
キャルルック、バハバグ、ついでにラブバッグなんてワードに聞き覚えのある方はビートル好き、あるいはカスタムファンに違いないでしょう。とかく、初代ビートルはカスタムベースとして人気があったもので、さまざまな流儀、スタイルが生まれています。が、「その手があったか」と膝を打つのが、今回ご紹介するストレッチリムジン。アメリカの底力をまざまざと見せつける、すばらしい完成度です。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
目論見が大成功、ギネス級の生産台数を誇る初代
フォルクスワーゲンの初代ビートルはご承知の通り、ドイツの「国民車」として第二次大戦中にフェルディナンド・ポルシェ博士が設計したクルマ。
戦後は国内のみならず、外貨獲得を目論んで積極的に輸出、あるいはノックダウン生産されたのですが、ターゲットは無論のこと北米でした。この目論見は大成功して、2200万台といわれるギネス級の生産台数のうち、大半が北米と南米で占められているとのこと。
大量に出回っていて、しかも安くて丈夫なクルマとなると、世の中にはカスタム魂に火がついちゃう方が発生することご想像の通り。
で、1960年代になると上述のようなキャルルックや、タミヤのラジコンでお馴染みのバハバギーといったスタイルが生まれたほか、ディズニー映画「ラブバッグ」に出てきたハービーのようなオールドスタイルも流行したわけです。
そんな流行に目を付けたのか、新興のフォルクスワーゲン・ディーラーが「いっちょスゴイの造っちゃれ」とばかりにカスタムをオーダー。これを委託されたのが、知る人ぞ知るレーシングカーファクトリー「トラウトマン・バーンズ」だったのです。
1969年モデルのビートルをベースに、レーシングファクトリーが大胆にもストレッチリムジンを製作。ランボルギーニ・ミウラが2万ドルで買えた当時、3万5000ドルのプライスで販売!
エンジン&シャーシのチューンナップも抜かりなし
彼らはシャパラル、スカラブといったアメリカのレーシングシーンでは伝説のマシンを製作していたばかりか、ビートルリムジンの前年にはポルシェ911の4ドア仕様まで作り上げていたのでした。
また、トラウトマン・バーンズで忘れてならないのは、カスタムボディに長けているだけでなく、エンジン&シャーシのチューンナップも抜かりのないところ。ビートルリムジンはホイールベースが40インチ(約100センチ)、ボディ全長は5mほどに延長されており、また豪華なインテリアを含めればかなりの重量増。
となると、さすがにトルクがあると評判のフラット4エンジンも1500ccでは役不足でしょう。彼らは1600ccユニットに換装し、またフラット4エンジンでは定番のウェーバーキャブを採用しています。
全長は5m超え、ホールベースは1mもの延長がなされたリムジン。とはいえ、スタイリングはまごうことなくビートルのままというのがデザインの偉大性を感じさせます。
「ロールスワーゲン」とも記された豪華インテリア
豪華なインテリアといえば、庶民派ビートルとは思えないカスタムがなされていることにもご注目。
運転席とリヤコンパートメントは電動の仕切りがついているのをはじめ、マホガニーと高級なモケットをふんだんに使った室内はキャデラックやロールスロイスにも引けを取らないもの。発注元のディーラーは、あえて「ロールスワーゲン」と広告に記したほど。
これだけリッチ&ゴージャスなリムジンにハリウッドスターが目をつけないわけがありません。
アメリカの親父とも称されるジョン・ウェインは、アカデミー賞の送迎を皮切りに、映画「トゥルーグリッド」でオスカーを受賞した際もビートルリムジンで会場に現れたのだとか。
リヤコンパートメントもさすがに広くて使いやすそう。マホガニーのダッシュボードをはじめ、そこかしこに贅沢な素材、造作がなされています。
ショーファードリブンの伝統にしたがって、運転席は「丈夫な」レザーシート。後席の肌触り良さげなモケットとは違い、無骨な仕上がり。
タイプ1らしくフラットなスクリーン。ルーフ上のランプは当時のリムジンが装備していた「要人乗車中」を示すものでしょうか。
下手な”ミウラ”を凌ぐプライスに!
お伝えした通り、ビートルリムジンはディーラーによる発注だったためか、店頭で販売されました。当時のお値段は3万5000ドルで、同時期のランボルギーニ・ミウラが2万ドルだったことを考えると破格なもの。
それでも、ジョン・ウェインの親友だったという人物が購入して2000年代初頭まで所有していたとか。
ちなみに、先日のオークションでの指し値は33万5000ドル(約5000万円)と、当時の勢いそのまんま! 下手なミウラを凌ぐプライスではないでしょうか。
重量増しに対応すべく、1500から1600へとスワップされたエンジン。さらに、ウェーバーのキャブを追加し、カスタムマフラーが採用されています。
当時のワーゲンディーラーが作った広告には誇らしげなショーファー(運転手)が傍らに立ち、3万5000ドルという驚きの価格をキャッチフレーズにしていました。
伝説的なファクトリー、トラウトマン・バーンズが1968年に製作した4ドア911。よく見れば、リヤドアは後ろヒンジなのでサイドは観音開きになっています。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(自動車/クルマ)
1903年以降、ナンバーはずっと使い続けることができる英国 ナンバープレートがオークションなどの売り物になること、じつはイギリスではさほど珍しいものではありません。 イギリスでは一度登録したナンバーを[…]
7.3リッターとなる心臓部はコスワースがカスタマイズ 今でこそアストンマーティンの限定車はさほど珍しくもありませんが、2000年代初頭、すなわちフォード傘下から放り出された頃の彼らにとってスペシャルモ[…]
【フェラーリ F40】?! スペチアーレといいながら、400台限定が最終的には1352台(諸説あります)もロールアウトしたF40。ですが、最強で最速の棺桶とあだ名されたほど事故が多いクルマで、現存台数[…]
注目RCブランドが名車を忠実に再現 「WPL JAPAN」は、森林や岩場などの悪路を走破できるスケールクローラーRCを展開するRCカーブランド。 通常は高額なスケールクローラーを、すぐに遊べるRTRセ[…]
伝説の始まり:わずか数か月で大破した959 1987年11月6日、シャーシナンバー900142、ツェルマットシルバーの959はコンフォート仕様、すなわちエアコン、パワーウィンドウ、そしてブラックとグレ[…]
最新の関連記事(YMライフハック研究所)
お風呂やシャワーを怠ることは「こりの重症化」の原因に? ピップエレキバンシリーズで知られるピップ株式会社が今回実施した調査によると、季節問わず、仕事や勉強で疲れたり時間がない等の理由で、ついお風呂やシ[…]
「CW-X」と大谷翔平選手が“挑戦する人”を応援 本プロジェクトは、“挑戦する人”を応援したいと考える「CW-X」と大谷翔平選手が共同で企画。大谷選手も愛用する[ボディバランスアップタイツ]約5000[…]
1903年以降、ナンバーはずっと使い続けることができる英国 ナンバープレートがオークションなどの売り物になること、じつはイギリスではさほど珍しいものではありません。 イギリスでは一度登録したナンバーを[…]
7.3リッターとなる心臓部はコスワースがカスタマイズ 今でこそアストンマーティンの限定車はさほど珍しくもありませんが、2000年代初頭、すなわちフォード傘下から放り出された頃の彼らにとってスペシャルモ[…]
【フェラーリ F40】?! スペチアーレといいながら、400台限定が最終的には1352台(諸説あります)もロールアウトしたF40。ですが、最強で最速の棺桶とあだ名されたほど事故が多いクルマで、現存台数[…]
人気記事ランキング(全体)
空冷エンジンのノウハウを結集【カワサキ GPz1100[ZX1100A]】 航空機技術から生まれたハーフカウルとレース譲りのユニトラックサスを装備。デジタルフューエルインジェクション効果を高めるために[…]
月内発売:SHOEI 「GT-Air 3 AGILITY」 優れた空力特性とインナーバイザーを兼ね備えたSHOEIのフルフェイスヘルメット「GT-Air3(ジーティーエア スリー)」に、新たなグラフィ[…]
背中が出にくい設計とストレッチ素材で快適性を確保 このインナーのポイントは、ハーフジップ/長めの着丈/背面ストレッチ素材」という3点だ。防風性能に特化した前面と、可動性を損なわない背面ストレッチにより[…]
「特殊ボルト」で困ったこと、ありませんか? 今回は「でかい六角穴のボルト」を特殊工具なしで外してみようというお話。 バイクを整備していると時々変なボルトに出会うことがあります。今回は古い原付オフロード[…]
点火トラブルって多いよね 昔から「良い混合気」「良い圧縮」「良い火花」の三大要素が調子の良いエンジンの条件として言われておりますが、それはそのまま調子が悪くなったバイクのチェック項目でもあります。その[…]
最新の投稿記事(全体)
ヤマハXJ400:45馬力を快適サスペンションが支える カワサキのFXで火ぶたが切られた400cc4気筒ウォーズに、2番目に参入したのはヤマハだった。FXに遅れること約1年、1980年6月に発売された[…]
手軽な快速ファイター 1989年以降、400ccを中心にネイキッドブームが到来。250でもレプリカの直4エンジンを活用した数々のモデルが生み出された。中低速寄りに調教した心臓を専用フレームに積み、扱い[…]
軽さと剛性を両立する“TECCELL”構造を採用 TRV067の最大の特徴は、採用されている素材と構造にある。使用されているのは、ポリプロピレン樹脂を特殊な連続成形技術で成型したハニカム構造のコア材・[…]
Eクラッチと電子制御スロットルが初めて連携する750シリーズ ホンダが欧州2026年モデルの5車にEクラッチを新搭載。これまでにミドル4気筒の「CBR650R」「CB650R」、250cc単気筒の「レ[…]
マイノリティ好きにはたまらない2スト250で3気筒、走りに刺激はなかったけれど海外でもファンが少なくなかった! カワサキが世界進出の勝負球として、500ccで2ストローク3気筒のマッハIIIをリリース[…]
- 1
- 2









































