刺激は少ないけど所有感を満たすバイクだった 1992年ヤマハ「SRV250」【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.3】

●文/カタログ画像提供:[クリエイターチャンネル] 柏秀樹 ●外部リンク:柏秀樹ライディングスクール(KRS)
ライディングスクール講師、モータージャーナリストとして業界に貢献してきた柏秀樹さん、実は無数の蔵書を持つカタログマニアというもう一つの顔を持っています。昭和~平成と熱き時代のカタログを眺ていると、ついつい時間が過ぎ去っていき……。そんな“あの時代”を共有する連載です。第3回は、一部で今も“名車”と呼ばれ続けている、空冷V型2気筒のネオクラシックモデル「SRV250」です。
250ccクラスだからといって400ccより安作りでいいわけじゃない
雑誌記者として1980年代から現在までさまざまなニューモデルに試乗してきましたが、走りの刺激度は濃くないけれど走り味や所有感という意味で「こういうバイクって大事だな」と思ったことが少なからずあります。
250ccクラスでは、このSRV250がその代表的な一台でした。
ヤマハ SRV250[1992年モデル] 60度挟角エンジンはXV250ビラーゴのV型2気筒をベースに吸排気系を一新したもの。このクラスとしては異例のロングストローク設定で心地よい走行フィーリングを実現していた。 ■全長2095 全幅720 全高1055(各mm) 車重144kg■空冷4ストロークV型2気筒SOHC2バルブ 248cc 27ps/8500rpm 2.5kg-m/6500rpm ●当時価格:44万9000円
ヤマハのテイスト系といえばSR400でしたが、その弟分とも言える立ち位置でもあるわけで、ビラーゴ250というアメリカンのV型2気筒250ccエンジンを流用して作ったからSRにVを加えて「SRV250」というストレートなネーミングになったわけです。わかりやすいですね。
スタイルは見ての通り。ティアドロップ型のタンクではないけれど、Vツインエンジンを細いパイプで包み込むようなフレームの取り回しとグルリと後方へ流すクロームメッキのメガホン型ショートマフラーが「はい、安く作りましたけど、まあまあでしょう? どうですか?」ではない新たな意欲を感じさせます。フレームをタンクと同色にして、ステンコートボルトを多用するなどSRV250の基本モデルはいかに外観のフィニッシュを大事にするかという点にフォーカスされていたのです。
その意欲とは、典型的なティアドロップ型タンクを持つSR400にはない独自の造形美と塗装、さらには艶やかな各パーツと手に伝わる感触を大事にしているのがすぐに実感できること。速ければいい、軽ければいいという1980年代のレーサーレプリカ全盛時代を経て次の手を打たなければ、という作り手の本気が感じ取れたものです。
そう、250ccといえば400ccバイクよりも、細かなところでコスト削減をしないといけない不文律のような手法があったのですが、SRV250はこれをキッパリやめました。価格設定に相応の上限はあるけれど、飽きさせない! 所有感をいつまでも感じさせる! という大事な性能です。
SRV250のカタログ。
SRV250のカタログ。
それはカタログの紙質やページ数など作りにも表れていて見応え、読み応えがあります。イマドキのバイクカタログはメカニズムなど作り手のこだわりが前面に出ることはありませんが、ハイテクなどひとつもないSRVの作り込みに対するエンジニアの思いをコピーライターがしっかりと代弁しています。歴代SR系のカタログもそうでしたが、SRV250も負けていませんでした。
前後のフェンダーはタンクやフレームと同色ですが、ライダー目線にはクロムメッキのヘッドライトケースや兄貴分のSRX400/600以上に質感のあるツインメーター。さらにはその文字盤の色合いなども今のデジタル表示にはない、まるで本を読むような感覚の文字情報がそこに現れます。凹凸面をできるだけ均一にして十分に塗料がのるよう入念な電着+静電塗装したタンクなどと相まって、250でここまでやるのかと感心しました。
ツートーンカラーのSを追加、さらにマイナーチェンジでシート高アップ
ヤマハはその後にSRV250Sというモデルを追加。塗り分けツートーンタンク、フレームのシルバー塗装、サブタンク別体式リヤショック、コンチネンタルハンドル、メーターバイザー、クロムメッキ板金チェーンケース、専用大型立体エンブレムが標準車と異なっていました。
SRVへの思いをますます強めた作り込みとしては、1993年モデルよりシート厚を10ミリアップさせたこと。
実は、走りの世界観としてヤマハは「面で走る」ことをSRVで強調していました。レーサーレプリカ全盛時代を経て、もはや常識は前後ホイールが17インチだったのに対して、あえて前後輪とも18インチを採用して舵角はあまり入れず、車体全体の傾斜でカーブをおおらかに回ろうという考えを最優先したのです。
クイックに曲がるバイクではなく、エンジンのVツイン鼓動と連動する新しいテイストの提案でした。通常はシートを低くする方が足付き性が良くなって売りやすい。そんな常套手段をあえて採用せず、SRVの走りがわかってくれる人のために何をすべきか、という視点で作り上げたのでした。
「速さ」もいいけど、そもそも250ccもあれば速さは十分にあるじゃないか。だったら今までにない250って創れないだろうか? という思いがそもそもの発想でした。
鉄という素材。内燃機関という機械。そして作り手の美意識。
派手に売れたバイクではないけれど、1980年代のレプリカ全盛を経たからこそ生まれたテイスト満載の250ccロードバイクだったのです。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(柏秀樹)
1969年の袋井テストコース完成が英国車に負けないハンドリングを生んだ ヤマハ初の4サイクルスポーツ車といえば1970年登場のヤマハスポーツ「650 XS-1」です。XS登場の約1年前にデビューしたC[…]
真摯な取り組みから生まれたスズキの良心だった 日本初のナナハンことホンダ「CB750フォア」に対し、GT750は2年後の1971年9月に登場しました。何に感動したかって、低回転のままスルスルっと滑るよ[…]
日本メーカーによる大排気量車ブーム、その先駆けが750フォア 「威風堂々!」 「世界を震撼させた脅威のスペック!」 「日本の技術力を名実ともに知らしめた記念すべき名車!」 1969年デビューのホンダC[…]
カワサキZ400FXを凌ぐため、ホンダの独自技術をフル投入 ホンダが持っている技術のすべてをこのバイクに投入しよう! そんな意欲がヒシヒシと伝わってくるバイク、それが1981年11月に登場したCBX4[…]
美に対する本気度を感じたミドル・シングル ひとつのエンジンでロードモデルとオフロードモデル、クルーザーモデルまでを生み出す例って過去に山ほどありますけど、プランニングからデザインのディテールまでちゃん[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
チャンピオンを生んだ野心作= “J”【カワサキZ1000J】 ロングセールスを誇った名車、Z1。それだけに信頼性もあった心臓部とフレームだが、さすがに1980年代になると抜本的な改良が求められた。 カ[…]
国産車として当時最大の1101ccをマーク【1978 ヤマハXS1100】 ヤマハもカワサキやスズキと同様に、1960年代までは2ストを主体に開発を続けてきたメーカーだ。しかし、自動車エンジン部門では[…]
1998年モデル:初代1300はとにかく巨大だった ヤマハXJR1200、カワサキZRX1100といった、CB1000SFを超える排気量のライバル出現で、ビッグネイキッド界は重厚長大化していった。そん[…]
「マウンテントレール」を提唱した新ジャンル:第一世代セロー225(1985~1989) 初期型セロー225のカタログは、ふたつ折りの中とじ2枚もので計8ページ。静かな山奥を想像させるシンプルな表紙に引[…]
GLの元となった水平6気筒試作車 CB750フォアの発売後、モーターサイクルキングとは何かを探るために試作された1台。ロータリーエンジンのような滑らかさを求めて水平6気筒としたが、ミッションを後ろにつ[…]
最新の関連記事(ヤマハ [YAMAHA])
春からの新生活&バイクライフを応援だ! YZF-R15/YZF-R125/MT125の3機種を対象としたこのキャンペーンは、3月1日(土)〜5月31日(土)の3ヶ月間に、キャンペーン協賛店で前記3機種[…]
エンジンはクランクケースから造り替え、MT的な走りを実現 ヤマハの軽二輪スクーター「NMAX155」がビッグマイナーチェンジ。外観を刷新するとともに、「走行モード切替」や「シフトダウン」を可能にするY[…]
国産車として当時最大の1101ccをマーク【1978 ヤマハXS1100】 ヤマハもカワサキやスズキと同様に、1960年代までは2ストを主体に開発を続けてきたメーカーだ。しかし、自動車エンジン部門では[…]
「マウンテントレール」を提唱した新ジャンル:第一世代セロー225(1985~1989) 初期型セロー225のカタログは、ふたつ折りの中とじ2枚もので計8ページ。静かな山奥を想像させるシンプルな表紙に引[…]
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc 400ccクラスは、普通二輪免許を取ってから間もないビギナーも選ぶことができる排気量帯で、16歳から乗ることができる。 そんな400cc[…]
人気記事ランキング(全体)
いざという時に役に立つ小ネタ「結束バンドの外し方」 こんにちは! DIY道楽テツです。今回はすっごい「小ネタ」ですが、知っていれば間違いなくアナタの人生で救いをもたらす(大げさ?)な豆知識でございます[…]
V3の全開サウンドを鈴鹿で聞きたいっ! ここ数年で最も興奮した。少なくともヤングマシン編集部はそうだった。ホンダが昨秋のミラノショーで発表した「電動過給機付きV型3気筒エンジン」である。 V3だけでも[…]
1978 ホンダCBX 誕生の背景 多気筒化によるエンジンの高出力化は、1960年代の世界GPでホンダが実証していた。多気筒化によりエンジンストロークをショートストトークにでき、さらに1気筒当たりの動[…]
ファイナルエディションは初代風カラーでSP=白×赤、STD=黒を展開 「新しい時代にふさわしいホンダのロードスポーツ」を具現化し、本当に自分たちが乗りたいバイクをつくる――。そんな思いから発足した「プ[…]
ガソリン価格が過去最高値に迫るのに補助金は…… ガソリン代の高騰が止まりません。 全国平均ガソリン価格が1Lあたり170円以上になった場合に、1Lあたり5円を上限にして燃料元売り業者に補助金が支給され[…]
最新の投稿記事(全体)
オートレース宇部 Racing Teamの2025参戦体制 2月19日(水)、東京都のお台場にあるBMW Tokyo Bayにて、James Racing株式会社(本社:山口県宇部市/代表取締役社長:[…]
Schwabing(シュヴァービング)ジャケット クラシックなフォルムと先進的なデザインを合わせた、Heritageスタイルのジャケットです。袖にはインパクトのある伝統的なツインストライプ。肩と肘には[…]
新レプリカヘルメット「アライRX-7X NAKASUGA 4」が発売! 今シーズンもヤマハファクトリーから全日本ロードレース最高峰・JSBクラスより参戦し、通算12回の年間チャンピオンを獲得している絶[…]
小椋&チャントラの若手が昇格したアライヘルメット まずは国内メーカーということで、アライヘルメットから。 KTM陣営に加入、スズキ、ヤマハ、アプリリアに続く異なる4メーカーでの勝利を目指すマー[…]
王道ネイキッドは相変わらず人気! スズキにも参入を熱望したい 共通の775cc並列2気筒を用い、ストリートファイターのGSX-8S、フルカウルのGSX-8R、アドベンチャーのVストローム800系を展開[…]
- 1
- 2