
傷ついたピストンとシリンダーをオーバーサイズピストンで修理して、いよいよ街乗りデビューとなった、『モトメカニック』編集部入庫中の初期型ヤマハ チャピィ。だが、スロットル開け始めのフィーリングがイマイチ。そんな時はキースターの燃調キットでと思いきや、ラインナップの中に初期型用キットがないなんて!! そこで恐る恐る相談してみたところ…。
●文/写真:モトメカニック編集部(栗田晃) ●外部リンク:岸田精密工業
初期型チャピィ用燃調キットがないのでキースターにお願いした
井上ボーリングで注文したTKRJピストンで腰上は新品同様となったものの、新車発売時のスペックどおりピッタリ50km /hで頭打ちとなる、初期型ヤマハ チャピィ(コンマ75mmオーバーピストンで51.75ccになるので、ナンバーは黄色です)。
そんなバイクならキャブセッティング云々など関係ない、というのは間違いだ。大した加速力でなくても、スロットル開け始めでライダーの意志とズレてもたつき、交差点の立ち上がりでエンジンが一瞬息をつくだけでリズムが崩れてしまう。
そんなわけで、純正キャブのオーバーホールとセッティングをしようと、絶版車用キャブの救世主であるキースターのホームページに行ってみると、なんと初期型チャピィ用の燃調キットが設定されていない!!
2023年現在、初期型チャピィ用キットのことを訴えているのは世界で私ひとりかもしれない。だが、1977年以降モデル用があるのに、1973〜1976年用が存在しないのは合点がいかない。私ひとりだけかもしれないが…。
ちなみに、チャピィよりも遙かに長期間に渡り販売され続けたスーパーカブ用は8種類(燃料コックパッキンの有無も含む)、モンキー用も5種類(ゴリラ用も含む)の燃調キットをラインナップしている。それに引き替え、チャピィは後期用キットしかないとは…。
はっきり言って面倒くさいオジサンでしかないが、全国何台かの初期〜中期チャピィユーザーを代表してキースターさんに直訴せねばなるまい。そんな妙なテンションに圧倒されたのか、チャピィユーザーのポテンシャルに期待されたのか、なんと初期型用キットを製品化してくださったのだ。
事前検討用に私のキャブを貸し出して各部のデータを採取し、既存部品で対応できる部分と新規製作となる部品を開発されたようだが、ともあれ燃調キットが製品化されたのは喜ばしいかぎり。
燃調キットのラインナップに新たに加わった初期型チャピィ用は、他のキットと同様、3サイズのパイロットジェット/6サイズのメインジェット/4サイズのジェットニードルによるセッティング変更が可能で、オーバーホールで重宝するガスケット/フロートバルブシート/ニードル/スタータープランジャーがセットされた充実の内容。これで税込4400円はバーゲンプライスだ。
肝心のスロットル開け始めの違和感については、どうやらこれまでが若干薄かったようで、エアースクリューを若干絞ったことでツキが良くなり、一瞬失速するような症状が改善された。また、スタンダードサイズのままジェットニードルのクリップ段数を一段下げたところ、スロットルに対するツキは良いが回転上昇のシャープさが若干鈍く、多少濃くなっているような気もする。
セッティング変更に対する変化が分かるので、濃く振ったり薄く振ったりする中で全体的に納得できるよう調整していこうと思う。それもこれも燃調キットを製品化してくれたキースターさまのおかげ。もう同社のある兵庫県尼崎市方面には足を向けて寝られません。
キャブセッティングが薄めだと、回転上昇はシャープだがパワー感が希薄で、濃くなるとパンチ感か出るが伸びが悪くなる。パワーが少ない原付だから違いが分かりやすい。
(左)ダウンチューブの狭い隙間に押し込まれた純正キャブは、外すにも付けるにも4気筒車とは異なる苦労がある。ジェットやニードル変更で着脱を繰り返すのはなかなか面倒だ。(右)新規設定された初期型チャピィ用燃調キット。メディアのゴリ押しかと誤解されるかもしれないが、こうしたユーザーからのリクエストで製品化されるキットもあるそうだ。
初期型ならではの単胴フロート用キットでセッティングもオーバーホールもOK
1973〜1976年式チャピィのキャブレターは、幅の狭いフレームに合わせて単胴タイプのフロートを採用。手前に並べてあるのが、燃調キット内のジェットやフロートバルブ周り。
ワニス化したガソリンがジェットやスターターパイプに付着しており、フロートチャンバー内にガソリンが残ったまま不動車となったことを物語る。純正メインジェットは#100。
オーバーホールパーツとして役立つのが、フロートバルブとバルブシート。バルブシートに緑青が発生すると、フロートが上昇しても密閉不良を起こすことがあるからだ。
ニードルジェット/メインジェット/バルブシート周りを燃調キットパーツに交換。この状態で復元して、スロットル全開でしばらく走行すると、ガス欠状態になってしまう。
純正部品と燃調キットのニードルバルブの長さを比較すると、燃調キットの方がいくらか長い。これではフロートの調整板を押してフロートが下がり、油面が低くなってしまう。
フロートが下がりチャンバー内の油面が低くても、低中速で走行する分には良いが、全開で走り続けるとガソリン不足になる。そこで調整板を曲げて油面を上げてやる。
フロートレベルデータが分かる場合はそれに従い、データがない場合、大半のキャブはボディ下面と調整板を平行にすれば、チャンバー内油面が正しくなることが多い。
低開度領域の混合気が濃くなる場合、スタータープランジャーに原因があることがある。チョークレバーを操作するとプランジャーが引き上げられ、濃いガソリンが吸入される。
経年劣化でプランジャー端面のガスケットが変形すると(左)、通路が閉じきらず、ガソリンが流れて濃くなってしまう。キットの新品プランジャーを使えば漏れがなくなる。
リンクレバー式キャブを採用することで、ワイヤー引き上げ式より全高を低くできるため、フレームカバーとのクリアランスに余裕ができる。ただし構造はワイヤー式より複雑。
ジェットニードルを交換する際は、ボディからスロットルシャフトを引き抜き、スロットルバルブからリンクレバーを取り外す。ワイヤー引き上げ式に比べて交換作業の手間は多い。
このキャブのスロー系はエアースクリューで調整する。純正データでは1&1/2回転戻しで、それより1/4ほど締め込み濃くすることでパンチ感と回転落ちの良さが両立した。
スロットル全開で発進して20km/ hぐらいで2速に上がると、その先は50km/ hまでダラダラと速度がアップする。キビキビ走るためにはスロットルは常に開け気味になる。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
バイクいじりの専門誌『モトメカニック』のお買い求めはこちら↓
あなたにおすすめの関連記事
ホイール/エンジンカバー/金属部品への施工に特化。熱硬化性一液ペイントの決定版「アレックスコート」 ディープなサンデーメカニックの中には、DIYペイント作業にこだわり、焼き付け乾燥が可能な高温乾燥機を[…]
入手困難な旧車のパーツをクラウドファンディング 「群衆/Crowd×資金調達/Funding」という言葉を組み合わせた造語が「クラウドファンディング」。インターネットやSNSを通じて、不特定の賛同者に[…]
サンメカ御用達高性能ケミカルに注目 クロームメッキは樹脂や塗装より硬い金属だが、想像以上に簡単に傷が付くことがある。またメッキ面は平滑なように見えるが、目に見えない極小サイズの穴やクラックが無数に存在[…]
コンパクトでハイパワーな18Vブラシレスモーターを搭載 デウォルト(DEWALT)の電動インパクトドライバーは、他の同社製ツールと共通の18Vバッテリーとブラシレスモーターの組み合わせで、190Nmの[…]
絶滅危惧種・2サイクルエンジンの心強い味方 エンジンに限らず、様々な部分にメンテナンスが必要な低年式モデル。たとえば、ホイールハブベアリングにガタがなかったとしても、旧グリースを洗い流して新しいグリー[…]
最新の関連記事(メンテナンス&レストア)
初心者向けの溶接機は? 「初心者ですが、溶接機は何を買えばいいでしょうか?」そんな質問をいただくことが、最近増えています。折れたステーの修理から始まり、フレーム補強やスイングアーム自作、極めつけがフレ[…]
赤サビの上から直接塗って黒サビに転換。愛車を守るBAN-ZIのラストロックシステム 【RUSTLOCK(サビ転換下処理剤)サビキラープロ】赤サビの上から直接塗ることで黒サビに変化する転換剤機能と、上塗[…]
熱膨張率の均一化によって様々なアドバンテージがある 2ストローク/4ストロークエンジンを問わず、エンジン性能を向上するためには様々な課題や問題がある。特に大きな課題は、“熱膨張率”に関わる問題だ。 「[…]
「消えないブレーキランプ」は他人ごとじゃない 街中をバイクで走っていたところ、前を行くスクーターのブレーキランプがなんか明るいな~と思ったら、どうやら点灯しっぱなしになってるぽかったのですよ。 毎度乗[…]
クニペックス製と瓜二つ!? アストロプロダクツの新製品「プライヤーレンチ」 ボルトやナットの2面を隙間なく掴める、平行に移動するジョー、グリップを握る力が増力される独自のジョイント構造、全長に対して著[…]
人気記事ランキング(全体)
ミニカーとは何かがわかると登録変更のハードルもわかる まず「ミニカー」とは、法律上どのような乗り物として扱われるのか、基本的な定義から押さえておく必要がある。実はこれ、道路交通法上では「普通自動車」扱[…]
昭和レトロの世界が広がる神奈川県『中古タイヤ市場 相模原店』 昭和の夏休みって、どんなでしたっけ? 朝はラジオ体操に行って、午前10時頃からは仮面ライダーやウルトラマンの再放送。昼は学校や地域のプール[…]
2025年6月16日に83歳になったアゴスティーニのスペシャル仕様 MVアグスタは欧州で、同ブランドが2025年で創立80周年を迎えるとともに、Agoことジャコモ・アゴスティーニ氏が83歳の誕生日を迎[…]
ガレージで眠っているマシンを引っ張りだそう! 今後の展開も期待されるポテンシャルの高さが魅力 コンストラクターの手によるオリジナルフレームを用いたシングル&ツインレースが流行した1990年代、オーヴァ[…]
初心者からベテランまで、老若男女だれもが一日中楽しめる オフロードバイクさえあれば、初心者だろうとベテランだろうと、老若男女だれもが一日中楽しめるフリーライドイベントとして企画されたのがエンジョイライ[…]
最新の投稿記事(全体)
冷たさが最大16時間続く、ピーコックの持ち運べる氷のう 炎天下の休憩で火照った体を一気にクールダウンさせたい。そんな時におすすめしたいのがピーコックの「アイスパックシリーズ」だ。 アイスパックは、創業[…]
初心者向けの溶接機は? 「初心者ですが、溶接機は何を買えばいいでしょうか?」そんな質問をいただくことが、最近増えています。折れたステーの修理から始まり、フレーム補強やスイングアーム自作、極めつけがフレ[…]
8月上旬発売:Kabuto「AEROBLADE-6 ADACT」 軽量コンパクトなフルフェイスヘルメットで、99%の紫外線と74%赤外線を軽減する「UV&IRカットシールド」を装備する。これによってヘ[…]
カワサキZ1系:1973~1978 1973 900super4 (Z1) 初期型となる’73年型。北米向けは橙×茶の「火の玉」のみだが、欧州仕様は黄×緑の通称 「イエローボール」も設定。長いリヤフェ[…]
FLHRロードキング[2002年式] ハーレーダビッドソンが1999年に満を持してリリースしたツインカムエンジン。従来(エボリューション)までのワンカム構造を改め、カムシャフトを2本配置。伝統のOHV[…]
- 1
- 2