インドで鍛えられるロイヤルエンフィールド

インドの交通社会はラクダ、牛、犬との共存……【ロイヤルエンフィールド スーパーメテオ650で行くインドツーリング】

2022年の8月、僕は人生で初めてインドの地に立った。モトヒマラヤ2022というロイヤルエンフィールドが開催しているヒマラヤ(バイク)でヒマラヤ(秘境)を走る旅に参加したのだ。これまでヨーロッパを中心にいろいろな国を走ったが、僕にとってインドほどインパクトのある国はなかった。そして2023年1月に再びインドを訪問。こんな短期間で2回も訪れるとは思いもしなかった。


●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:長谷川徹、ロイヤルエンフィールド ●外部リンク:ロイヤルエンフィールド東京ショールーム

クラクションを聞くと「インドに来たなぁ」と実感

2023年の1月8日、EICMA2022でロイヤルエンフィールドが発表したスーパーメテオ650(インプレはこちら)の試乗会に参加するため、僕はインドに戻ってきた。前回と違って旅の準備は少なかった。ビザは2022年に取得したものがまだ使えたし、A型肝炎や腸チフス、破傷風の予防接種も前回済ませてある。新型コロナウイルス関連は、出発直前に新たな規制が入ったため、日本出国72時間前の陰性証明書が必要だったというぐらいだ。

インドに到着したら、毎食カレー。用意されているカレーは全種類食べる。ウエイターが「辛いけど大丈夫?」と聞いてくれることもあるが、すべてチャレンジ。インドやタイの方が「俺たちでも辛いぞ……」と言うカレーや炒め物も全部食べてみる。あまりに辛さに15分ほど思考が停止することもあったが、海外では現地の食事を楽しみたい。

8月はデリー到着後、入国に2時間かかったが、今回は20分ほど。手の指紋も8月はすべての指をスキャンした(しかも感度が悪くて何度もモニターを拭くように言われた)が、今回は右手の親指のみ。とてもスムーズだ。

デリーの空港からホテルまではタクシーで移動。相変わらず街中はホーンが鳴り響く。この音を聞くと「インドに来たなぁ」と強く感じた。

車間は近く、数cmでも鼻先を入れた方が前を行く。できたら自分では運転したくない……。ホテルのゲート前ではガードマンがタクシーのボンネットの中をチェック。ホテルに入る際もすべての荷物をセキュリティチェックに通すのがインド流だ。

この日はデリーに宿泊して、翌日にラジャスタン州のジャイサルメールという街に移動する。

初日はインドの交通事情に慣れるのが目的

翌朝、再びデリーの空港へ。空港に入るのも簡単じゃない。1人ずつeチケットとパスポートをチェックするため、時間がかかる。ジャイサルメールへのフライトは1時間30分ほど。空港には売店も何もなく、外に出ると砂漠だった。昼夜クラクションが鳴り響く喧騒の街・デリーから、乾燥した砂漠地帯にやってきた。同じ国とは思えないが、これがインドだ。空港からホテルに向かうバスが急に減速。見ると正面に巨大なラクダがいた。「ラ、ラクダ?」と、思わず声が出た。

ちなみにこれは高速道路。1日でこんなにたくさんのラクダを見たのは初めて。近くでみるとちょっと怖い。

バスの窓に流れるのは、砂漠地帯ならではの黄色い景色。バイクはノーヘル3人乗りも当たり前。ほとんどの人がサンダルだ。趣味のバイクは1台もなく、すべて生活のバイクだ。

補修を繰り返したと思われる歪な形をしたレンガの家や、バラックのような集落を抜けると、突然近代的な建物が出現。そこがスーパーメテオ650のローンチが行われるホテルだった。入り口にはガードマンが立ち、鉄の門がある。

ホテルに到着して一息ついたら、さっそくスーパーメテオ650の撮影だ。ジャイサルメールは、夕方の斜光を受けると黄金に輝くことで有名な砂漠の街。そんな光の中、さまざまなアングルからスーパーメテオ650を撮影する。日差しが強く、動いていると汗は出るがすぐに乾く。喉や鼻の奥も妙に乾燥していく。冬はこんな感じでまだ過ごしやすいが、夏は大変だろう。

この日の夜のプレゼンで、前回のモトヒマラヤ2022の時にアテンドしてくれたアルジェイさんと再会した。明日は彼がアジアのグループを先導してくれるとのこと。「ここでも車を抜くときはホーンを鳴らすの?」と聞くと「毎回鳴らす。毎回だ(笑)」とアルジェイさん。試乗初日は市街地と郊外を70kmほど走り、2日目は300kmほど高速道路を使っての移動だという。

ホテルや休憩ポイントでは歌と踊りで歓迎してくれる。

8月のモトヒマラヤでお世話になったアルジェイさんと久しぶりに再会(左)。ホテルや休憩ポイントでは、おでこにティクリ(ビンディとも呼ぶらしい)をつけてくれた。お寺やお祭りなどでお祈りを捧げる際に塗る神聖な印。自分の属するヒンドゥー教徒の宗派を現し、悪霊から守護する役目もある。また「ありがとう」の意味もあるとのこと。今回の試乗会では2か所でティクリを塗ってもらった。

インドの交通ルールを思い出す

翌朝、外に出ると冬装備が必要な気がした。砂漠の朝は寒いのだ。タイのジャーナリストは冬のバイク用品が自国で売っていないから、スキーショップでグローブなどを調達したらしい。世界中から集まった60名ほどのジャーナリストと多くの開発陣が走るため、試乗会は何グループかに分かれてスタート。日本人的には集合時間の数分前に準備完了。しかし、アルジェイさんに聞くと出発が40分ほど遅れるとのこと。ロビーに戻ってチャイで身体を温める。

予定より遅れてのんびりお茶をした後に、ようやく排気量の割に大柄なスーパーメテオ650に跨り、発進。豊かなトルクがインドの路面を蹴り出す。舗装路も砂が浮き、たまに大きな穴が空いているインドの道路。さらに恐ろしいのはスピードブレーカーという10〜15cmほど高さがあるコンクリートのギャップが所々にあること。徐行せずにこれに乗ると大変なことになる。

ホテルを出て早々にラクダと遭遇。あまりの驚きに目が離せなかった。「これがラクダかぁ……」。今度はヘルメットの中で声が出た。悠然と歩くその姿に、なんだか見惚れてしまった。インドってやっぱり凄い!

牛、ひつじ、やぎ、様々な動物たちと共存するインドの交通事情。とにかく刺激的だ。

驚くのは動物だけじゃない。信じられないほどたくさんの草を詰んだトラックに遭遇。派手なトラックは8月に来た時に運転席を見せてもらったが、寝食できる広さだった。

ここでインドの交通ルールをおさらい

●その1 バイクや車を抜くときはホーンを鳴らして右側から(ホーンは相手への敬意)。
●その2 スピードブレーカーや落石、穴など路面の異変は、指を指したりハザードを出して減速、後続のライダーに伝える。
●その3 ラクダや牛などが現れたときも同様に指を指したりハザードを出して減速、後続のライダーに伝える。

前回インドに来た時もそうだが、インドの交通社会は様々なことと共存しなければならない。まずは動物、そして3人乗りのバイクや巨大な荷物を積んでいる低速走行しているクルマだ。もちろん刻一刻と変わる路面状況にも臨機応変に対応していく。

だから基本的には左右の景色を楽しむ余裕はない。最初は「せっかくのインドだし」と思って左右の景色も見ていたが、常に前方を見て危険を察知しなければならないことを直感的に理解。これは市街地だけでなく、高速道路でも同様だ。

牛、人、トラック、バス、みんなの車間距離が近いのがインドだ。砂漠の街だけに、1本道路を外れると軽い砂地に……。フロントがとられつつもなんとか脱出。

インドで鍛えられるロイヤルエンフィールド

こんな状況だから、ロイヤルエンフィールドの車体はしっかりしているし、耐震対策も万全。サスペンションは衝撃に強く、底付きすることは一度もなかった。スーパーメテオ650は、エンジン、フレーム、そしてサスペンションにコストがかかっていることが乗っていてよくわかる。ここは日本車がコストダウンしている部分だけに、乗り味に大きな差が出る。

ロイヤルエンフィールド初のショーワ製の倒立フロントフォークは、まるでスポーツバイクのような動きを約束。そもそもクルーザーはハンドリングを考えていないバイクも多いが、スーパーメテオ650はスポーツバイク的なコーナリングを披露。正しい操作をするときちんと応え、前後タイヤから伝わるグリップ感もとても高い。

それはコーナリングを楽しんでいると、クルーザーであることを忘れてしまうほど。専用設計されたインドのシアット製タイヤもとても良い。乗り心地とハンドリングを高いレベルで両立している。

またボッシュ製ABSの作動性も抜群。子犬の飛び出しで何度かフルブレーキングしたが、その際の挙動も安心感が高かった。前後サスペンションをギュッと縮めて、車体全体を低く構えて減速してくれるのだ。

ホテルを出て1時間ほど走ると、もう暑い。これが砂漠なのか……。妙に喉が乾く。初めて訪れた砂漠に身体が驚きつつも、喜んでいる気がした。

スーパーメテオ650は、新しいのに懐かしいとても安心感のあるバイク。扱いやすさや馴染みやすさを、最新技術を使って追求しているのがよくわかる。

試乗を終えたばかりなのに、明日の試乗が待ち遠しい。気持ちが昂っているのを実感した初日だった。

高速道路のサービスエリアはこんな感じ。もちろんは駐車場は舗装されていない。そして休憩したら砂漠を切り開いた道を再び進む。スーパーメテオ650は真っ直ぐ走ることが楽しいクルーザーだ。

異国で感じる黄昏時はなんだかとても神秘的な気持ちになる。黄金の街がどんどん闇に溶け込んでいくと同時に、空気が一気に冷え込んでいく。今回の試乗会には世界各国から60名ほどのジャーナリストが参加。こんな大規模な国際ローンチは初めて。

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