兄弟車でお見事な作り分け!

新型クロスカブ110/50徹底比較試乗インプレ

2月23日の発売開始以来、セールス絶好調の新型クロスカブ兄弟。気になるのは110(税込33万4800円)と50(税込29万1600円)で走りと装備にどんな違いがあるのかという点。見た目には「同じじゃないの?!」思われそうな2台だが、実は排気量とタイヤサイズの違いによって見事にキャラクターが作り分けられているのだ。ヤングマシンが誇る鉄壁テスター・大屋雄一氏による徹底比較レポートをお届けしよう。

「街乗りかツーリングか」でターゲットが異なる2台

堅調なセールスを記録していたホンダのクロスカブ(110)がモデルチェンジし、レッグシールドを省略したシンプルなフレームカバーを採用するなど、元ネタとなった往年のハンターカブのスタイリングにより近づいた。注目すべきは、原付一種モデルが弟分として追加されたことだ。しかも単なる排気量ダウンではなく、ホイールを17インチから14インチへと小径化しているのだ。カブシリーズで14インチといえば、郵政カブやリトルカブなどで実績のあるホイール径だが、それにしてもなかなかに興味深い試みだ。

パワフルさと安定性の110

まずは110から。109㏄の空冷4スト単気筒は先代と同じ8.0㎰を発揮する。シーソー式のチェンジペダルは前を踏み込むごとにシフトアップするという、いわゆる逆シフトに近いものだが、これは初めての人でもしばらく乗っているうちに慣れてしまうだろう。1速に入れてスロットルを開けると、自動遠心クラッチがつながり発進する。その加速は低回転域から力強く、高回転域までフラットに伸びていく。幹線道路の速い流れをリードできるほどではないが、急な上り勾配で不足を感じないほどのパワーがある。

ハンドリングは、スロットルのオンオフやブレーキングで車体がスムーズにピッチングし、それをきっかけに倒し込めるなど、カブというよりもトレール車のそれに近い。17インチホイールは旋回力と安定性のバランスが絶妙で、しなやかな角断面バックボーンフレームとの相性も優秀だ。新型から採用されたIRCのセミブロックタイヤは、路面温度が低い状況でも接地感が高く、安心して走ることができた。

50の魅力はコンパクトなライポジと旋回力の高さ

続いて50に乗ってみる。またがってすぐに感じるのは、目線の低さとライポジのコンパクトさ。足着き性も優秀で、取り回しは50に軍配が上がる。49㏄の空冷4スト単気筒は最高出力3.7㎰を公称する。1速はすぐに吹けきってしまい、2速へシフトアップしたときのショックが大きいなど、非力さに起因するであろう問題はあるものの、それでも柔らかい排気音と牧歌的な加速フィールは50の持ち味だ。

ハンドリングは、110ほどサスストロークは長く感じないものの、旋回力は17インチの110よりも明らかに高い。郵政カブが狭い路地でくるりと向きを変えるのを何度も目撃しているが、なるほど14インチだからこそそれがしやすいのだろう。シートのウレタンが薄いこともあってか、110よりも大きなギャップを通過したときの突き上げ感が大きめだが、街乗りなどの短距離移動であれば特に不満はない。

原付一種は法定速度が30㎞/hなので、50の方は低い速度域での小回りのしやすさに特化。一方、110はそれより上の速度域での安定性を重視しており、これならロングツーリングも楽しめそう。この2台、コンセプトの違いが明確で、免許の種類はもちろん使い方によって選ぶのがいいだろう。

110の特権は2人乗り

110の乗車定員は2名。つまり法律的にはタンデムが可能なのだが、ご覧の通りリヤシートは存在せず、パッセンジャーはリヤキャリヤへ直に座ることになる。これではさすがに長距離はつらいので、本格的にタンデムするのであれば、アフターマーケットで出回っているダブルシートに換装することをお勧めする。実際にパッセンジャーを乗せてみての印象は、大きく後ろ下がりになるものの、車体の剛性的にはあまり不足を感じない。また、エンジンパワーやブレーキ性能についても必要にして十分で、タンデム目的で110を選ぶのも悪くないと思った。

CC110は’18年モデルからスイングアームにタンデムステップが装着され、2人乗りが可能となった。
タンデム時には座面となるリヤキャリア。長距離移動時では硬さが気になるため、スーパーカブ用のダブルシートに換装することが勧められる。

現実的な使い方に即して50と110を作り分ける

モデルチェンジを機に弟分の50を追加したクロスカブ。この機種としては初の原付一種モデルだが、モチーフとなったハンターカブ(CT)シリーズを遡ってみると、1968年、ちょうど50年前にCT50が発売されている。

異なるのは排気量だけでなく、その他についても差別化が図られている。最たるものが前後ホイール径で、110がごく一般的な17インチなのに対し、50はスーパーカブ・プロシリーズやリトルカブと同じ14インチを採用する。さらに、足着き性のいいシートや幅の狭いハンドルなど、小柄なライダーでも扱いやすいようにライポジも110と50とでは違うのだ。

なお、110に乗るには小型限定以上の二輪免許が必要だが、自動遠心クラッチなので、マニュアルミッションながらAT限定でもOKなのだ。つなり、ギヤ付き入門車としてもクロスカブは魅力的な機種と言えるだろう。

(テスターは身長175cm・体重65kg)

110は目線からして50とは別物

110はシート高が784㎜とやや高めで、しかも座面がフラットなので、足着き性は身長175cmのライダーでかろうじて両カカトが接地する程度だ。ただ、車重が106㎏と軽く、片脚だけでも楽に車体を支えられるので問題なし。ハンドル幅は50よりも50㎜ほど広く、グリップ位置も高め。背筋が伸び気味となり、どっしりと座る50に対し、110は操縦性を重視したライポジが形成される。タンデムについてはパッセンジャーがリヤキャリヤに座ることになるので、工夫しないと快適には走れないだろう。

50はコンパクトで足着き性も優秀

前後ホイールをスーパーカブ・プロと同じ14インチとしたクロスカブ50。最低地上高は110より26㎜低く、さらにウレタンの薄いシートを採用することで、座面の高さは44㎜も低い740㎜を公称する。同じく前後14インチのリトルカブが705㎜なので極端に低いとは言いがたいが、脚を下ろしたときに内股が干渉する部分を斜めにシェイプしているので、110との足着き性の差は歴然。さらにハンドル幅は110よりも狭く、グリップ位置も低いので、ライポジはご覧のように非常にコンパクトにまとまめられている。

各部の違いと共通点

どちらも空冷4ストSOHC2バルブ単気筒で、ボアとス トロークの両方を変えることで2種類の排気量を設定。変速時のショックを緩和する2段クラッチは湿式多板ダイヤフラムスプリング式だ。スーパーカブと同様にオイルフィルターをメッシュ式からカートリッジ式として整備性を向上。
110は先代の17インチを継承しつつ、標準装着タイヤの銘柄をチェンシン製からセミブロックのIRC製GP-5に。さらにリムとハブをブラックで統一した。50はスーパーカブ・プロと共通の前後14インチで、こちらもIRC製のタイヤを装着。メッキリムとシルバー仕上げのハブを採用する。
ブレーキは両モデルとも前後ドラム。リヤショックのスプリングやチェーンケースの塗色が異なるほか、110のスイングアームにはタンデムステップが付く。さらに110については、チェーンを先代からサイズアップしたり、リヤフェンダーの先端にマッドガードを追加するなどしている。
NBC110 ポスティと共通だった先代のバーハンドル。 110は日本人向けに高さを最適化し、幅も狭められた。50 はさらに高さを抑え、幅も狭くなっている。スイッチボックスは110が先代と共通なのに対し、50は右側にウインカースイッチ(非プッシュキャンセル式)があるので慣れが必要。
メーターはスーパーカブ・プロ用をアレンジして流用したもので、ハウジングは先代から継承しつつ、パネルをカモフラージュ柄とするなど見た目を一新。指針式の速度計は110が120㎞/h、50は60㎞/hを上限とし、その下に燃料計をレイアウト。レッドラインの境目での残量は約1.37ℓだ。
両モデルで厚みと形状が異なるシート。50はウレタンがやや薄く、さらにサイドを斜めにカットすることで足着き性を大幅に向上。シートは前方のヒンジを支点に起こすことができ、その下の燃料タンクへとアクセスできる。車体の左側にはプッシュ式のメットホルダーを設置している。
ステップバーは50の固定式に対して、110はオフロードイメージを演出するべく可倒式とされる。さらにバーの長さとラバーのデザインも異なる。110についてはオーストラリアで販売されているNBC110ポスティとステップステーが共通のため、右サイドスタンド用の取り付け穴が残る。
ヘッドライトは35W/35Wのフィラメント球から、省電力かつ長寿命なLEDに。ロービームで上半分が、ハイビームで全てが点灯する。なお、これ以外の灯火類はフィラメント球を継続。タフなイメージを演出するヘッドライトガードは、フロントキャリヤとしても使えそうなデザインに。
’12年にスーパーカブのフレームが鋼板プレスから角断面バックボーン式となり、翌’13年登場の先代クロスカブもこれを踏襲。新型は両車でキャスター角とトレール量が異なる(110:27度/78㎜、50:26度30分/57㎜)。脱着可能なセンターカバーが大きくなり、整備性がアップ。
先代にはなかった脱着式サイドカバー。右側(写真左)にはECUなどの電装系パーツが集約されており、整備性に配慮。左側(写真右)は書類入れで、ここにヒューズプラーを収納。なお、センターカバーを外すとバッテリーにアクセスでき、その上部に差し替え式ドライバーが収まる。

●文:大屋雄一 ●写真:飛澤 慎

主要諸元(リリースより)

■道路運送⾞両法による型式認定申請書数値(★の項⽬は Honda 公表諸元)
■製造事業者/本田技研工業株式会社
※1 燃料消費率は定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞など)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります
※2 定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です
※3 WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます
※4 走行中はリターン式で、停車時のみロータリー式になるチェンジ機構です

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