬感のあるボバースタイルでお洒落に街を流し、郊外まで足を延ばしたい人にはスピードマスターもおすすめだ。速く走れと急かされることもないし、人と競うこともない。気高く誇りを持った自分でいられるモーターサイクル、それがボンネビルなのだ。
●文:ケニー佐川 ●写真:山内潤也
※この記事はヤングマシン2019年1月号に掲載されたものです。
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